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第十三部・イタリア 編

フィオーレ家の歓迎

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 佑と香澄には来客用の離れが用意されていて、どうやらそこに泊まっていいようだ。

 離れに荷物を置くと、二人は母屋に挨拶に向かう。

 門をくぐってすぐにある、女神像のある噴水も凄かったが、整然と刈り込まれた左右対称の植え込みも凄い。
 屋敷にそって生えている香澄の背丈より大きい木は、レモンやオレンジらしい。

 白壁の建物はどっしりとしていて、窓の格子が細かい。
 中から外の景色を楽しむ事はできなさそうだな、と思うが、昔からの歴史ある屋敷のようだから、現代の建築と一緒にしてはいけないのだろう。

『タスク、久しぶりだな』

『マルコ、お久しぶりです』

 目の前で佑がマルコという男性とハグをしているあいだ、香澄はマルコの妻とおぼしき女性に『ようこそ、あなたがカスミさんね』とハグとチークキスをされた。
 どうやら彼女はカロリーヌというらしい。

『初めまして。カスミ・アカマツと申します。どうぞ宜しくお願い致します。私の事を……あ、ルカさんからお聞きなんですね』

 ニコッと笑うと、女性はいつくしむ微笑を浮かべた。続いてマルコが近付いてきて微笑む。

『あなたがカスミさんか。どれ、よく姿を見せてくれ』

 マルコは香澄と握手とハグ、チークキスをしたあと、一歩下がってしげしげと香澄の姿を見る。

(ん?)

 まるで元から知っていて、現在の姿をよく確認されているようだ。

(子供の頃、お爺ちゃんとお婆ちゃんに会いに行ったら、こういう反応をされたっけ)

 よく分からないが失礼のないようにピシッと立っていると、やがてマルコが「Era veramente buono. (本当に良かった)」とイタリア後で呟いた。

 香澄は何を言われたのか分からず、不安げに佑を見る。

「マルコと以前会った時、婚約者の話をしていたから、噂の女性を見られて感動しているんだよ」

「あ……。そうなんだ」

 謎が解けてニコニコしていると、赤ん坊を抱っこした美女がルカと早口のイタリア語で話している。
 その足元には小さな男の子がいて、母親を不思議そうに見上げていた。

『タスク。これ、僕の妹のパオラなんだけど……いてっ、この通り大好きなタスク・ミツルギに興奮してて……。いてってば!』

 ミーハーを隠さない美女は、何やらキャアキャア言いながらルカの背中を叩いている。
 堪らず抱かれている赤ちゃんが泣き始めたので、カロリーヌが代わりに抱っこをした。

「佑さん、ファンのためにちゃんとご挨拶してあげて」

 微笑ましくなって言うと、佑がイタリア後で挨拶を始めた。

《初めまして。パオラさん? タスク・ミツルギです》

 差し出された手を見て、パオラは顔を真っ赤にして「マンマミーア!」と叫んでいる。

(本当に佑さんのファンなんだなぁ……)

 佑がにっこり笑ってパオラと握手をすると、彼女は絶叫してしゃがみ込んでしまった。

『妹はね、本当にタスクのファンなんだ。部屋に日本から取り寄せて買った雑誌の切り抜きを、ポスター大になるまで引き伸ばして額に入れて飾ってるんだ』

『それは……』

 日本でも佑のファンは大勢見てきたが、ここまでスター扱いされているのも初めてかもしれない。
 そういえば、彼女が着ている服もChief Everyの物だ。

 日本でも佑をそのようにして好いているファンもいるかもしれないが、佑や香澄が直接知る機会が少ないだけだろう。

 涙ぐんだパオラはしっかりと両手で佑の手を握り、何度もブンブンと握手をしている。
 勇気が出たのか彼女は佑にハグを求め、佑も礼儀として軽く応える。

『妬ける?』

 不意にルカが尋ねてくるが、香澄は笑って首を横に振る。

『まさか。あんな風に純粋な好意を向けてくださる方に、妬いたりなんかしません。それに旦那さんだっていらっしゃるでしょう?』

『確かに』

 太陽のような笑みを浮かべたルカが、『僕はタスクに遠慮してカスミにハグできなかったんだけどな』と思ったのは秘密だ。





「うわぁ……! すごい……!」

 フィオーレ家の玄関に入ると、天井や壁一面にフレスコ画が描かれている。
 天井は絵が描かれているだけではなく、家紋が立体的な金の装飾で囲まれている。

 壁際には神殿を思わせる円柱が林立し、家の中だというのに噴水まであった。
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