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第十三部・イタリア 編

久しぶりの御劔邸

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「じゃあ、解散。お疲れ様」

 佑の一声で、護衛たちは体育会系のような挨拶をして荷物を手にする。

「あー……。おうち……」

 香澄もヨロヨロと玄関に向かい、靴を脱いで上がり框に座り込んでしまった。

「御劔さん、玄関にある荷物はどうしますか?」

 張り切った斎藤が訪ね、佑が答える。

「ああ、ほとんど香澄の服とかなんですが、可能だったら二階の空き部屋に運んでくれたら助かります」

「分かりました。ご帰国を見越してお風呂の準備もしてありますから、どうぞ。あと冷蔵庫の中に、赤松さんの好きなオレンジとグレープフルーツの果肉ジュースを用意してあります。御劔さんが疲れた時に召し上がる、手作りスポーツドリンクもありますので、気が向かれましたらどうぞ」

「ありがとうございます……。斎藤さん……、さすが……」

 疲れ切った香澄は、泣きそうな声をだす。

 荷物はあとで佑と二人で運ぶものと思っていたが、斎藤が運ぶ気満々なので「やらないと!」と奮起する。
 立ちあがって手近にあった紙袋を纏めて持とうとすると、円山に声を掛けられた。

「赤松さんはお疲れでしょうから、どうぞお休みください。荷運びは我々でしますから」

「いえ、でも」

 楽しんできた自分たちの荷物を、人に運ばせるなどできないと思っていると、佑がポンと肩に手を置いてきた。

「香澄」

 名前を呼ばれただけで、以前に「誰かに何かをされる生活に慣れて」と言われたのを思いだした。

「赤松さん、本当に私たちは大丈夫ですから、お休みください」

 斎藤にも言われ、香澄は「ありがとうございます」とぺこりと頭を下げてリビングダイニングに向かった。

「斎藤さんの手作り……」

 家に着いてドッと疲れが押し寄せた香澄は、ゾンビのように歩いて冷蔵庫を開ける。
 大好きなジュースを見て顔を綻ばせ、冷たく冷えたそれを手に取ってストローを差し、ちゅるちゅると飲む。

「おいしいぃぃ……」

「良かったな。一息ついたら風呂に入って寝なさい」

「うん」

 ここであの居心地のいいソファに座ってしまえば、爆睡してしまう事は必至なので、香澄は立ったままジュースを飲む。
 柑橘系の酸味がありつつ程よく甘いジュースが美味しく、一気に元気になった気がする。

「お風呂入って寝るね」

「ゆっくり入っておいで」

 佑は斎藤の手作りスポーツドリンクを飲んでから、書斎に向かうつもりのようだ。

 香澄は荷運びしてくれる者たちにペコペコと頭を下げ、二か月弱ぶりに自分の部屋に入る。

(何だか変な気持ち。最後にここにいたのって、北海道に帰る前だったんだ。立つ鳥跡を濁さずって思っていたから、整ったままだなぁ。お掃除もしてくれていたんだろうけど……)

 不在の間、佑が香澄のベッドでうだうだしていたと彼女は知らない。

 とりあえず風呂に入るのに必要な下着や寝間着などを出し、洗面所の棚に並んでいるジョン・アルクールのコロンたちを見て、思わずにっこりする。

「ただいま。また宜しくね」

 お気に入りのネクタリンの100mlのボトルをつんとつつき、香澄はバスルームに入った。





 広々とした洗い場で馴染みのシャンプーとコンディショナーで髪を洗い、ジョン・アルクールのボディソープで好きな香りに包まれる。

「あああ……。寝る……寝ちゃう……」

 それからジェットバスに入って体を温めていると、もうそのまま顔からお湯に突っ込んで寝てしまいそうだ。

 色々あったな……とヨーロッパでの事を思い返そうとするのだが、気が付くと頭の中が真っ白になり、コクンコクンと船を漕いでいる。

 寝てしまいそうだ、ではなく、何度か鼻からお湯を吸って咳き込んだ。

「駄目だ。出よう」

 ボーッとしたままバスルームから出て、いつものケアをすると時間が掛かってしまうが、きちんとスキンケアをする。
 体も化粧水をつけてジョン・アルクールのボディクリームを塗り、洗い流さないヘアトリートメントをつけてドライヤーを掛け――、ふと体重計が目に入った。

(……絶対太ってるよね……)

 恐る恐る足で電源を入れ、パーソナルナンバーを自分に合わせて体重計に乗った。

 とっくに数字は表示されているのに、香澄は脱衣所の棚にあるボディクリームや化粧品の瓶を眺めて現実逃避している。
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