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第十三部・イタリア 編
不審電話の報告
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運動靴をジム内の靴箱に戻し、一度私室に戻って着替えを取ってからバスルームに向かった。
なるべく急いでも、肌の手入れやドライヤーなどの時間を込めると、四十分ほど掛かってしまった。
慌ててリビングに向かい、ソファに座っている佑に謝る。
「ごめんね、遅くなって」
「いや、全然大丈夫だよ」
佑は着替えてロングTシャツにジーンズ姿になり、キッチンでは斎藤が夕食を温めていた。
「斎藤さん、今日はなんですか?」
「純和食はお召し上がり頂いたので、みんな大好きオムライスにしようと思いまして」
「やったー!」
例に漏れず、香澄もハンバーグ、カレー、オムライス、唐揚げ、寿司、ラーメンなど、万人受けするラインナップが大好きだ。
「ふわとろのではなく、昔ながらのでいいですよね?」
「はい。家庭の味が一番好きなんです」
「分かります」
香澄はまた斎藤と笑い合う。
「何か手伝いますか?」
「すぐ終わりますから休んでいてください」
そう言われて、また水を飲んでから佑の隣に座った。
「会社どうだった?」
「何も変わらないよ。とりあえず顔見せがてらに台車にお土産載せて配って歩いたら、皆喜んでた」
「あはは! 確かにそれは喜ぶ」
「あの三人もそうだし、あちこちから『赤松さんはどうですか?』って訊かれたよ」
「心配……してくれてた?」
「もちろん。来週から復帰するって伝えたら、みんな安心した顔をしていた」
ポンポンと頭を撫でられ、香澄はグッと気合いを入れる。
「社長、ちゃんと働きます!」
「ん」
「あ、そうだ」
「ん?」
「トレーニング始める前、変な電話が掛かってきたの」
「……誰から?」
佑はタブレットをテーブルの上に置き、座り直すと正面から顔を覗き込んでくる。
「分からない。出なかった。ただ、プラスマークがついてたから、海外からだったと思う。そのまま着信拒否にしちゃったから、詐欺電話なのか調べる事もできなくて……。駄目だね、ビビっちゃった。秘書ならもっと冷静に判断すべきなのに」
正直に話すと、佑はひとまず何もなかった事に安堵して息をつく。
「……いや、その判断で正解だ。ありがちな詐欺でも、相手は使い捨ての端末を使っていると思う。間違い電話ならそれに越した事はないが、今後も怪しいと思った電話には出ないで。いいね?」
「はい」
話して良かった、と安堵した時、佑も表情を緩めた。
「教えてくれてありがとう。兆候が分かっていたら、先に根回しできる」
「心当たりでもあるの?」
「……いや」
佑は難しそうな顔をして脚を組み、何も映っていない大画面のテレビを睨む。
「……もう二度とあんな思いはしたくない。そのためなら前もって方々に頭を下げてでも、大事なものを守ってみせる」
一人呟くように言った佑の言葉に、香澄は胸の奥がギュッと掴まれたような感覚になった。
「そんな顔をしないでくれ。もともと俺が周りに敵を作るやり方をしていたのが悪いんだ」
また頭を撫でられ、香澄は不思議そうに佑を見る。
「……そんなお仕事の仕方をしてたの? 今も?」
「汚い事はしていない。ただ、あまりにも会社が急成長したから、その裏で蹴落とされたと感じる人はいただろう。今までも脅迫状や電話、メールを受けた事はあるし、問い合わせを受ける総務部からも相談がきている。ただ、誓って言えるのは、香澄に顔向けできないような事は決してしていない。それだけは信じてほしい」
「……分かった。私だって覚悟なしに佑さんと結婚しようなんて思っていないもの。女性からの嫉妬はもちろん、Chief Everyっていう大企業の経営者を、秘書として守る役目だってある」
しっかりと佑の目を見て覚悟を口にしたが、彼は切なげに目を細め首を横に振った。
なるべく急いでも、肌の手入れやドライヤーなどの時間を込めると、四十分ほど掛かってしまった。
慌ててリビングに向かい、ソファに座っている佑に謝る。
「ごめんね、遅くなって」
「いや、全然大丈夫だよ」
佑は着替えてロングTシャツにジーンズ姿になり、キッチンでは斎藤が夕食を温めていた。
「斎藤さん、今日はなんですか?」
「純和食はお召し上がり頂いたので、みんな大好きオムライスにしようと思いまして」
「やったー!」
例に漏れず、香澄もハンバーグ、カレー、オムライス、唐揚げ、寿司、ラーメンなど、万人受けするラインナップが大好きだ。
「ふわとろのではなく、昔ながらのでいいですよね?」
「はい。家庭の味が一番好きなんです」
「分かります」
香澄はまた斎藤と笑い合う。
「何か手伝いますか?」
「すぐ終わりますから休んでいてください」
そう言われて、また水を飲んでから佑の隣に座った。
「会社どうだった?」
「何も変わらないよ。とりあえず顔見せがてらに台車にお土産載せて配って歩いたら、皆喜んでた」
「あはは! 確かにそれは喜ぶ」
「あの三人もそうだし、あちこちから『赤松さんはどうですか?』って訊かれたよ」
「心配……してくれてた?」
「もちろん。来週から復帰するって伝えたら、みんな安心した顔をしていた」
ポンポンと頭を撫でられ、香澄はグッと気合いを入れる。
「社長、ちゃんと働きます!」
「ん」
「あ、そうだ」
「ん?」
「トレーニング始める前、変な電話が掛かってきたの」
「……誰から?」
佑はタブレットをテーブルの上に置き、座り直すと正面から顔を覗き込んでくる。
「分からない。出なかった。ただ、プラスマークがついてたから、海外からだったと思う。そのまま着信拒否にしちゃったから、詐欺電話なのか調べる事もできなくて……。駄目だね、ビビっちゃった。秘書ならもっと冷静に判断すべきなのに」
正直に話すと、佑はひとまず何もなかった事に安堵して息をつく。
「……いや、その判断で正解だ。ありがちな詐欺でも、相手は使い捨ての端末を使っていると思う。間違い電話ならそれに越した事はないが、今後も怪しいと思った電話には出ないで。いいね?」
「はい」
話して良かった、と安堵した時、佑も表情を緩めた。
「教えてくれてありがとう。兆候が分かっていたら、先に根回しできる」
「心当たりでもあるの?」
「……いや」
佑は難しそうな顔をして脚を組み、何も映っていない大画面のテレビを睨む。
「……もう二度とあんな思いはしたくない。そのためなら前もって方々に頭を下げてでも、大事なものを守ってみせる」
一人呟くように言った佑の言葉に、香澄は胸の奥がギュッと掴まれたような感覚になった。
「そんな顔をしないでくれ。もともと俺が周りに敵を作るやり方をしていたのが悪いんだ」
また頭を撫でられ、香澄は不思議そうに佑を見る。
「……そんなお仕事の仕方をしてたの? 今も?」
「汚い事はしていない。ただ、あまりにも会社が急成長したから、その裏で蹴落とされたと感じる人はいただろう。今までも脅迫状や電話、メールを受けた事はあるし、問い合わせを受ける総務部からも相談がきている。ただ、誓って言えるのは、香澄に顔向けできないような事は決してしていない。それだけは信じてほしい」
「……分かった。私だって覚悟なしに佑さんと結婚しようなんて思っていないもの。女性からの嫉妬はもちろん、Chief Everyっていう大企業の経営者を、秘書として守る役目だってある」
しっかりと佑の目を見て覚悟を口にしたが、彼は切なげに目を細め首を横に振った。
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