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第十三部・イタリア 編

時差ボケ

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(現実を……。現実を受け入れないと……)

 見なければいけないが、見たくない。

 一分ほど己と戦ったあと、香澄はくしゃみをした。

 そしてこれではいけないと思い、覚悟を決めて体重計を見る。

「んー! なるほどね!」

 三キロ増えた。
 今まで四十八キロぐらいだったのだが、五十キロを越えてしまった。

「んー……。んふふふふふふ……はっはっはー」

 ショックなのを笑ってごまかし、体脂肪などもきちんとチェックしてうんうんと頷く。

「運動だ」

 一人呟いてこっくり頷き、とりあえず今は寝ようと、替えの下着とパジャマを手にした。





 荷物運びはもう終わったようで、家の中は静かだ。

「佑さん」

「ん? 上がったか」

 香澄は佑の書斎の出入り口から、顔だけ覗かせる。

「水曜日くらいから、ショウコさん呼んでもいい? 太ったから搾りたい」

「本当か? 太ったように見えないけど……」

「お世辞はいいの。お願い。せっかく買ってもらった服が入らなかったら嫌なの」

「香澄のトレーナーだから、気にせず呼んでいいよ。時間帯の予定は?」

「何時に起きられるか分からないから、夕方前にしたい。生活リズムが安定したら、もっと早い時間でも大丈夫」

「分かった。眠いだろ、俺の寝室で寝てて。あとから行くから」

「ん、分かった。おやすみなさい。佑さんも早く寝てね」

「ああ」

 まだ時刻は朝の通勤時間なのに、これから眠ろうとしている。

「変なの……」

 寝室に入ると、落ち着いた色調の内装とキングサイズのベッドが懐かしい。
 布団に顔を寄せると、干したての匂いがした。

 この家を出た時はまだ残暑の頃で、冬用の羽毛布団は出ていなかった。
 それなのに今は十一月になり、暖房が必要になっている。

「んー……」

 モソモソとベッドに潜り込み、いつも自分が寝るほう――ドア側に寝転ぶ。

 香澄は今にも閉じそうな目蓋をしばしばさせ、両親と弟、麻衣にコネクターナウでメッセージを送った。

『日本に戻りました。落ち着いたらお土産を送ります。おやすみなさい』

 スマホをベッドサイドに置いて充電し、フェリシアにカーテンを閉めてもらう。

「……ただいま……」

 佑の香りに包まれ、寝慣れたベッドで目を閉じる。

 しばらく旅の余韻で頭が興奮していたが、気がつくと眠りの淵に落ちていた。



**



 たっぷり眠って目を開けると、寝室のカーテンはまだ閉まったままで何時か分からない。

(よく寝たなぁ……)

「フェリシア、いま何時?」

 寝室に置いてあるフェリシアに話し掛けると、〝彼女〟が返事をしてくれる。

 フェリシアによれば、日曜日の十七時三十七分だ。

「えぇっ!?」

 昼近くに起きると思っていたが、まさか夕方まで寝てしまうと思わなかった。

「……お、おトイレ」

 ひとまず寝室の洗面所で用を足し、佑はどうしているか書斎を覗き込む。

(……いない。下かな?)

 自分の部屋で着替え、とりあえず楽ちんなスウェットワンピースをズボッと被った。
 何気なく部屋にある姿見を見て、体を横に向ける。

(お腹出てないかな……。うう。佑さんが買ってくれた服、格好良く着こなしたい)

 昨晩目に焼き付いた数字のショックは大きい。

「はぁ……」

 溜め息をつき、それでも半日寝ていたので、お腹がすく自分にまた溜め息が出る。

 階段を下りてリビングダイニングに向かうと、ソファに佑の後ろ姿があった。

(よし)

 足音を消し、香澄はゆっくりと佑に忍び寄る。
 佑の真後ろまで来て、思わずくんくんと彼の香りを嗅いだ。

 そして――、

「ばぁっ」

 佑の肩口から両腕をまわし、抱きついて脅かす。
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