上 下
783 / 1,544
第十三部・イタリア 編

本当の初恋

しおりを挟む
「出会った頃のままじゃなくてごめん。今になって『こんな変態だと思わなかった』って呆れてると思う。理想の〝御劔佑〟じゃなくてすまない。きっと知らない間に失望させた事もあったと思う。すぐ嫉妬するし、カッとなる事もある。香澄が絡むと子供っぽくなる。……俺も、自分がこんな感情的な男だったと知らなかった」

 変な事で謝る彼が愛しくて、香澄は思わずにっこり微笑んだ。

「失望なんてしないよ。私だって出会った頃のままじゃないもの。もっと佑さんを好きになったし、もっとエッチになった。グズグズ悩むようになったし、ネガティブな面を見せてしまって心配になる」

 自分の変化を口にして、香澄はそっと佑の頬を撫でた。
 佑は彼女の手に頬ずりをし、指にキスをする。

「昨日の香澄より、今日の香澄が好きだ。明日はもっと好きになってる。その分、俺もきっと成長していく。いい成長かもしれないし、ネガティブなほうへ向かうかもしれない。でも俺は、香澄と過ごして心が豊かになっていく事を誇りに思っている」

 自称〝淡泊〟だった彼が、自分を愛してそう思ってくれたなら何よりだ。

「私も!」

 クシャッと笑った香澄は、もう一度佑に抱きついた。

 スゥッと彼の匂いを吸い込み、両腕一杯に彼を感じる。

 欠点などない完璧な〝世界の御劔〟を愛した訳ではない。
 どこにでもいそうな自分を見つけてくれて、せっかくのイケメンが台無しになるぐらい愛してくれる。

 そんな〝一人の男性〟だから、香澄だって深く愛している。

 佑を愛して、健二の時には感じられなかった成長ができている。
 香澄もそんな自分を誇らしく思っていた。

「私もね、恋愛に割とクール……っていうか、鈍感だった。健二くんと付き合っていた時、あれだけ必死になっていたのは『きちんと付き合って〝成功〟しないと』っていう気持ちからだった。本当は彼の事をそこまで好きじゃないし、あそこまで大変な思いをする価値はなかった」

「ん……」

 以前はあれだけ健二に動揺した香澄が、今はこうして冷静なれている事に、佑は安心したようだった。

「当時はとても動揺して一大事に思ったけれど、今は冷静になれて、佑さんに愛されている安全な場所にいる。そしたら……言い方は悪いけど、『なんであんな人の言葉に一喜一憂してたんだろう』って思ってる。……私の世界は狭かった」

 話しながら香澄は胸が出しっぱなしだったのに気付き、モソモソと下着をつける。

「学生時代にも、グループ交際ぐらいの付き合いはあった。でも皆がコイバナして盛り上がっていても、私は特に共感できなかった。そんなに他人に興味がなかったのかな。ずっと自分と恋愛は、遠いものだと思っていたの。彼氏がいなくても寂しいって思わなかったし、麻衣と一緒のほうが楽しかった。恋愛で感情を乱すより、将来のために勉強したほうがいいと思ってた」

 香澄はキャミソールを下ろし、シャツワンピースのボタンを留めていく。

「でもね、そんな私が初めて『恋をしてる』って思えたの、佑さんが初めてだよ。ここまで心を通わせて、どんなにこじれても一生懸命話して歩み寄って、愛そうと思えたのは佑さんだけ。……だから私の本当の意味での初恋って、佑さんなのかもね」

 そう言って微笑むと、佑が固まっているのに気づく。

「佑さん?」

 彼の顔が――赤い。気がする。

 顔を覗き込むと、珍しく彼が目を逸らした。

「どうしたの?」

「……いや、そういう発想でくると思わなくて。……俺の本当の初恋は香澄だ。そう思ったら、急に恥ずかしくなって」

 横を向いた佑の耳が赤い。

「……んふふ」

 嬉しくなった香澄は、彼に抱きついてチュッチュッと頬や首筋にキスをした。

「たーすくさん。照れてるの?」

 香澄はツンツンと彼をつつき、赤くなった耳を引っ張る。

「……こら」

 からかっていると、赤面した佑がジロリと睨んできた。

「最後までしないからって、調子に乗るなよ?」

 佑がぎゅうっと抱き締めてきて、耳元で低く囁く。

 先ほどまで喘がされた事を思いだした香澄は、慌ててもがいて佑の腕から脱出しようとする。

「ご、ごめんなさい。耳は、や……っ」

 そんなふうにイチャイチャしていた時、テーブルの上に置いてあった佑のスマホがピコンと鳴った。

「…………はぁ……」

 香澄を抱いたまま溜め息をつき、佑はスマホに手を伸ばす。

 水を差されたからか、液晶に出ている名前を見てもう一度溜め息をつき、仕事モードの声で「Allo?」と電話に出た。

 香澄は邪魔をしないように、佑の膝の上でじっとしている。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ミックスド★バス~家のお風呂なら誰にも迷惑をかけずにイチャイチャ?~

taki
恋愛
【R18】恋人同士となった入浴剤開発者の温子と営業部の水川。 お互いの部屋のお風呂で、人目も気にせず……♥ えっちめシーンの話には♥マークを付けています。 ミックスド★バスの第5弾です。

社長の奴隷

星野しずく
恋愛
セクシー系の商品を販売するネットショップを経営する若手イケメン社長、茂手木寛成のもとで、大のイケメン好き藤巻美緒は仕事と称して、毎日エッチな人体実験をされていた。そんな二人だけの空間にある日、こちらもイケメン大学生である信楽誠之助がアルバイトとして入社する。ただでさえ異常な空間だった社内は、信楽が入ったことでさらに混乱を極めていくことに・・・。(途中、ごくごく軽いBL要素が入ります。念のため)

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

【R18】エリートビジネスマンの裏の顔

白波瀬 綾音
恋愛
御社のエース、危険人物すぎます​─​──​。 私、高瀬緋莉(27)は、思いを寄せていた業界最大手の同業他社勤務のエリート営業マン檜垣瑤太(30)に執着され、軟禁されてしまう。 同じチームの後輩、石橋蓮(25)が異変に気付くが…… この生活に果たして救いはあるのか。 ※サムネにAI生成画像を使用しています

【R18】豹変年下オオカミ君の恋愛包囲網〜策士な後輩から逃げられません!〜

湊未来
恋愛
「ねぇ、本当に陰キャの童貞だって信じてたの?経験豊富なお姉さん………」 30歳の誕生日当日、彼氏に呼び出された先は高級ホテルのレストラン。胸を高鳴らせ向かった先で見たものは、可愛らしいワンピースを着た女と腕を組み、こちらを見据える彼の姿だった。 一方的に別れを告げられ、ヤケ酒目的で向かったBAR。 「ねぇ。酔っちゃったの……… ………ふふふ…貴方に酔っちゃったみたい」 一夜のアバンチュールの筈だった。 運命とは時に残酷で甘い……… 羊の皮を被った年下オオカミ君×三十路崖っぷち女の恋愛攻防戦。 覗いて行きませんか? ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ・R18の話には※をつけます。 ・女性が男性を襲うシーンが初回にあります。苦手な方はご注意を。 ・裏テーマは『クズ男愛に目覚める』です。年上の女性に振り回されながら、愛を自覚し、更生するクズ男をゆるっく書けたらいいなぁ〜と。

【完結】やさしい嘘のその先に

鷹槻れん
恋愛
妊娠初期でつわり真っ只中の永田美千花(ながたみちか・24歳)は、街で偶然夫の律顕(りつあき・28歳)が、会社の元先輩で律顕の同期の女性・西園稀更(にしぞのきさら・28歳)と仲睦まじくデートしている姿を見かけてしまい。 妊娠してから律顕に冷たくあたっていた自覚があった美千花は、自分に優しく接してくれる律顕に真相を問う事ができなくて、一人悶々と悩みを抱えてしまう。 ※30,000字程度で完結します。 (執筆期間:2022/05/03〜05/24) ✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼ 2022/05/30、エタニティブックスにて一位、本当に有難うございます! ✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼ --------------------- ○表紙絵は市瀬雪さまに依頼しました。  (作品シェア以外での無断転載など固くお断りします) ○雪さま (Twitter)https://twitter.com/yukiyukisnow7?s=21 (pixiv)https://www.pixiv.net/users/2362274 ---------------------

若妻シリーズ

笹椰かな
恋愛
とある事情により中年男性・飛龍(ひりゅう)の妻となった18歳の愛実(めぐみ)。 気の進まない結婚だったが、優しく接してくれる夫に愛実の気持ちは傾いていく。これはそんな二人の夜(または昼)の営みの話。 乳首責め/クリ責め/潮吹き ※表紙の作成/かんたん表紙メーカー様 ※使用画像/SplitShire様

処理中です...