778 / 1,544
第十三部・イタリア 編
ティラミスとコーヒー
しおりを挟む
さすがエスプレッソの国と言うべきか、スポンジに染みこんだコーヒーのコクがある。
その上、マスカルポーネチーズの濃厚さがコーヒーの風味に負けずに重なり、得も言われぬハーモニーを生み出している。
「おいしい、おいしい」
こんなに美味しいティラミスに出会ったことはなく、香澄は夢中になってスプーンを動かす。
多めに盛り付けたはずなのに、あっという間に皿が空になってしまった。
「あぁー……」
感動した香澄はビールを飲んだあとのおじさんのような声を出し、「おいしかったぁ……」としみじみと呟く。
そんな彼女の様子を見て、佑は声もなく笑っている。
「コーヒー飲む?」
「うん」
佑の問いかけに頷くと、彼はキッチンに向かった。
そして道具を確認すると、コーヒーポットにミネラルウォーターを入れて火に掛ける。
勿論マキネッタもあるのだが、普通のドリップコーヒーの用意がされているのは客を気遣ってだろう。
「佑さんのコーヒー飲むの、久しぶりだな」
香澄はシンクで皿を洗う。
佑がコーヒーを淹れてくれるのもそうだが、こういう風にキッチンに並ぶのは久しぶりだ。
「帰国して落ち着いたら、香澄が作ってくれた飯が食いたいな」
「初めて一緒に作ったの、お雑煮だっけ」
「はは、そうだ。餅は正義だよな」
「ねぇ、男の人ってハンバーグ、唐揚げ、カレー、オムライスが好きだって言うけど本当?」
「……好きだな」
まことしやかに言われている事を聞いてみたが、佑は神妙な顔をして頷く。
「ていうか、嫌いな人いないんじゃないか?」
ごく当たり前に聞いてくるので、香澄はもっと〝御劔佑〟らしい答えを欲しがる。
「世界中の高級料理を食べてるのに? もっとこう、トリュフ! とかキャビア! とか」
「寿司も好きだけど、ラーメンも好きだし、なんならコンビニおにぎりも好きだし」
その返事を聞いて、香澄は苦笑いした。
「お金持ちって一周回ってコンビニおにぎりになるのかな? アロイスさんとクラウスさんも、コンビニですごく楽しそうだったなぁ」
双子が突撃してきた時、コンビニで食べ物を一通り買って、二人でキャッキャとしていたのを思いだす。
ティラミスを食べた皿を洗い終わり手を拭くと、香澄はマグカップを出してキッチン台の上に置き、スツールに腰掛けた。
「ローマで何をしたい?」
不意に尋ねられ、香澄は「んー」と考える。
しばらく考え込んでから、ぽつんと呟いた。
「……本音を言ってもいい?」
「もちろん」
沸騰する寸前で火をとめ、佑はコーヒーをドリップしていく。
「イタリアって来た事がないし、観光したい。……でも、また今度のお楽しみでいいかな? って思ってる。……ごめんね。とっても高級なホテルに連泊させてもらってるのに、どうしても長旅の疲れが出ちゃってる。あちこち歩き回るより、のんびりしてたいかな」
コーヒーのいい香りがし、香澄は深く息を吸ってコーヒーアロマを堪能する。
「……疲れた?」
「ごめんね。もっと体力つける」
「いや、そうじゃない。気づけなくてごめん。……そうだよな。普通、ツアー旅行でも八日から十日、長くて二週間ぐらいだ。いきなり時差が激しいヨーロッパに連れてきて、あれこれ連れ回して疲れない訳がないよな」
佑がまた反省会を始める。
だから慌てて感謝を伝えた。
「私、ツアー旅行でもヨーロッパは来た事ないけどね。今回スペインとパリを楽しませてもらったから、残りはまた今度。贅沢な我が儘を言ってごめんね? つれて来てくれた事には、本当に感謝してるの」
「ん、分かった。コーヒー、牛乳入れるよな?」
「うん」
香澄はコーヒーを飲む時は、いつも無糖に牛乳だ。
もう一度スゥッと香りを吸い込み、目の前で佑が牛乳を注ぐのを見守る。
「どうぞ」
「ありがとう」
マグカップを受け取ったあと、また二人でソファに座り、くっつきあってコーヒーを飲む。
その上、マスカルポーネチーズの濃厚さがコーヒーの風味に負けずに重なり、得も言われぬハーモニーを生み出している。
「おいしい、おいしい」
こんなに美味しいティラミスに出会ったことはなく、香澄は夢中になってスプーンを動かす。
多めに盛り付けたはずなのに、あっという間に皿が空になってしまった。
「あぁー……」
感動した香澄はビールを飲んだあとのおじさんのような声を出し、「おいしかったぁ……」としみじみと呟く。
そんな彼女の様子を見て、佑は声もなく笑っている。
「コーヒー飲む?」
「うん」
佑の問いかけに頷くと、彼はキッチンに向かった。
そして道具を確認すると、コーヒーポットにミネラルウォーターを入れて火に掛ける。
勿論マキネッタもあるのだが、普通のドリップコーヒーの用意がされているのは客を気遣ってだろう。
「佑さんのコーヒー飲むの、久しぶりだな」
香澄はシンクで皿を洗う。
佑がコーヒーを淹れてくれるのもそうだが、こういう風にキッチンに並ぶのは久しぶりだ。
「帰国して落ち着いたら、香澄が作ってくれた飯が食いたいな」
「初めて一緒に作ったの、お雑煮だっけ」
「はは、そうだ。餅は正義だよな」
「ねぇ、男の人ってハンバーグ、唐揚げ、カレー、オムライスが好きだって言うけど本当?」
「……好きだな」
まことしやかに言われている事を聞いてみたが、佑は神妙な顔をして頷く。
「ていうか、嫌いな人いないんじゃないか?」
ごく当たり前に聞いてくるので、香澄はもっと〝御劔佑〟らしい答えを欲しがる。
「世界中の高級料理を食べてるのに? もっとこう、トリュフ! とかキャビア! とか」
「寿司も好きだけど、ラーメンも好きだし、なんならコンビニおにぎりも好きだし」
その返事を聞いて、香澄は苦笑いした。
「お金持ちって一周回ってコンビニおにぎりになるのかな? アロイスさんとクラウスさんも、コンビニですごく楽しそうだったなぁ」
双子が突撃してきた時、コンビニで食べ物を一通り買って、二人でキャッキャとしていたのを思いだす。
ティラミスを食べた皿を洗い終わり手を拭くと、香澄はマグカップを出してキッチン台の上に置き、スツールに腰掛けた。
「ローマで何をしたい?」
不意に尋ねられ、香澄は「んー」と考える。
しばらく考え込んでから、ぽつんと呟いた。
「……本音を言ってもいい?」
「もちろん」
沸騰する寸前で火をとめ、佑はコーヒーをドリップしていく。
「イタリアって来た事がないし、観光したい。……でも、また今度のお楽しみでいいかな? って思ってる。……ごめんね。とっても高級なホテルに連泊させてもらってるのに、どうしても長旅の疲れが出ちゃってる。あちこち歩き回るより、のんびりしてたいかな」
コーヒーのいい香りがし、香澄は深く息を吸ってコーヒーアロマを堪能する。
「……疲れた?」
「ごめんね。もっと体力つける」
「いや、そうじゃない。気づけなくてごめん。……そうだよな。普通、ツアー旅行でも八日から十日、長くて二週間ぐらいだ。いきなり時差が激しいヨーロッパに連れてきて、あれこれ連れ回して疲れない訳がないよな」
佑がまた反省会を始める。
だから慌てて感謝を伝えた。
「私、ツアー旅行でもヨーロッパは来た事ないけどね。今回スペインとパリを楽しませてもらったから、残りはまた今度。贅沢な我が儘を言ってごめんね? つれて来てくれた事には、本当に感謝してるの」
「ん、分かった。コーヒー、牛乳入れるよな?」
「うん」
香澄はコーヒーを飲む時は、いつも無糖に牛乳だ。
もう一度スゥッと香りを吸い込み、目の前で佑が牛乳を注ぐのを見守る。
「どうぞ」
「ありがとう」
マグカップを受け取ったあと、また二人でソファに座り、くっつきあってコーヒーを飲む。
21
お気に入りに追加
2,509
あなたにおすすめの小説
ミックスド★バス~家のお風呂なら誰にも迷惑をかけずにイチャイチャ?~
taki
恋愛
【R18】恋人同士となった入浴剤開発者の温子と営業部の水川。
お互いの部屋のお風呂で、人目も気にせず……♥
えっちめシーンの話には♥マークを付けています。
ミックスド★バスの第5弾です。
社長の奴隷
星野しずく
恋愛
セクシー系の商品を販売するネットショップを経営する若手イケメン社長、茂手木寛成のもとで、大のイケメン好き藤巻美緒は仕事と称して、毎日エッチな人体実験をされていた。そんな二人だけの空間にある日、こちらもイケメン大学生である信楽誠之助がアルバイトとして入社する。ただでさえ異常な空間だった社内は、信楽が入ったことでさらに混乱を極めていくことに・・・。(途中、ごくごく軽いBL要素が入ります。念のため)
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
【R18】エリートビジネスマンの裏の顔
白波瀬 綾音
恋愛
御社のエース、危険人物すぎます───。
私、高瀬緋莉(27)は、思いを寄せていた業界最大手の同業他社勤務のエリート営業マン檜垣瑤太(30)に執着され、軟禁されてしまう。
同じチームの後輩、石橋蓮(25)が異変に気付くが……
この生活に果たして救いはあるのか。
※サムネにAI生成画像を使用しています
【R18】豹変年下オオカミ君の恋愛包囲網〜策士な後輩から逃げられません!〜
湊未来
恋愛
「ねぇ、本当に陰キャの童貞だって信じてたの?経験豊富なお姉さん………」
30歳の誕生日当日、彼氏に呼び出された先は高級ホテルのレストラン。胸を高鳴らせ向かった先で見たものは、可愛らしいワンピースを着た女と腕を組み、こちらを見据える彼の姿だった。
一方的に別れを告げられ、ヤケ酒目的で向かったBAR。
「ねぇ。酔っちゃったの………
………ふふふ…貴方に酔っちゃったみたい」
一夜のアバンチュールの筈だった。
運命とは時に残酷で甘い………
羊の皮を被った年下オオカミ君×三十路崖っぷち女の恋愛攻防戦。
覗いて行きませんか?
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
・R18の話には※をつけます。
・女性が男性を襲うシーンが初回にあります。苦手な方はご注意を。
・裏テーマは『クズ男愛に目覚める』です。年上の女性に振り回されながら、愛を自覚し、更生するクズ男をゆるっく書けたらいいなぁ〜と。
【完結】やさしい嘘のその先に
鷹槻れん
恋愛
妊娠初期でつわり真っ只中の永田美千花(ながたみちか・24歳)は、街で偶然夫の律顕(りつあき・28歳)が、会社の元先輩で律顕の同期の女性・西園稀更(にしぞのきさら・28歳)と仲睦まじくデートしている姿を見かけてしまい。
妊娠してから律顕に冷たくあたっていた自覚があった美千花は、自分に優しく接してくれる律顕に真相を問う事ができなくて、一人悶々と悩みを抱えてしまう。
※30,000字程度で完結します。
(執筆期間:2022/05/03〜05/24)
✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼
2022/05/30、エタニティブックスにて一位、本当に有難うございます!
✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼
---------------------
○表紙絵は市瀬雪さまに依頼しました。
(作品シェア以外での無断転載など固くお断りします)
○雪さま
(Twitter)https://twitter.com/yukiyukisnow7?s=21
(pixiv)https://www.pixiv.net/users/2362274
---------------------
【R18】鬼上司は今日も私に甘くない
白波瀬 綾音
恋愛
見た目も中身も怖くて、仕事にストイックなハイスペ上司、高濱暁人(35)の右腕として働く私、鈴木梨沙(28)。接待で終電を逃した日から秘密の関係が始まる───。
逆ハーレムのチームで刺激的な日々を過ごすオフィスラブストーリー
法人営業部メンバー
鈴木梨沙:28歳
高濱暁人:35歳、法人営業部部長
相良くん:25歳、唯一の年下くん
久野さん:29歳、一個上の優しい先輩
藍沢さん:31歳、チーフ
武田さん:36歳、課長
加藤さん:30歳、法人営業部事務
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる