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第十四部・東京日常 編

忘れていた記念日

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「ただの二十八歳の誕生日だよ? 三十歳になった時はどうするの?」

 香澄はヒョイと佑の腕から抜け出し、ソファに座るとパンプスを脱ぎ、横座りをする。

「香澄? 分かってないみたいだけど、一年前の今日何をしてた?」

 隣に座った佑に言われ、香澄は「んー」と濃厚すぎるこの一年を振り返る。

「去年の誕生日はまだ札幌にいて……あっ、あーっ!!」

 まさに去年の今日、佑に出会った日だと思いだして、香澄は大きな声を出した。

 目をまん丸にして佑を見ると、脱力した彼に「遅いよ……」と突っ込まれる。

「もしかして記念日とか覚えないタチか?」

「えっ? そ、そんな事ないよ? 佑さんのお誕生日だって覚えてる。六月三十日」

「でも出会った日を覚えていないのは、少し寂しい。しかも自分の誕生日っていう分かりやすい日だぞ」

 じと……とした目を向けられ、言葉に詰まる。

「ご、ごめんなさい……」

 謝った彼女の頭をポンポンと撫でた佑は、隣に座ってしみじみと呟く。

「……早かったなぁ……色々……」

 二人してリビングのシャンデリアをぼんやり見ていると、佑が苦笑いした。

「一目惚れだったからな。どうしても『手放したくない』『ここで逃がしたら駄目だ』って本能的に思った」

 出会った時はもっとサラリとした人だと思っていたのに、気が付けば立派な執着ヤンデレに育っている。
 そんな彼が愛しくて、香澄は笑う。

「何もかも、順番が違ったよな。ごめん。本当はもっと付き合うのに時間をかけて、ちゃんと告白して東京に来てもらって同棲……って、手順を踏むべきだった」

「ううん、そんな事ない」

 首を横に振るが、佑は少し苦く笑う。

「香澄は〝常識〟を気にする人だから、そうしたほうが不安を与えなかっただろう。……でも、俺たちの出会いが間違えていたと思いたくない。色んな出会い方、付き合い方があって、その中の一つ……ただそれだけなんだ」

 色々言ったあとに「間違えていない、反省していない」と言われ、香澄はプハッと笑いだした。

「佑さんのそういうところ、好きだよ」

「……変か? 俺は割と、自分は普通の愛し方をしていると思うんだけど」

 きょとんとする彼を見て、香澄はますます笑う。

「一年でこんな立派なヤンデレに育っておいて、〝普通〟って言うんだもんなぁ……。おっかしい」

 ケタケタと笑う香澄を見て、佑はポカンとしている。

「……そんなに変だろうか?」

 彼の微笑みがやや引き攣っているのは、本気で自分は〝まとも〟に香澄を愛していると思っているからだろう。

「笑ってごめん。……んー、でも普通の人は据わった目で『地下室を作って閉じ込めたい』とか言わないと思うよ。普通、恋人が言う事を聞かなかったら、怒って喧嘩するとか『出てけ』って言うもの。佑さんは何があっても私を手放そうとしないし、監禁できる実行力と財力がある。だから悪いけど〝普通〟じゃないの」

 スッパリ言うと、佑は指で眉間を揉んで何やら考え込んでしまった。
 けれどそれほど経たず顔を上げると、香澄を見つめてくる。

「香澄はそういう俺が好きなんだろう?」

「うん。少しでも『いや』とか『無理』とか思ったら、結婚しようって思わないもの。……それに私も、佑さんにこうやってがんじがらめに愛されるの、嫌いじゃないし」

 照れくさそうに笑ってみせた香澄の表情を見て、佑は安心したように頷いた。

「よし、じゃあこの件では悩まない。もうこの歳になって性格も愛し方も変えられないだろうし、香澄に嫌われないなら多少変でも構わない」

 その振り切った考え方がおかしくて、愛しくて、香澄はまたクスクス笑う。

「仕方がないから、そんな佑さんを私が一生愛してしんぜよう」

 香澄は冗談めかした言い方をし、つんつんと佑の胸元をつついた。

「じゃあ……抱っこさせてくれ」

 佑が組んでいた脚を戻したので、香澄は一度立つと佑の腰を跨いで向かい合わせに座った。

「あ……、ニットワンピ伸びちゃう」

「じゃあ、こうしておけば?」

 佑がニットワンピースの裾をたくし上げ、腰まで上げてしまう。

 そのまま香澄のお尻を撫でて、顔を覗き込みガーターベルトをパチンと弾く。

 特別な日だからとはいえ、ガーターベルトとストッキングで完全装備してきたのを知られると、さすがに恥ずかしい。

 香澄はとっさに言い訳をしていた。

「え……えっと! これは、あの……特別な日だし……」

 ガーターベルトにガーターストッキング、Tバックは、今になっても〝大人の下着〟というイメージがある。

 けれど「佑さんが興奮するなら……」と、ガーターセットをつけ、チーキーを穿いた。
 チーキーはTバックよりは布地があるが、半分ぐらいはお尻が出ている下着だ。

「ふぅん? ありがとう。何だか俺の誕生日みたいだ」

 佑は香澄の張りのあるヒップを撫で、早くもご満悦だ。
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