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第十三部・イタリア 編

ミッションコンプリート

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「これって……このサイズは絵?」

「佑さんの事だから、名画でも買ったのかな」と、ビクビクして箱を開けると――。

「あ……あぁっ!?」

 出てきたのは、一面の桜が描かれた風景イラストだ。

「これって……私が『綺麗』って言ったイラストレーターさんの絵!?」

 以前に『Pictures』というイラストSNSで、とても美しい風景イラストを見つけた。

 そして佑に「見て見て、素敵でしょ」とスマホを見せ、「電子のイラストじゃなくて、本物を目の前で見たいなぁ……」と呟いたのを覚えている。

 まさかそれが実現してしまうとは。

「……恐ろしい行動力……」

 カードには、佑の字でこうある。

『香澄の好きなイラストレーターにコンタクトして、香澄が気に入っていた作品と似た雰囲気の、一点物を描いてもらいました。シルクスクリーン印刷をして、額縁はイラストレーターの意見も聞いて、数点の候補から選んで一番相性のいい物にしました。香澄の心にいつでも安らぎと幸せをもたらしてくれますように』

 佑が書いた通り、絵の額縁は美しい飴色の木製額縁で、内側にさりげない金縁もあって絵を引き立てている。

「凄いなぁ……」

 溜め息混じりに言い、香澄はうっとりと桜のイラストを見る。

「これは予想外だった……。……でも、嬉しい。あとで飾ろうっと」

 にまにまして絵をしまってから、「残り二つは何だろう?」と首を傾げる。

 ドレッサーの上もくまなく見たが、今回はコスメ関係はないようだ。

 部屋の四隅も確認し、ラグマットをめくって「あっ」と声を上げた。
 ラグマットを元に戻すと、普段あまり踏まない部分が微かに盛り上がっている。

「……目の付けどころが違う!」

 思わず突っ込んだあと、佑の芸の細かさに感心した。

 リボンが掛けられた薄い箱を開くと、中からホテルの名前が刻印された、黒光りする物騒なカードが出てきた。

「なに……これ……」

 箱の中には手紙があり、そこにもやはり佑のメッセージがある。

『ザ・エリュシオン東京のスイートを年単位で借りました。香澄に会う前に一人で骨休みに使っていたホテルなので、色々融通が利きます。友達を呼びたい時、たまに家出したい時など、自由にどうぞ。このカードを出せばホテル内で支払いは必要ありません。ちなみに麻衣さんが東京に来た時は、彼女さえ良ければうちに招待したいと思っています』

「……スケールの大きさ!」

 思わずお笑い芸人のように突っ込み、香澄は両手で頭を抱える。

「さすがに高級ホテルのスイートは重いです……!!」

 拳でラグマットをどんどんと叩き、香澄は本気で悩む。

「……でも、もう借りちゃったんでしょう? ……あああ。使わないともったいないじゃない」

 はぁー……と大きな溜め息をついたあと、残る一つのありかを考える。

 ラグマットの下にあったなら……と、首を巡らせたのはベッドだ。
 低反発のオーダーメイド枕をそっと捲ると……。

「あった……」

 小箱があり、香澄は宝探しミッションのコンプリートを果たす。

 覚悟を決めて小箱を開けると、佑の手紙と一緒に鍵が入っていた。

「鍵……?」

 カサリと手紙を開き、香澄は絶句する。

『香澄はいま免許を持っていないけれど、いつか取った時のために、初めてでも運転しやすい車を買っておきました。ガレージの一番端にスマイルの赤いフォーフォーがあります。乗りやすいらしいので買いました。いつか乗るもよし、俺が運転して香澄が助手席に乗るもよし、香澄の車なので好きに使ってください』

「……車……」

 香澄はガクッとベッドの上に突っ伏し、「はぁぁ……」と溜め息をつく。

 スマイルと言えば海外の車メーカーだ。

 以前アドラーたちと話していた時に話題にでたが、クラウザー社の完全子会社らしい。

「……ちょっと……見に行ってみよっか……」

 香澄は車のキーを持って一階に下り、サンダルを履いて、玄関脇にあるドアからガレージに向かう。

 ガレージにはずらりと佑が所有している国産、海外問わずの高級車が並んでいるが、一番端に小ぶりな赤い車が停まっていた。

「……可愛い……」

 赤くツヤツヤとした車は、軽自動車というには大きく、普通乗用車というにはコンパクトで、確かに小回りが利きそうだ。

 香澄はいつも助手席か後部座席専門なので、車の操作に慣れていない。

 運転手の真似をして車のキーについているボタンを押すと、ガチャッとドアロックが外れた。
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