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第十二部・パリ 編

イタリア行きを控えて

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「オペラ座付近はギャラリー・ラフィアットや、高級な店があるから客層がいい。以前に東京のラーメン屋オーナーと話したけど、パリではラーメン屋の客層は三十代ぐらいからみたいだ。稼ぎのある大人向かな」

「そうなんだ。……で、そのギャラリー・ラフィアットって何? 美術館?」

 ギャラリーとついているのでそう尋ねると、彼は微笑んで教えてくれる。

「百貨店だよ。オペラ座と並んでとても綺麗な建物だから、行くだけ行ってみないか?」

「じゃあ、行く! あと、オペラ座の外観も写真に撮りたいな。私『劇団百花』の公演で見た『オペラ座の怪人』の大ファンなの! あそこでクリスティーヌとファントムが……」

 香澄は珍しくミーハーな事を言い、ニヤニヤし始める。
 初めて見たミュージカルが『オペラ座の怪人』で、鳥肌が立つほどの感動を味わった。

「それは初耳だな」

「すっごい大感動して歌も全部歌えるぐらいCDを聞いたの。それ以来、原作の翻訳小説とか、関連小説、映画、オマージュになっている漫画は好んで読んでるかな」

「じゃあ、今度ブロードウェイのチケット取っておくか」

「ホント!?」

 佑の〝買い与え〟にほとんど反応を示さなくなった香澄が、悲鳴に似た声を上げて目をキラキラさせる。

 彼が内心「釣れた!」とガッツポーズを取っているのを知らない香澄は、本場のミュージカルへの思いを馳せた。





 そのあと支度をしてラーメン屋に向かい、コース仕立ての美味しい塩ラーメンを食べた。

 食後はオペラ座の裏にあるギャラリー・ラフィアットに向かう。

 まるでおとぎ話のような煌びやかなドームの下に店がひしめき合い、香澄は思わず札幌にある商業施設のドームを思いだしていた。

 憧れのオペラ座の写真も沢山撮れ、お土産も買った。

 パリで過ごすのはあと一日となり、ホテルに戻る頃にはローマにいるルカの事を考え始めていた。





「明日はどうする?」

 佑と一緒に風呂に入り、いつものように念入りなお手入れをして髪の毛も乾かしたあと、香澄はパジャマに着替えていた。

 と言ってもパリの店で買ってもらった物で、お洒落で可愛くどこかセクシーだ。
 シルクサテンのスリップの下はノーブラで、お揃いのパンティを穿いているので気分が上がっている。

 その上にガウンを羽織った香澄は、カウチソファの上でV字バランスやプランクなど、簡単にできるエクササイズを頑張っていた。

「明後日はイタリアに移動でしょう? 疲れたら困るし、予備日としてホテルでゆっくりしよ。近くのカフェに行ってもいいし」

「そうだな、そうしようか」

 佑はTシャツにスウェットパンツで、こちらもリラックスした姿だ。

 彼はブルーライト対策の眼鏡をかけ、リビングにあるデスクでノートパソコンのキーボードを打っている。
 ときおり横にあるタブレットをチェックしているのは、トレードのチャートだろうか。

(忙しい人だもんなぁ。パリは佑さんの用事とはいえ、お仕事をする時間もなきゃ駄目だよね。本当なら私を接待してないで、リモートでも働かないといけないのに)

 佑は暇さえできればあちこちに連絡をして、色んな国の言語で話している。

 頭が良くて仕事のスピードが速く、部下に割り当てる仕事や指示も的確。
 そんな完璧社長の側にいると無力感を覚えるが、せめてプライベートでは彼の心を癒やす役割を果たそうと思った。

「……一分」

 プランクを終え、香澄はふぅ、と溜め息をついて起き上がる。

「ローマ、楽しみだね」

「ああ」

「マリアさんにも会えるのかな? うまくいってるといいんだけど」

「連絡先交換してたんだっけ?」

「うん。でも連絡がないって事はうまくいってるのかな? ルカさん、情熱的っぽいから、ラブラブモードになると他の人は目に入らないんじゃないかな」

「ふぅん? 随分彼の事を知っている口ぶりだな?」

(やば……)

 佑の不機嫌そうな声を聞き、香澄はそろり……と顔を逸らした。

「……先日、動画でそういう犬を見たな。悪戯をして後ろめたいと、主人に目を合わせない犬……」

「……い、犬じゃない」

 そう言いつつも香澄は佑から顔を逸らしている。

「香澄がうさぎなのは分かってるけどな?」

「も、もぉ。うさぎでもないよ」

 いつものやり取りをしたあと、気になった事を尋ねた。
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