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第十四部・東京日常 編

〝御劔家女子会〟

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『ともかく、マジレスするとタスクさえ泊まらせてくれるなら、僕らはオールオッケーだよ! 一応、ホテルも取るけどね』

『ドイツから色々お土産持ってくよ! あとカスミの誕生日プレゼントに国際郵便を送ったけど、リアルタイムでカスミの喜ぶ顔を見たいから、年末にもセカンドプレゼント持ってくね!』

「セカンドプレゼント……。初耳です」

 思わず突っ込み、次の一文に「ん?」となる。

『マティアスも連れてっていい? まだ抵抗ある? これだけ確認したい』

「うーん……」

 ごろん、とソファの上に横になり、香澄はマティアスについて考えてみる。

「許したのは私だよね。マティアスさんだって土下座するぐらい反省してたし。……それにあの時と今は、色々状況が違う。余裕がなかったあの頃と比べて、今の私は充電期間を経て、佑さんとまた過ごせて幸せで余裕がある」

 呟きながら、香澄はコネクターナウのマティアスとのトークルームを開く。

 最後に会話をしたのは、彼らが謝罪のために来日してドイツに帰っていく日、『お気をつけて』『ありがとう。カスミも元気で』というやり取りをして以来だ。

「今……マティアスさんに会って、『怖い』って思うかな?」

 それは、会ってみないと分からない。

「第一、マティアスさんは基本的には〝いい人〟だよね。あの事だって、エミリアさんに言われて仕方なく……だし。マティアスさんは何とかアイデアをひねって、未遂で終わらせてくれた」

 ここに麻衣がいれば、「犯されそうになったのに、どうしてそうなるの!」と怒るだろう。分かっている。

 それでも香澄は、必要以上に人を憎みたくないと思っている。単純に疲れるからだ。

 麻衣に「お花畑脳」と言われようが、ヘラヘラ笑って色んな人と仲良くしていたい。

 平和に過ごすのが一番パワーを使わない方法で、誰かを激しく恨んだり憎んだりするのは、ストレスが溜まって精神衛生上よろしくない。

 佑一人を愛するだけでも、心のパワーを使って一杯一杯なのに、これ以上誰かに心を割きたくない。

 香澄は自分を、割と大雑把で面倒臭がりだと思っている。

 くよくよ気にするタチな癖に、ある程度悩みが解決したら「面倒だからもういいや」となってしまう。
 悩むだけ悩んで、悩むのに飽きたら、ポーンと手放すタイプだ。

「意外と会ってみたら、全然大丈夫かもしれないし……」

 ポジティブに考えると、いけるような気がしてきた。

「いつまでも引きずって、変な距離感のままなのも、やだな。マティアスさんとしても、一度話す機会を設けたほうが安心するんじゃないかな。実際会わないのに、あれこれ考えても仕方ないし。きっと、こんなに悩んでいても、会えばすぐ解決するかもしれない」

 そこまで言って、ムクリと起き上がる。

「あー……。でも佑さんが渋りそうかな。あの人過保護だもんなぁ。……でも、言いたい事は言うって決めた。言いなりの関係じゃなくて、きちんと意見を言える婚約者にならなきゃ」

 うんうん、と一人で頷いたあと、香澄はカップに残っていたカフェオレを飲み干して、洗面所に向かった。



**




 一旦外出する事にし、久住に連絡する。

 彼からは『ホテルに着きましたらご連絡しますので、待機願えますか?』とメッセージがあった。

 外出の用意をしたあと、香澄はラウンジカフェでぼんやり過ごしていた。

 例に漏れずカフェオレを飲んでいると、ピコンとスマホに通知が入った。

 アプリを見てみると、〝御劔家女子会〟というトークルームに澪から連絡が入っていた。

 ちなみに澪のアイコンは、お洒落な彼女らしく香水の写真だ。

『ヨーロッパから帰ったって聞いたんだけど、もう大丈夫? っていうか、誕生日だったんだってね? 佑ったら教えてくれるの遅くない!? 幾ら自分が当日に独り占めしたいからって、酷いんだけど』

 憤慨する彼女が目に浮かぶようで、香澄は思わず笑顔になる。

 すると、陽菜からもメッセージが入った。
 彼女のアイコンは、ショートケーキだ。

『香澄さん、お誕生日おめでとうございます。私、今まで澪さんと連絡をしていたんです。午後になったらお茶する予定で、丁度二人とも今日は休みなんです』

 澪と陽菜は性格が正反対だが、仲良くやっているようだ。

 陽菜からのメッセージはまだ続く。

『ご多忙かと思いますが、もし良かったら一時間だけでもお茶しませんか?』

(嬉しい!)

 御劔家の人たちとうまくやっていけたらいいな、と思いつつ、どんな距離感で接したらいいのか、いまだ試行錯誤中だ。

 だからこうやって誘ってもらえると、シンプルに嬉しい。
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