上 下
835 / 1,550
第十三部・イタリア 編

ここ掘れワンワン

しおりを挟む
 もらったプレゼントの値段を考えるのは失礼だ。

 それでも「たかが二十八歳の誕生日なのに、こんなにお金を使わなくても……」と恐ろしくなっている。

 誕生日で盛大に祝うと言えば、高齢になってからの○○寿というイメージがある。
 だからなぜ中途半端な年齢なのに、こんなに祝われるのか不思議でならない。

 しかしそれが御劔クオリティだ。

 諦めを感じながら一階に降り、シューズクローゼットのドアを開くと、やはりそこにも紙袋がある。

「……これは……ブーツかな……?」

 ラッピングをとると、『サルテル』とフランス語で書かれてある。

「……知らないブランドだ」

 シューズボックスの蓋を開けて薄紙を避けると、美しく艶めいたキャメルのロングブーツが入っていた。

「わぁ、綺麗……」

 高級な洋館の、磨き抜かれて使い込まれた木の家具のようにも見える色だ。
 艶やかなロングブーツを履いてみると、やはりピッタリだ。

 姿見の前に立った香澄は、思わず微笑んだ。

「すごい……。何だか脚が綺麗になったように見える」

 鏡を見ながらクルリと一回転してみて、香澄はニマニマしつつブーツを箱に戻す。

「綺麗だけど……ブーツなら一、二万ぐらいかな? これなら……」

 そういう香澄の推測は大ハズレで、こちらも十万円弱する代物だ。

 ブーツはシューズクローゼットにしまうので、そのまま置いておく事にした。

「さて……。ん?」

 玄関から家の中を向いたところで、正面にあるフラワーアレンジメントの花瓶の側に小さな箱を見つけた。

「これは……」

 包みは先ほどのロードライトガーネットと同じ物だ。
 覚悟を決めてパカリと箱を開けると、先ほどのロードライトガーネットのイヤリングが入っていた。

「はぁー……。綺麗……」

 台座から一つ外して空中にかざしてみると、昼の光を反射して深い紅とキャンディーのような薄い赤とがキラキラと輝く。

 石も耳たぶに当たる部分に大ぶりの物が一つあり、そこから小ぶりの石を一つ挟んでティアドロップの石がぶらさがり、揺れるデザインだ。

「……社長、これを普段づけしろっていうのは流石に無理ですよ……」

 一人ボソリと佑に突っ込んだあと、イヤリングに向かって両手をあわせ、なむなむと拝んだ。

 リビングに入ると、斎藤はキッチンに立ちお菓子を作っているようだ。

「宝探しは順調ですか?」

「……ここ掘れワンワンするほど、お宝がざっくざっく出て戸惑っている、一般家庭のミックス犬の気分です……」

 香澄の困り切った顔と言葉に、斎藤は朗らかに笑った。

「これで……十五くらいのはずだから、まだ十三ある。ひぇぇ……」

「頑張って全部探してください。終わったら一緒におやつを食べましょう。夕食は御劔さんとディナーですから、少しなら問題ないはずです」

「はい、おやつを励みにします!」

 ぐっと拳を握り、香澄はリビングをうろうろしだす。

「んー、おや」

 視線をテレビのほうにやった時、液晶テレビの両脇にあるトールボーイスピーカーの上にまた小箱を見つけた。

「……はい、三点セットですね」

 こちらもロードライトガーネットシリーズと同じ包装紙だ。
 思った通り開けてみると、大粒のロードライトガーネットのペンダントがあった。

「……うん、きっとこれで宝石シリーズは終わり」

 ペンダントに向かってまたなむなむと拝むと、ぐるりとリビングを見回し、フェリシアがリボンをつけているのに気が付いた。
 正確には、フェリシアの下にリボンが掛かった箱がある。

「ちょっとごめんね、フェリシア」

『どういたしまして、カスミさん』

 律儀に返事をしてくれるフェリシアに思わず笑い、カスミは正方形の箱のラッピングを解く。

「おお……。ヘッドフォン」

(でもなんでヘッドフォン……)

 そう思ってメーカーの名前を見た時にハッとした。

(これ、クラシック聞くのに適してるらしい……って私が一回口走ったやつだ)

 スマホを見ながら、たった一回佑に言ったのは結構前だ。

 佑の記憶力に、感謝より寒気を覚える。
しおりを挟む
感想 556

あなたにおすすめの小説

社長室の蜜月

ゆる
恋愛
内容紹介: 若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。 一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。 仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。

上司は初恋の幼馴染です~社内での秘め事は控えめに~

けもこ
恋愛
高辻綾香はホテルグループの秘書課で働いている。先輩の退職に伴って、その後の仕事を引き継ぎ、専務秘書となったが、その専務は自分の幼馴染だった。 秘めた思いを抱えながら、オフィスで毎日ドキドキしながら過ごしていると、彼がアメリカ時代に一緒に暮らしていたという女性が現れ、心中は穏やかではない。 グイグイと距離を縮めようとする幼馴染に自分の思いをどうしていいかわからない日々。 初恋こじらせオフィスラブ

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

身分差婚~あなたの妻になれないはずだった~

椿蛍
恋愛
「息子と別れていただけないかしら?」 私を脅して、別れを決断させた彼の両親。 彼は高級住宅地『都久山』で王子様と呼ばれる存在。 私とは住む世界が違った…… 別れを命じられ、私の恋が終わった。 叶わない身分差の恋だったはずが―― ※R-15くらいなので※マークはありません。 ※視点切り替えあり。 ※2日間は1日3回更新、3日目から1日2回更新となります。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

若社長な旦那様は欲望に正直~新妻が可愛すぎて仕事が手につかない~

雪宮凛
恋愛
「来週からしばらく、在宅ワークをすることになった」 夕食時、突如告げられた夫の言葉に驚く静香。だけど、大好きな旦那様のために、少しでも良い仕事環境を整えようと奮闘する。 そんな健気な妻の姿を目の当たりにした夫の至は、仕事中にも関わらずムラムラしてしまい――。 全3話 ※タグにご注意ください/ムーンライトノベルズより転載

ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~

菱沼あゆ
恋愛
念願のランプのショップを開いた鞠宮あかり。 だが、開店早々、植え込みに猫とおばあさんを避けた車が突っ込んでくる。 車に乗っていたイケメン、木南青葉はインテリアや雑貨などを輸入している会社の社長で、あかりの店に出入りするようになるが。 あかりには実は、年の離れた弟ということになっている息子がいて――。

『逃れられない淫らな三角関係』番外編 ヘルプラインを活用せよ!

臣桜
恋愛
『逃れられない淫らな三角関係』の番外編です。 やりとりのある特定の読者さまに向けた番外編(小冊子)です。 他にも色々あるのですが、差し障りのなさそうなものなので公開します。 (他の番外編は、リアルブランド名とかを出してしまっている配慮していないものなので、ここに載せるかは検討中)

処理中です...