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第十三部・イタリア 編
根回し
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「隠しておいても仕方がないが、フェルナンドと名乗りスペインで海運会社をやっているという男に、香澄がコナを掛けられた。近付かないように釘を刺して、すぐマドリードに移動したから、何もないはずだが……」
『ふむ……。香澄さんはどうも魅力的すぎるようだな』
電話の向こうからアドラーの笑い声が聞こえ、佑は苛立ちを覚える。
「笑い事じゃない。こっちはいつもヒヤヒヤしているんだ。いい女だから男が群がるに決まっているだろう」
『それに彼女は、善人すぎるきらいがあるし、お菓子でも出されたら初対面でもついて行きそうだしな』
「…………」
佑は香澄がカカオ・タンパカの店に連れて行かれた事を思いだし、頭が痛くなる。
「……香澄を三歳児みたいに言わないでくれ」
『はは、いま少し黙ったという事は、ある程度認めているんだな?』
愉快そうなアドラーに、佑はますます腹を立てる。
「オーパ」
『分かった、分かった。すまない。お前が私に対して、また感情を表してくれるようになったのが嬉しくてつい』
エミリアの件があってアドラーに他人以上に冷たく当たっていた事を思い出し、佑は「まったく……」と毒づく。
「話を戻すが、アベラルドのCEOが偽名を使ったのだとして、彼に黒い噂がないか調べておいてくれ。俺も知り合いにそれとなく当たってみる」
『分かった』
「……話は大体こんな感じだ。また手を患わせるが、……頼む。もう二度とあんな思いをしたくない」
『承知した。私も今度こそ香澄さんを一族の一員として、本気で守ろう』
「じゃあ、オーマを大切に」
『分かった。今度こちらに来る時は、必ず寄ってくれ』
「ああ、分かった。じゃあ」
佑は電話を切り、書斎のアーロンチェアに背中を預けて溜め息をつく。
そのあとも、香澄の存在をなるべく伏せて、世界中の知り合いに「御劔佑を恨んでいる者がいたら、些細な事でもいいから知らせてほしい」という連絡をしておいた。
アドラーは身内なので即電話をしたが、佑の友人は世界中にいるので、時差もそれぞれバラバラだ。
各言語でメールを打ち、それに一言二言、個人間で知る話題や世間話をつけ加え、〝久しぶりに届いた友人からのメール〟を装って送信した。
佑の友人たちも誰かから恨まれる立場にあるので、気持ちを分かってくれるだろう。
友人であり敵に回したら厄介な佑の頼み事となれば、情報をくれると期待している。
仮に何も情報がないとしても、「相変わらず大変そうだな」という返事と相手の近況が多少知れるならよしとする。交流もビジネスの一つだ。
「あ……、もう二十二時近くか」
パソコンに向かってから一時間近く経っている。
香澄を放置してしまったと思いだした佑は、気持ちを切り替えて立ち上がった。
リビングに下りると、香澄はバラエティ番組を見て笑っていた。
その平和な後ろ姿に、思わず笑みが零れる。
堪らなく愛しくなって、佑はシャッター音の鳴らないカメラアプリでその後ろ姿を撮った。
そのまま香澄の背後に忍び寄り、後ろからにゅっと手を伸ばして香澄の胸をパフッと包んだ。
「わっ、びっくりした」
「お待たせ」
ソファの背もたれを跨いで香澄の隣に座ると、彼女がピトリとくっついてくる。
「失礼しまーす」
そう言って香澄は隣に座ったまま、片脚で佑の太腿を跨いでくる。
何の遊びか分からない佑は、キョトンとして彼女を見た。
「キャバクラってこうするんだって。テレビでやってた」
「……っごふっ」
突然出たキャバクラという単語に、佑は噎せかけた。
「ねぇねぇ、家庭内キャバクラ嬉しい?」
香澄はニヤニヤと笑って顔を覗き込み、実に楽しそうだ。
「……週末にそういう〝ごっこ〟をしてくれるなら、楽しみにしてるけど」
「あ、面白いかもね。佑さんが海外で買ってくれた、ちょっと露出の高いドレス着て、お酒作ってあげよっか」
「香澄がキャストなら俺は絶対に他の店に行かないな」
「ふふふ、まったまたー、御劔社長ったら」
「香澄は? 俺が……んー、そうだな。執事喫茶とか添い寝彼氏とかやってたら?」
お遊びで〝たとえば〟を提案すると、香澄が食いついてきた。
『ふむ……。香澄さんはどうも魅力的すぎるようだな』
電話の向こうからアドラーの笑い声が聞こえ、佑は苛立ちを覚える。
「笑い事じゃない。こっちはいつもヒヤヒヤしているんだ。いい女だから男が群がるに決まっているだろう」
『それに彼女は、善人すぎるきらいがあるし、お菓子でも出されたら初対面でもついて行きそうだしな』
「…………」
佑は香澄がカカオ・タンパカの店に連れて行かれた事を思いだし、頭が痛くなる。
「……香澄を三歳児みたいに言わないでくれ」
『はは、いま少し黙ったという事は、ある程度認めているんだな?』
愉快そうなアドラーに、佑はますます腹を立てる。
「オーパ」
『分かった、分かった。すまない。お前が私に対して、また感情を表してくれるようになったのが嬉しくてつい』
エミリアの件があってアドラーに他人以上に冷たく当たっていた事を思い出し、佑は「まったく……」と毒づく。
「話を戻すが、アベラルドのCEOが偽名を使ったのだとして、彼に黒い噂がないか調べておいてくれ。俺も知り合いにそれとなく当たってみる」
『分かった』
「……話は大体こんな感じだ。また手を患わせるが、……頼む。もう二度とあんな思いをしたくない」
『承知した。私も今度こそ香澄さんを一族の一員として、本気で守ろう』
「じゃあ、オーマを大切に」
『分かった。今度こちらに来る時は、必ず寄ってくれ』
「ああ、分かった。じゃあ」
佑は電話を切り、書斎のアーロンチェアに背中を預けて溜め息をつく。
そのあとも、香澄の存在をなるべく伏せて、世界中の知り合いに「御劔佑を恨んでいる者がいたら、些細な事でもいいから知らせてほしい」という連絡をしておいた。
アドラーは身内なので即電話をしたが、佑の友人は世界中にいるので、時差もそれぞれバラバラだ。
各言語でメールを打ち、それに一言二言、個人間で知る話題や世間話をつけ加え、〝久しぶりに届いた友人からのメール〟を装って送信した。
佑の友人たちも誰かから恨まれる立場にあるので、気持ちを分かってくれるだろう。
友人であり敵に回したら厄介な佑の頼み事となれば、情報をくれると期待している。
仮に何も情報がないとしても、「相変わらず大変そうだな」という返事と相手の近況が多少知れるならよしとする。交流もビジネスの一つだ。
「あ……、もう二十二時近くか」
パソコンに向かってから一時間近く経っている。
香澄を放置してしまったと思いだした佑は、気持ちを切り替えて立ち上がった。
リビングに下りると、香澄はバラエティ番組を見て笑っていた。
その平和な後ろ姿に、思わず笑みが零れる。
堪らなく愛しくなって、佑はシャッター音の鳴らないカメラアプリでその後ろ姿を撮った。
そのまま香澄の背後に忍び寄り、後ろからにゅっと手を伸ばして香澄の胸をパフッと包んだ。
「わっ、びっくりした」
「お待たせ」
ソファの背もたれを跨いで香澄の隣に座ると、彼女がピトリとくっついてくる。
「失礼しまーす」
そう言って香澄は隣に座ったまま、片脚で佑の太腿を跨いでくる。
何の遊びか分からない佑は、キョトンとして彼女を見た。
「キャバクラってこうするんだって。テレビでやってた」
「……っごふっ」
突然出たキャバクラという単語に、佑は噎せかけた。
「ねぇねぇ、家庭内キャバクラ嬉しい?」
香澄はニヤニヤと笑って顔を覗き込み、実に楽しそうだ。
「……週末にそういう〝ごっこ〟をしてくれるなら、楽しみにしてるけど」
「あ、面白いかもね。佑さんが海外で買ってくれた、ちょっと露出の高いドレス着て、お酒作ってあげよっか」
「香澄がキャストなら俺は絶対に他の店に行かないな」
「ふふふ、まったまたー、御劔社長ったら」
「香澄は? 俺が……んー、そうだな。執事喫茶とか添い寝彼氏とかやってたら?」
お遊びで〝たとえば〟を提案すると、香澄が食いついてきた。
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