【R-18】【重愛注意】拾われバニーガールはヤンデレ社長の最愛の秘書になりました

臣桜

文字の大きさ
上 下
792 / 1,559
第十三部・イタリア 編

心の童貞

しおりを挟む
『香澄は俺のすべてを受け入れてくれると思うし、無理してでも我慢するだろう。そう分かっていても、無理をさせるのはつらいな』

 彼女はいつも、微笑んですべてを我慢する。
 心で血を流しても、自分を傷付けた相手を心配して「大丈夫だよ、気にしないで」と言う人だ。

 飯山やエミリアのような者に酷い目に遭わされても、相手を呪ったり復讐したいと望む人ではない。

 その姿を、痛々しく思う時がある。

『確かにカスミは、人を押しのけたり蹴落とすのに向いてないよね。そうじゃなかったらニセコで、年下の子供相手に好きなようにやられてなかっただろう』

 忌々しい記憶を思いだし、佑は渋面になる。

『僕もマリアに散々言われたよ。〝あなたの事は愛しているけど、あなたの家が無理。あなたの家族だって好きだけど、フィオーレ家という重圧には耐えられない〟って。……まぁ、ニセコに行く前の話なんだけどね。今は覚悟を決めてくれている』

 マリアの話を聞いていると、様々なところが香澄と重なる。

『どうやって口説いたんだ? 香澄の言葉がきっかけだとしても、彼女を納得させたのは君の言葉だろう?』

 ずっと気になっていた。

 ルカとマリアの関係は、自分と香澄の関係にとても似ている。
 サラブレッドのような血族に対し、嫁ぐ側は一般家庭育ちだ。

 問題とするものも似通っている。

『〝君はそのままでいいよ〟って言ったよ。マリアは結婚する事で、今までコツコツ築いてきたものを失う事を恐れている。だから靴職人を続けたいならそうしてほしいし、結婚したからといって、生活パターンやその他のものを変えなくていいって伝えた』

(……あぁ)

 佑の胸に、ザクッと何かが刺さった。

 自分はすでに、香澄に色んなものを貢ぎすぎている。
 挙げ句、「お父さん」と言われている始末だ。

(……でも俺だって、香澄に『無理に変わる必要はない』と思ってる)

 佑は心の中でルカと自分を比較し、どこまでセーフなのか確認する。

『同時に〝僕も結婚で失うものはあるから、条件は一緒だよ〟とも言った。〝失う〟なんて彼女が遠慮しそうで言いたくなかったけど、彼女と〝同じ〟である事を強調した。結婚する事で、どっちかが負担を抱えたら駄目なんだ。イーブンな関係だって事前に伝える必要がある』

「一理ある」と納得しつつ、佑は尋ねる。

『〝負担を掛けるなら結婚しなくていい〟って言われなかったか?』

 香澄なら言いそうだ。

『いや、逆に乗り気になった。僕が独身生活から何を削るか興味を持った。だから、僕が休日に一人でどう過ごしているか、結婚する事で何を諦めるかなど教えてあげた。そうしたらマリアは、〝自分だけが我慢するんじゃないんだ〟って気づいたみたいだ』

(そう……か)

 佑は今まで、香澄の負担になる言動や行動は避けていた。

 結婚についても、「すべて任せろ、香澄は何も心配せず嫁げばいい。絶対幸せにしてあげるから」という雰囲気を出していた。

『人って得体の知れないものに不安を感じるんだよ。健康にしたって、医者じゃない人はちょっと不調になると〝病気だったららどうしよう〟って不安になる。幸せを約束された未来があるとしても〝無条件に幸せになるなんてあり得ない。絶対裏がある〟って警戒するんだ。いわば、生存本能だ。よっぽどお気楽でない限り、不安になるのは当たり前じゃないかな』

 第三者の言葉だからこそ、ルカの言葉が胸に響く。

(そうだ。俺は香澄の気持ちを考えてなかった。自分を過信して、幸せにする力があるから大丈夫だと思い込んでいた。香澄を愛玩動物のように思って、ただ守り責任を持って幸せにすればいいと思っていた。……彼女にだって人として考え、不安になる心はあるのに)

 自分の傲慢さに気付き、眩暈すら覚える。
 溜め息をついた佑を見て、ルカが笑う。

『いまタスクが考えてる事、何となく分かるよ。僕が考えてた事ときっと同じだと思う』

 太腿の上に両肘をつけ、佑は俯いて溜め息をつく。

『……駄目だ。俺は三十二歳にもなって、まだろくに女性を愛せない』

 真剣に悩む佑の背中を、明るく笑ったルカがバンバンと叩く。

『あはは! 落ち込む事ないよ! 僕なんて三十六歳だよ? 年齢で考えるのはやめたほうがいいって。心底人を好きになると、何もかも初めてになるんだ。心が童貞なんだよ。僕は愛しさのあまり何度もマリアを困らせた。でもそのたびにマリアは許してくれた。だから結婚したい。そういうシンプルな話だよ』

 三十男が二人もそろって〝心が童貞〟だと思うと泣けてくる。

『タスク、心の童貞を恥じる事はないよ。僕はマリアと付き合う前に、大勢の女性と付き合った。ワンナイトラブだってあったし、気持ち良く飲んでセックスして、気が合ったらちょっとプレゼントをする。そんな上辺だけの関係を続けていた』

 彼の話を聞き、自分も似たような事をしていたと思った。
しおりを挟む
感想 560

あなたにおすすめの小説

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

オオカミ課長は、部下のウサギちゃんを溺愛したくてたまらない

若松だんご
恋愛
 ――俺には、将来を誓った相手がいるんです。  お昼休み。通りがかった一階ロビーで繰り広げられてた修羅場。あ~課長だあ~、大変だな~、女性の方、とっても美人だな~、ぐらいで通り過ぎようと思ってたのに。  ――この人です! この人と結婚を前提につき合ってるんです。  ほげええっ!?  ちょっ、ちょっと待ってください、課長!  あたしと課長って、ただの上司と部下ですよねっ!? いつから本人の了承もなく、そういう関係になったんですかっ!? あたし、おっそろしいオオカミ課長とそんな未来は予定しておりませんがっ!?  課長が、専務の令嬢とのおつき合いを断るネタにされてしまったあたし。それだけでも大変なのに、あたしの住むアパートの部屋が、上の住人の失態で水浸しになって引っ越しを余儀なくされて。  ――俺のところに来い。  オオカミ課長に、強引に同居させられた。  ――この方が、恋人らしいだろ。  うん。そうなんだけど。そうなんですけど。  気分は、オオカミの巣穴に連れ込まれたウサギ。  イケメンだけどおっかないオオカミ課長と、どんくさくって天然の部下ウサギ。  (仮)の恋人なのに、どうやらオオカミ課長は、ウサギをかまいたくてしかたないようで――???  すれ違いと勘違いと溺愛がすぎる二人の物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

処理中です...