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第十三部・イタリア 編

フィオーレ家の離れ

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『これ、食べられるんですか? バルセロナの街路樹のオレンジは食べられないって聞きました。あと今は秋ですけど、実がなっているんですね?』

 質問すると、ルカが明るく答えてくれる。

『食べられるよ! シチリア島やカプリ島、アマルフィもレモンで有名だし、お菓子もよく作られるね。料理にも使うし、万能選手だ。ちなみにレモンはイタリアだと通年実がなっているんだ。旬は冬っていう事になっているけどね』

『そうなんですね。果物の旬が冬って、何だか意外です。ふぅん……レモンの料理……。食べてみたいです!』

 食いしん坊の片鱗を見せると、彼は太陽にように笑う。

『あはは! そう言うと思ってた。ノンナがきっと腕を振るってくれるよ』

 離れに入り、香澄はぐるりと中を見回す。

 荷物は河野たちが先に運んでくれていた。

 離れも母屋にも引けを取らないゴージャスさで、香澄はポーッとしたまま天井や壁を見る。
 自宅にシャンデリアが下がり、天使が飛ぶフレスコ画があるなんて、本当に贅沢だ。

『とりあえず、ベッドルームに行こうか。マスターベッドルームに二人で寝てもらうけど、いいよね?』

『勿論だ』

 香澄がリアクションする前に、佑が即答する。

 最奥にある部屋まで行くと、ヘッドボードの金装飾が美しいベッドがある。
 アンティークな作りはそのままに、マットレスやリネン類は高級品を使っているようだ。

『スーツケースはそこに置いてもらったよ。備え付けの家具やキッチンも自由に使っていいからね。バスルームとトイレはこっち』

 ついて行くと、最新式のジェットバスとシャワーボックス、そして洗面所とトイレがあった。

『この離れは二家族くらい泊まれるぐらい広くて、部屋数もある。だから秘書や運転手、護衛の人も別の部屋に泊まってもらう事にした。構わないね?』

『ああ』

 佑が頷き、香澄は安堵する。

 何となく、イタリアでもイチャイチャするのかな、と思っていた。
 しかしフィオーレ家に泊まるのなら、まさか人様の家でセックスはできない。

 加えて河野たちも同じ屋根の下にいるなら、佑もきっと自重してくれるはずだ。

『冷蔵庫の中身も、ホテルのミニバーにあるような物は入れておいたし、ちょっとしたデザートも入っているから、自由に食べていいからね』

『ありがとうございます』

 至れり尽くせりでありがたい。

 ニセコにいた時、心の清涼剤になってくれたのはルカで、彼には心から感謝している。
 数週間の仲で、昔からの知り合いという訳ではない。
 それなのにこうしてローマの実家に快く招いてくれ、家族ぐるみで歓迎してくれて、とても温かな気持ちになる。

(やっぱり世の中、捨てたもんじゃないなぁ……。いい人いっぱいだ)

 嬉しくなってニコニコしていると、ルカと目が合ってウインクをされた。

『じゃあ、夕食になるまでゆっくりしていて。夕食は少し遅めにするから、疲れを取ってね』

 最後にルカは「Ciao!」と言って離れを去っていった。

「はぁ……。本当に凄い建物」

 日本語モードに思考を切り替えると、気持ちが楽になる。

 英語ができると言っても、頭はフル回転で単語や熟語を思いだしている。
 ネイティブのように無意識に話せるとは言えないので、ずっと英語ばかり話しているとやはり疲れる。

「もう休むか? さっきカプチーノを飲んだけど、何か飲んでゆっくりする?」

「じゃあ、ちょっとだけ佑さんとお話したいかな」

 そう言うと、佑は嬉しそうに微笑んで「じゃあ、座っていて」とキッチンに向かった。
 ぼんやりとリビングのソファに座って室内の装飾を眺めていると、佑がすぐに手にペットボトル持って戻ってきた。

「それ、なぁに?」

「日本のお茶だよ。ほら」

 見せられたのは、日本のスーパーやコンビニでおなじみのパッケージだ。

「こっちにも日本食のお店があるのかな」

「そりゃああると思うよ。でもわざわざ口に合う物を買って、用意してくれていたんだな。ありがたい」

 佑が向かいに座り、グラスにお茶をトクトクと注ぐ。

「お茶、久しぶりな気がする」

「そうだな。海外だと砂糖入りのグリーンティーとかもあるし」

「ふふ、それ」

 海外に来て色々驚く事はあるが、日本食を改変した物を見かけると、感心してしまう。

 日本の文化を取り入れつつ、その土地の人間に合う味付けや食べ方をしていると思うと、「工夫してるなぁ」と感じるのだ。
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