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第十三部・イタリア 編

マリア

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 さすがに佑は慣れているようで、照れもなく乾杯の挨拶をしてクイッとカクテルを飲む。

 そしてルカに『美味しい』と微笑んでいた。

(気にしすぎなんだな。恥ずかしい……。小学生男子みたい)

 一人でこっそり赤くなりながら、香澄は独特な香りのカクテルをストローで飲む。

「んン!」

 見た目の通りオレンジの風味がする。ルカいわくハーブも入っているようなので、少し変わった香りがするのはそのせいだろう。

『美味しいかい? カスミ』

『はい! とっても美味しいです!』

 ハッと「ボーノ」を思い出し、香澄は人差し指で頬をくりくりとしてみせた。
 それを見てルカは破顔する。

『良かった! で、マリアを夕食に呼んだんだ。僕のアモーレにも会ってね。とってもいい子だから』

『はい! 楽しみです!』

 それからたわいのない話をしていると、キッチンからスープの皿を持ったパオラやダニエラ、フランチェスカにカロリーナが現れた。
 香澄も慌てて立ち上がり、料理を運ぶのを手伝おうとする。

『ノ、ノ、ノ。カスミは座っていて』

 けれどパオラにウインクをされ、やんわりと肩を押されてしまう。

 そのタイミングで、玄関から「Buonasera!」と女性の声がした。

『マリアだ!』

 ルカがパッと表情を明るくし、早足に玄関に向かった。

「私たちもご挨拶に向かったほうがいいかな?」

 香澄が言いかけたが、すぐにルカが女性――マリアを連れてきた。

 彼女は長い金髪を低い場所でポニーテールにし、眼鏡をかけている。明るいブラウンアイの持ち主で、そばかすがチャーミングだ。

 ルカはマリアとチュッとキスをして、紹介してくれる。

『カスミ、こちらがマリア。僕のアモーレだ』

『初めまして、マリアさん』

 マリアは身長一七〇cm以上あり、やや見上げての挨拶となる。

 とはいえ、パオラやダニエラ、フランチェスカも高身長だ。

 挨拶をすると、彼女はクシャッと笑った。

『あなたが私たちのキューピッドね!』

 マリアはそう言って、握手もそこそこにギュッと抱き締めてきた。

「わっ」

『あなたのお陰でルカと仲直りできたの! あなたがニセコ? でルカを勇気づけてくれたから、彼がまた私を求めてくれたわ! 私も今度こそきちんとルカと向き合えて、結婚しようって覚悟ができたの』

 マリアからは、シトラス系のいい匂いがフワッと立ち上った。

『そ、そんな事ないです……。私もニセコではルカさんに励まされていて』

 あわあわと返事をすると、体を離したマリアが魅力的に笑う。

『積もる話はこれから沢山しましょう? そしてあなたがタスクね?』

 マリアは佑とも握手をし、軽いハグをする。

 それから彼女がルカの家族たちに挨拶をしていると、サンルームからはマルコがカデンツァたちを連れて姿を現した。

『さぁさ! ワインを開けましょう』

 カロリーヌの声を皮切りに、それぞれが手近にあったワインのボトルを手にし、コルクを開けた。

 別のテーブルにいる河野たちも場の空気に従い、「お疲れ様」と言ってワインを注ぎ合っている。

『それでは、遠い日本からフィオーレ家を尋ねてくれた、タスクとカスミに――Cincin乾杯!』

 マルコの声がしたあと、全員が「Cincin!」と言って、周囲の者とワイングラスを合わせた。

 とにかく全員が佑と香澄と乾杯をしたがり、遠くの席にいる者までもがテーブルに身を乗り出して腕を伸ばしてくる。
 香澄も腕を伸ばし、相手の目を見てニッコリ微笑み乾杯した。

 周りに合わせてクイーッとワインを飲んでしまうと、先にルカと飲んでいた分も相まって体がポカポカしてくる。

『ズッパ・ディ・ズッカを召し上がれ』

 カロリーヌに言われて目の前の皿を見ると、具だくさんのスープのような物がある。
 どうやって食べるのが正解か周囲を見ていると、佑がこそっと囁いてきた。

「ズッパは具だくさんのスープを言うんだ。こっちのズッパは日本みたいに液体そのものを楽しむより、パンを浸して具と一緒に食べる。ズッカはカボチャの事。だから、これはカボチャメインの具だくさん野菜スープかな」

「ありがとう!」

 お礼を言った香澄は、周りの人のようにパンをちぎってスープに浸し、なるべく具を絡めて口に入れる。
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