775 / 1,559
第十三部・イタリア 編
〝人は考える葦〟
しおりを挟む
『……後悔しても、どうにもなりませんね』
様々な思いから、そんな言葉が漏れた。
香澄に関わるあらゆる事、エミリアたちに下した沙汰、様々な後悔が佑の胸にのしかかっている。
『人生は前にしか進めない。した事を後悔するより、これから後悔しないように考え続けたまえ。〝人は考える葦〟だ。思考する事は尊く、ゆえに人間は、人生は面白い』
『はい』
人生の大先輩から言われ、佑は微笑んで頷く。
『それより、今の君に必要なのは休憩ではないかね? 私ならいつでも話し相手になる。今は離れに戻って、夕食までゆっくり休みたまえ』
『ありがとうございます。そうします』
佑は礼を言い、立ち上がった。
マルコと軽くハグをし、リビングにいるルカたちに挨拶をして母屋を出ていく。
外に出ると爽やかな秋風が心地いい。
自分は今、太陽の恵み溢れるローマにいるのだと思い、深呼吸をした。
離れに戻ると、足音を殺してベッドルームに入る。
相変わらず香澄はくうくう寝ていて、佑は笑みを零した。
(もう少し、人を信じなければ)
香澄にも「私を信じて」と言われた。
なにより大切な彼女の言葉を受け入れず、突っ走ろうとした自分に苦い笑いが漏れる。
立ち止まって休憩している時は、マルコの言葉をすんなり聞き、「あの時の自分はこうだった」と反省できる。
しかしまた香澄が危機に陥るような事があれば、そんな心の余裕は決して生まれないのは分かっている。
(せめて平和な時ぐらいは、なるべく自分を甘やかすようにしよう)
まじめで根っからの仕事人である佑は、自分に休憩を与えるのがとても下手だ。
休日に家で過ごそうと思っても、つい端末を弄ってしまっている。
だから出雲を誘って食事に行くとか、兄弟からの誘いがあれば応じて、何もなければドライブをして時間を過ごしていた。
(今後、香澄を側に置きながら、できるだけ二人ともゆっくり過ごすためには、どうすればいいのか考えていかなければ)
考えながら香澄の無防備な寝姿を見ているが、愛しさが溢れて仕方がない。
「香澄、愛してるよ」
気が付けば彼女に愛を囁き、そんな自分に笑みが零れる。
自分にとって、香澄を愛する事は当たり前で、なくてはならないものだ。
佑は彼女がそこにいる事を確認して安心し、ジャケットを脱ぐ。
ジャケットをウォークインクローゼットのハンガーに掛けてから、スーツケースの中にある服も収納していく。
香澄の服も掛けてあげたかったが、スーツケースの鍵はバッグに入っているのでやめておいた。
半袖白Tシャツとスウェットに着替え、佑も少し横になる事にした。
「お邪魔します」
もそりと羽根布団を捲って香澄の隣に寝転ぶと、彼女の体温で布団が温まっていて思わず笑みが漏れる。
「ぬくぬくうさぎだな」
愛しくて堪らず、佑は香澄の肩を抱きその頭に唇を押しつける。
「んぅ……?」
と、起こしてしまったのか、香澄がムニャムニャ言いながら目を開けた。
「ごめん、起こしたか?」
「んーん。……寝るの?」
「ああ、俺も疲れたから少し寝る」
「うん……。寝よ」
眠たそうに、幸せそうに寝ぼけている香澄は、佑に抱きついてまた目を閉じた。
(ああ、可愛い……)
すっかりリラックスした佑は、香澄の匂いを思いきり嗅いでから、息を吐くと同時に体から力を抜いていく。
(ここずっと、体に余計な力が入りっぱなしだった気がする。香澄にも気を遣わせてしまったかもしれない)
一人反省会を始めるも、香澄の体温を感じていると、どんどん思考能力が落ちていく。
それでも「ローマでの今後の予定を……」と思っていたが、そのうちストンと眠りの淵に落ちてしまった。
**
「…………ん……」
ふ……と目が覚めると、知らない天井がある。
(どこだっけ……)
ぼんやりとした頭では何も考えられない。
とりあえず札幌の実家でもないし、札幌の賃貸マンションでもない。
モソリと身じろぎすると、体の上に掛かっている腕が力なく香澄を抱いた。
様々な思いから、そんな言葉が漏れた。
香澄に関わるあらゆる事、エミリアたちに下した沙汰、様々な後悔が佑の胸にのしかかっている。
『人生は前にしか進めない。した事を後悔するより、これから後悔しないように考え続けたまえ。〝人は考える葦〟だ。思考する事は尊く、ゆえに人間は、人生は面白い』
『はい』
人生の大先輩から言われ、佑は微笑んで頷く。
『それより、今の君に必要なのは休憩ではないかね? 私ならいつでも話し相手になる。今は離れに戻って、夕食までゆっくり休みたまえ』
『ありがとうございます。そうします』
佑は礼を言い、立ち上がった。
マルコと軽くハグをし、リビングにいるルカたちに挨拶をして母屋を出ていく。
外に出ると爽やかな秋風が心地いい。
自分は今、太陽の恵み溢れるローマにいるのだと思い、深呼吸をした。
離れに戻ると、足音を殺してベッドルームに入る。
相変わらず香澄はくうくう寝ていて、佑は笑みを零した。
(もう少し、人を信じなければ)
香澄にも「私を信じて」と言われた。
なにより大切な彼女の言葉を受け入れず、突っ走ろうとした自分に苦い笑いが漏れる。
立ち止まって休憩している時は、マルコの言葉をすんなり聞き、「あの時の自分はこうだった」と反省できる。
しかしまた香澄が危機に陥るような事があれば、そんな心の余裕は決して生まれないのは分かっている。
(せめて平和な時ぐらいは、なるべく自分を甘やかすようにしよう)
まじめで根っからの仕事人である佑は、自分に休憩を与えるのがとても下手だ。
休日に家で過ごそうと思っても、つい端末を弄ってしまっている。
だから出雲を誘って食事に行くとか、兄弟からの誘いがあれば応じて、何もなければドライブをして時間を過ごしていた。
(今後、香澄を側に置きながら、できるだけ二人ともゆっくり過ごすためには、どうすればいいのか考えていかなければ)
考えながら香澄の無防備な寝姿を見ているが、愛しさが溢れて仕方がない。
「香澄、愛してるよ」
気が付けば彼女に愛を囁き、そんな自分に笑みが零れる。
自分にとって、香澄を愛する事は当たり前で、なくてはならないものだ。
佑は彼女がそこにいる事を確認して安心し、ジャケットを脱ぐ。
ジャケットをウォークインクローゼットのハンガーに掛けてから、スーツケースの中にある服も収納していく。
香澄の服も掛けてあげたかったが、スーツケースの鍵はバッグに入っているのでやめておいた。
半袖白Tシャツとスウェットに着替え、佑も少し横になる事にした。
「お邪魔します」
もそりと羽根布団を捲って香澄の隣に寝転ぶと、彼女の体温で布団が温まっていて思わず笑みが漏れる。
「ぬくぬくうさぎだな」
愛しくて堪らず、佑は香澄の肩を抱きその頭に唇を押しつける。
「んぅ……?」
と、起こしてしまったのか、香澄がムニャムニャ言いながら目を開けた。
「ごめん、起こしたか?」
「んーん。……寝るの?」
「ああ、俺も疲れたから少し寝る」
「うん……。寝よ」
眠たそうに、幸せそうに寝ぼけている香澄は、佑に抱きついてまた目を閉じた。
(ああ、可愛い……)
すっかりリラックスした佑は、香澄の匂いを思いきり嗅いでから、息を吐くと同時に体から力を抜いていく。
(ここずっと、体に余計な力が入りっぱなしだった気がする。香澄にも気を遣わせてしまったかもしれない)
一人反省会を始めるも、香澄の体温を感じていると、どんどん思考能力が落ちていく。
それでも「ローマでの今後の予定を……」と思っていたが、そのうちストンと眠りの淵に落ちてしまった。
**
「…………ん……」
ふ……と目が覚めると、知らない天井がある。
(どこだっけ……)
ぼんやりとした頭では何も考えられない。
とりあえず札幌の実家でもないし、札幌の賃貸マンションでもない。
モソリと身じろぎすると、体の上に掛かっている腕が力なく香澄を抱いた。
33
お気に入りに追加
2,572
あなたにおすすめの小説
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

オオカミ課長は、部下のウサギちゃんを溺愛したくてたまらない
若松だんご
恋愛
――俺には、将来を誓った相手がいるんです。
お昼休み。通りがかった一階ロビーで繰り広げられてた修羅場。あ~課長だあ~、大変だな~、女性の方、とっても美人だな~、ぐらいで通り過ぎようと思ってたのに。
――この人です! この人と結婚を前提につき合ってるんです。
ほげええっ!?
ちょっ、ちょっと待ってください、課長!
あたしと課長って、ただの上司と部下ですよねっ!? いつから本人の了承もなく、そういう関係になったんですかっ!? あたし、おっそろしいオオカミ課長とそんな未来は予定しておりませんがっ!?
課長が、専務の令嬢とのおつき合いを断るネタにされてしまったあたし。それだけでも大変なのに、あたしの住むアパートの部屋が、上の住人の失態で水浸しになって引っ越しを余儀なくされて。
――俺のところに来い。
オオカミ課長に、強引に同居させられた。
――この方が、恋人らしいだろ。
うん。そうなんだけど。そうなんですけど。
気分は、オオカミの巣穴に連れ込まれたウサギ。
イケメンだけどおっかないオオカミ課長と、どんくさくって天然の部下ウサギ。
(仮)の恋人なのに、どうやらオオカミ課長は、ウサギをかまいたくてしかたないようで――???
すれ違いと勘違いと溺愛がすぎる二人の物語。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる