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第十三部・イタリア 編

起き抜けのじゃれ合い

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「満足できたなら良かった」

 佑は香澄の頭を撫で、愛しそうにキスをしてくる。

「もっとしてほしい事はない?」

 やはり佑は、全力で甘やかそうとしてくる。

(ここでまた『お父さんみたい』って言ったら、拗ねるんだろうなぁ)

 そう思って小さく笑った香澄は、佑の耳を摘まんだ。

「ないよ。全部満たされてる。今日はもう、一緒に寝よう」

 囁いた声に、佑がとろりと目を細めて笑う。

「じゃあ、良かった」

 香澄を満足させる事に、佑はいつだって全力投球だ。
 そんな彼が愛しくて堪らない。

「……好きだよ」

 トロトロと落ちてきた目蓋を瞬かせ、香澄は笑う。

 佑が羽根布団を被せてくれたかと思うと、リモコンで大きい照明が落とされた。
 ふぅ……と彼が息をつくのが聞こえたあと、抱き寄せられて温もりを感じる。

(あったかい……。安心する)

 佑に頭を撫でられているうちに、香澄は眠りの淵に落ちてしまった。



**



「ん……。……んぅー…………」

 目が覚めてのびーっと体を伸ばすと、手が佑の体に当たった。

「ありゃ」

 起こしてはいけないととっさに手を引っ込めたが、佑は何度か瞬きをしてから起きてしまった。

「ごめんね? 起こした?」
「いや、ちょっと前に起きてた。香澄があったかくてウトウトしてた」

「んふふ、湯たんぽじゃないよ?」
「うさぎ型の湯たんぽかな?」

「もー、うさぎから離れてってば」

 唇を突き出してむくれた香澄は、悪戯を思いついて佑の胸板に唇をつけた。

「ん?」

 何事かと目を瞬かせる佑の胸板に、香澄は唇を着けたまま、思いきり息を吐く。
 ぶるるるるるるっ……、と音がし、悪戯成功した香澄はケタケタ笑って仰向けになった。

「まったく……、いきなり何をしだすかと思えば」

 グシャグシャと髪を撫でられ、香澄は悲鳴を上げて反対側に寝返りをうつ。

「髪グシャグシャやめてぇ!」

 そのままベッドを下りようとすると、腹部に腕を回されて引き寄せられ、今度は佑が香澄の背中に唇をつけ、ぶるるるるるるっと音を立ててきた。

「んはははははは……っ!」

 背中からくすぐったい振動が加わり、香澄は思わず声を上げて笑う。

「っきゃあ!」

 おまけに佑が脇をくすぐってくる。

 もうそこから先は悲鳴を上げてじたばた暴れ、起き抜けから激しいじゃれ合いになった。





 基本的に、朝食は離れで取るようで、八時前ぐらいになるとルカがパンや温かいスープなどを持ってきてくれた。

 昨日のご馳走の残りを温めた物もあり、パスタが大好きな香澄としてはありがたい。

 それを食べ終えての、佑が淹れてくれたコーヒーだ。
 イタリア語で書かれた牛乳パックからミルクを注ぎ、好みの濃さにしてからマグカップを口に運ぶ。

「あー……。コーヒーおいし」

 食べたあとは二人で片付け、今はリビングのソファでゆっくり寛いでコーヒータイムだ。

 コーヒーをちびちび飲みつつ、意味が分からないながらイタリア語のニュースを見ているのだが、先ほどから佑の視線を感じる。

「なぁに? さっきから」

「いや、やっぱりニットワンピースって正義だな、って思って」

「ん!」

 言われて香澄は自分の体を見下ろす。

 まだ出掛ける予定も立てていないので、ゆったりとしたオフタートルのニットワンピースを下着の上に被っただけだ。
 ふんわりとしたベージュのニットワンピースで、丈は膝下ぐらいまである。

 香澄は特にセクシーと思っていなかったので、佑の言葉が意外だ。

「え? え? なんか変? どこか透けてる?」

 どこかに佑が喜ぶ要素があるんだろうか? と頻りに自分の脚やお腹をチェックしてみるが、透けているはずもない。
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