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第十三部・イタリア 編

ここ掘れワンワン

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 もらったプレゼントの値段を考えるのは失礼だ。

 それでも「たかが二十八歳の誕生日なのに、こんなにお金を使わなくても……」と恐ろしくなっている。

 誕生日で盛大に祝うと言えば、高齢になってからの○○寿というイメージがある。
 だからなぜ中途半端な年齢なのに、こんなに祝われるのか不思議でならない。

 しかしそれが御劔クオリティだ。

 諦めを感じながら一階に降り、シューズクローゼットのドアを開くと、やはりそこにも紙袋がある。

「……これは……ブーツかな……?」

 ラッピングをとると、『サルテル』とフランス語で書かれてある。

「……知らないブランドだ」

 シューズボックスの蓋を開けて薄紙を避けると、美しく艶めいたキャメルのロングブーツが入っていた。

「わぁ、綺麗……」

 高級な洋館の、磨き抜かれて使い込まれた木の家具のようにも見える色だ。
 艶やかなロングブーツを履いてみると、やはりピッタリだ。

 姿見の前に立った香澄は、思わず微笑んだ。

「すごい……。何だか脚が綺麗になったように見える」

 鏡を見ながらクルリと一回転してみて、香澄はニマニマしつつブーツを箱に戻す。

「綺麗だけど……ブーツなら一、二万ぐらいかな? これなら……」

 そういう香澄の推測は大ハズレで、こちらも十万円弱する代物だ。

 ブーツはシューズクローゼットにしまうので、そのまま置いておく事にした。

「さて……。ん?」

 玄関から家の中を向いたところで、正面にあるフラワーアレンジメントの花瓶の側に小さな箱を見つけた。

「これは……」

 包みは先ほどのロードライトガーネットと同じ物だ。
 覚悟を決めてパカリと箱を開けると、先ほどのロードライトガーネットのイヤリングが入っていた。

「はぁー……。綺麗……」

 台座から一つ外して空中にかざしてみると、昼の光を反射して深い紅とキャンディーのような薄い赤とがキラキラと輝く。

 石も耳たぶに当たる部分に大ぶりの物が一つあり、そこから小ぶりの石を一つ挟んでティアドロップの石がぶらさがり、揺れるデザインだ。

「……社長、これを普段づけしろっていうのは流石に無理ですよ……」

 一人ボソリと佑に突っ込んだあと、イヤリングに向かって両手をあわせ、なむなむと拝んだ。

 リビングに入ると、斎藤はキッチンに立ちお菓子を作っているようだ。

「宝探しは順調ですか?」

「……ここ掘れワンワンするほど、お宝がざっくざっく出て戸惑っている、一般家庭のミックス犬の気分です……」

 香澄の困り切った顔と言葉に、斎藤は朗らかに笑った。

「これで……十五くらいのはずだから、まだ十三ある。ひぇぇ……」

「頑張って全部探してください。終わったら一緒におやつを食べましょう。夕食は御劔さんとディナーですから、少しなら問題ないはずです」

「はい、おやつを励みにします!」

 ぐっと拳を握り、香澄はリビングをうろうろしだす。

「んー、おや」

 視線をテレビのほうにやった時、液晶テレビの両脇にあるトールボーイスピーカーの上にまた小箱を見つけた。

「……はい、三点セットですね」

 こちらもロードライトガーネットシリーズと同じ包装紙だ。
 思った通り開けてみると、大粒のロードライトガーネットのペンダントがあった。

「……うん、きっとこれで宝石シリーズは終わり」

 ペンダントに向かってまたなむなむと拝むと、ぐるりとリビングを見回し、フェリシアがリボンをつけているのに気が付いた。
 正確には、フェリシアの下にリボンが掛かった箱がある。

「ちょっとごめんね、フェリシア」

『どういたしまして、カスミさん』

 律儀に返事をしてくれるフェリシアに思わず笑い、カスミは正方形の箱のラッピングを解く。

「おお……。ヘッドフォン」

(でもなんでヘッドフォン……)

 そう思ってメーカーの名前を見た時にハッとした。

(これ、クラシック聞くのに適してるらしい……って私が一回口走ったやつだ)

 スマホを見ながら、たった一回佑に言ったのは結構前だ。

 佑の記憶力に、感謝より寒気を覚える。
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