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第十三部・イタリア 編
天使に悶絶
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『人聞きの悪い事を言わないで! 私はいつもちゃんと母親をやってるわ!』
きっぱりと自分の主張をしてから、ポニーテールのダニエラが佑と香澄たちに挨拶に来る。
『ルカやノンノがお世話になってみたいね。私はダニエラ。こっちは私のアモよ』
『初めまして』
ダニエラが挨拶をしたタイミングで、ワインを飲んでいた男性二人が立ち上がり二人と握手をする。
ルカいわく、手伝いたくても昔ながらの作りの家なので、キッチンスペースが狭めだから、こちらでできる手伝いをした上で、あとはのんびり待っているらしい。
「佑さん、アモって?」
「アモーレの短縮形だよ」
ダニエラとパオラの夫たちと挨拶をしたあと、夫婦の子供たちがちょこちょことやって来た。
「カー……、カーァミ」
天使のようなクルクル巻き毛の女の子が、香澄を見てにぱっと笑う。
一生懸命「カスミ」と言おうとしている姿に、香澄はズキューン! と胸を打ち抜かれた。
「か……っ、かわぁ……っ」
しゃがんで目線を合わせ、香澄はぷっくりとした女の子の手を握り、ちょんちょんと握手をする。
すると女の子は香澄の頬にチュッとキスをし、それだけで香澄は尊さのあまり死にそうになった。
「タスク!」
彼女はたどたどしく佑の名前を呼び、同様に彼にもキスをする。
続いて女の子より年上の、小学生低学年ぐらいの男の子が、同じように香澄の両頬にチュッチュッとキスをした。
「……もう。……もうダメぇ……。かわ……。かわゆ……」
しゃがみ込んで両手で顔を覆った香澄は、くりくり頭の天使たちに悩殺されていた。
けれど子供たちはすぐ興味が他のものに向いてしまい、「マンマ!」と叫んでキッチンのほうに行ってしまった。
「子供ほしくなった?」
佑に肩を抱かれて囁かれ、香澄は赤くなって彼を軽く睨む。
「……欲しいけど」
もー、と唇を尖らせて立ちあがると、ルカが椅子を引いてくれたのでそこに座った。
テーブルには山折りにされた紙に名前が書かれてあり、佑は香澄の隣につく。
そしてルカは河野たちに話しかけた。
『君たちは別のテーブルでも大丈夫? ごめんね。人数を収容できる広さは十分あるんだけど、同じテーブルに……となると椅子をつけられるのにも限界があって』
そう言ってルカは別のテーブルセットを示す。
『とんでもございません。夕食に招いてくださっただけで、御の字でございます』
河野は流暢な英語で受け答えをし、呉代たちと一緒に離れたテーブルについた。
『飲もうか!』
明るく言ったルカが、オレンジ色の液体が入ったグラスを持ってきた。
大きなテーブルにはテーブルクロスが引かれ、人数分のランチョンマットもある。
真ん中には何本もワインのボトルが置かれ、バスケットにはパンが入っている。
が、それぞれのテーブルの上には、テーブルクロスに直接パンが置かれてあり、それがイタリア式だ。
チーズやスライスしたばかりの生ハムも並び、キッチンを見るとまだ料理を作っている途中のようだ。
『イタリア式の食前酒の事を、アペリティーボって言うんだ。イタリアのリキュールだと、カンパリなら日本でも有名なんじゃない?』
『はい。カンパリは有名です』
八谷のチェーン店『月見茶屋』でも、カンパリソーダやカンパリオレンジは人気だった。
『これはアペロールっていうイタリア産のオレンジ風味のリキュールで、イタリアではこっちメインかな。これを使ったカクテルを食前酒にする事が多いんだ』
『そうなんですね』
脚のあるグラスにはオレンジ色のカクテルが氷で冷やされ、フレッシュオレンジも入っている。
『ノンナたちはキッチンで作りながら飲んでるから、僕らも始めよう』
彼が明るく言ったので、そういう事なら……と、香澄と佑もグラスを手にする。
「Cincin!」
ルカが乾杯の挨拶を口にし、佑と香澄も続く。
「Cincin」
「ち、Cincin」
ニセコでルカと過ごして、これがイタリア式の「乾杯」なのだと分かっていても、いまだにどこか音の響きの問題で気恥ずかしさがある。
きっぱりと自分の主張をしてから、ポニーテールのダニエラが佑と香澄たちに挨拶に来る。
『ルカやノンノがお世話になってみたいね。私はダニエラ。こっちは私のアモよ』
『初めまして』
ダニエラが挨拶をしたタイミングで、ワインを飲んでいた男性二人が立ち上がり二人と握手をする。
ルカいわく、手伝いたくても昔ながらの作りの家なので、キッチンスペースが狭めだから、こちらでできる手伝いをした上で、あとはのんびり待っているらしい。
「佑さん、アモって?」
「アモーレの短縮形だよ」
ダニエラとパオラの夫たちと挨拶をしたあと、夫婦の子供たちがちょこちょことやって来た。
「カー……、カーァミ」
天使のようなクルクル巻き毛の女の子が、香澄を見てにぱっと笑う。
一生懸命「カスミ」と言おうとしている姿に、香澄はズキューン! と胸を打ち抜かれた。
「か……っ、かわぁ……っ」
しゃがんで目線を合わせ、香澄はぷっくりとした女の子の手を握り、ちょんちょんと握手をする。
すると女の子は香澄の頬にチュッとキスをし、それだけで香澄は尊さのあまり死にそうになった。
「タスク!」
彼女はたどたどしく佑の名前を呼び、同様に彼にもキスをする。
続いて女の子より年上の、小学生低学年ぐらいの男の子が、同じように香澄の両頬にチュッチュッとキスをした。
「……もう。……もうダメぇ……。かわ……。かわゆ……」
しゃがみ込んで両手で顔を覆った香澄は、くりくり頭の天使たちに悩殺されていた。
けれど子供たちはすぐ興味が他のものに向いてしまい、「マンマ!」と叫んでキッチンのほうに行ってしまった。
「子供ほしくなった?」
佑に肩を抱かれて囁かれ、香澄は赤くなって彼を軽く睨む。
「……欲しいけど」
もー、と唇を尖らせて立ちあがると、ルカが椅子を引いてくれたのでそこに座った。
テーブルには山折りにされた紙に名前が書かれてあり、佑は香澄の隣につく。
そしてルカは河野たちに話しかけた。
『君たちは別のテーブルでも大丈夫? ごめんね。人数を収容できる広さは十分あるんだけど、同じテーブルに……となると椅子をつけられるのにも限界があって』
そう言ってルカは別のテーブルセットを示す。
『とんでもございません。夕食に招いてくださっただけで、御の字でございます』
河野は流暢な英語で受け答えをし、呉代たちと一緒に離れたテーブルについた。
『飲もうか!』
明るく言ったルカが、オレンジ色の液体が入ったグラスを持ってきた。
大きなテーブルにはテーブルクロスが引かれ、人数分のランチョンマットもある。
真ん中には何本もワインのボトルが置かれ、バスケットにはパンが入っている。
が、それぞれのテーブルの上には、テーブルクロスに直接パンが置かれてあり、それがイタリア式だ。
チーズやスライスしたばかりの生ハムも並び、キッチンを見るとまだ料理を作っている途中のようだ。
『イタリア式の食前酒の事を、アペリティーボって言うんだ。イタリアのリキュールだと、カンパリなら日本でも有名なんじゃない?』
『はい。カンパリは有名です』
八谷のチェーン店『月見茶屋』でも、カンパリソーダやカンパリオレンジは人気だった。
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『そうなんですね』
脚のあるグラスにはオレンジ色のカクテルが氷で冷やされ、フレッシュオレンジも入っている。
『ノンナたちはキッチンで作りながら飲んでるから、僕らも始めよう』
彼が明るく言ったので、そういう事なら……と、香澄と佑もグラスを手にする。
「Cincin!」
ルカが乾杯の挨拶を口にし、佑と香澄も続く。
「Cincin」
「ち、Cincin」
ニセコでルカと過ごして、これがイタリア式の「乾杯」なのだと分かっていても、いまだにどこか音の響きの問題で気恥ずかしさがある。
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