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第十三部・イタリア 編

国際電話

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 そのあと朝食をとり、札幌の家族や親戚、麻衣をはじめとした友人たちや、お世話になった熊谷などにお土産を送る準備を始めた。

 お土産と一緒に手紙を書くのは、香澄のいつものスタイルだ。

 家族には簡単にだが、他の人には季節を意識した便箋を使う。

 熊谷には主に心理的な変化や、旅行中に少し不安になった事などを書いて伝える。

 メールやメッセージは便利だが、香澄はアナログ手紙やハガキを出すのが好きだった。

 お土産を送るための段ボール類は、斎藤にお願いして用意してもらっている。
 あとは手紙やカードを書いて送り状を用意し、集荷してもらうだけだ。

「明日には出せるかな?」

 あとは段ボールに詰めるだけという段階になったのは、夕方近くだ。

「うんっ……」と伸びをして、二階の共有スペースにあるウォーターサーバーまで水を飲みに行く。

 ――と。

「ん?」

 着信音が鳴り、香澄はポケットからスマホを出す。

「…………。知らない番号だ。……で、このプラスマークは海外からのやつ」

 液晶には知らない電話番号の前にプラスマークがついていた。

 以前に佑から、国際電話には番号の前にプラスマークがついていると教えてもらった。

 昨今では電話に出ただけで通話料金を詐欺に使われる事もあると言われ、電話登録してあるクラウザー家や知り合い以外の電話には出ないようにしている。

 泊まったホテルなども念のために登録し、まったく知らない番号がないようにしていた。

「出ちゃだめ」

 共有スペースのソファに座り、香澄はテーブルにスマホを置いて電話が鳴り止むまでジッと待つ。

 何となくあのWメールを思い出し、気分が悪くなる。

 十何回かコール音が鳴ったあと、ふ……と着信音が止まった。
 胸がドキドキと嫌な鳴り方をし、気持ちが落ち着かない。

「着信拒否……と」

 スマホを手に取って着信履歴の番号を着信拒否にして、やっと少しホッとできた。

「あ、掛かってきた番号をメモして置いて、『番号 詐欺』で検索しておいても良かったな」

 国内からでも知らない番号から掛かってきた時、すぐに取らないようにしている。

 一度電話が切れてから番号をネットで検索すると、実はその番号はヘアサロンだったり、よく買い物をしている百貨店のコスメショップからだった……という事もあるからだ。

 だがたまに行った事もない県の車関係の会社からだったり……という事もあり、とりあえず『すぐ出ない』『番号を調べる』を心がけていた。

「……ま、いっか。海外からって言ってもあんまり知り合いいないし」

 とりあえず水を飲んで気分を変え、何となく重たい溜め息をつく。

「気分変えよう! 好きな匂い!」

 部屋に戻ると、ジョン・アルクールの香水が並んだ棚の前で「うーん」と悩み、柑橘系を選んだ。
 バジル&ネロリとオレンジブロッサムを服を捲った腰に重ねがけし、気持ちが元気になれる香りを嗅いで一気に気持ちが上がった。

「よし、佑さん帰ってくるまで運動しようかな」

 そのままスポーツウェアに着替えると、香澄は一階にあるジムに向かった。

 ウォーキングマシーンで三十分ほど早歩きして体を温めたあと、筋肉の各部位を鍛えるマシーンで、二十セットをこなす。
 マットの上でプランクをはじめ、各種体幹トレーニングでインナーマッスルを鍛え、バランスボールの上で一休みしている時に玄関から物音が聞こえた。

「ただいま」

 ジムは玄関から入ってリビングダイニングの逆側にあるので、すぐに出迎える事ができた。

「おかえりなさい」

 タオルで汗を拭いつつヒョコッと顔を出すと、佑が微笑む。

「運動してたのか」

「三週間でなんかお腹出た気がするから」

「どれ」

 佑がロングスパッツを穿いた香澄の腹部に手を当て、クニュ、と揉んだ。

「んふふふっ、やだ! お腹揉むのやめて!」

「あったまっててホカホカだ」

「もー。……あ、佑さんの手冷たいね」

 十一月も下旬なので、外は当たり前に寒い。
 佑の手に触るとひんやりとしていて、香澄は両手で包んで温める。

「手袋してないの?」

「まだいけるかな、と思って」

「大事な体なんだから、冷やしたら駄目だよ?」

「何だか妊娠してるみたいだな」

 二人で笑い合ったあと、香澄はトレーニングを終える事にした。

「ちょっと待ってね、後片付けしてくる」

「ああ、俺は着替えて斎藤さん呼んでおく」

 香澄はジムに戻り、器具の重りが戻っているか確認し、汗がついた持ち手を雑巾で拭いてから電気を消した。
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