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第十二部・パリ 編
パリのラーメン
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「今日も美味しい物食べようか」
「……うん」
幸せそうに返事をし、香澄がふわぁ……と欠伸をする。
(この幸せを守るためなら、何だってしてみせる)
香澄の甘い香りを吸い、佑は自身に誓いを立てた。
「起きる? もう少し寝る? まだ六時半ぐらいだけど」
「んー……。もうちょっとゴロゴロしてたい。ちゃんと起きるから」
「ゆっくりでいいよ」
佑は伸びをし、今日はどこに行こうか思考を巡らせる。
パリにならいつでも来られるが、仕事から離れた今だからこそ、香澄との時間を大切にしたい。
――勿論ヨーロッパに来ている間も、松井から頻繁にメールがあり、確認したり電話をかけているのだが……。
**
「どこか行きたい所はある? 食べたい物やショッピング、何でも言ってみて」
昨晩変な空気になったからか、佑がいつも以上に甘やかしてくる。
「……お父さんみたい」
「だから」
思わずいつもの言葉を呟くと、あからさまに佑が落ち込んだ。
時間は九時半で、ルームサービスで優雅に朝食をとったあとだ。
リクエスト通りマッシュルームが沢山盛られ、香澄は「美味しい、美味しい」と言いながらペロリと平らげた。
「麻衣や家族にお土産は買いたいけど、私の買い物はもういいからね。特にハイブランドの。もう入れる所もないし」
遠い目で言うと、佑がとんでもない事を言う。
「二階も三階も空き部屋があるから、そこを新しいウォークインクローゼットにすればいいだろ?」
「思考回路が違う……」
がくり、と俯きつつ、ミルクティーを飲みながらのチョコレートが止まらない。
帰国して体重計に乗るのが恐怖だ。
(ショウコさんにまた鍛えてもらわないと)
佑が香澄の体型に注文をつけないとはいえ、もともと体のバランスを褒められてモデル役を頼まれた。
自分ではプロポーションがいいと思っていないが、彼のインスピレーションが湧きやすい体型でいなければとは思っている。
「……しかし我ながら、独り身なのにでかい家を建てたな。いや、将来子沢山な家庭にしたいとは思っていたけど」
「お陰様でいい暮らしをさせて頂いています」
ペコリとお辞儀をすると、佑も「どういたしまして」と笑ってくれる。
「それで、んー。今日の予定ね……。お土産の買い物ついでに、昼食は予約のいるお店じゃなくて、行き当たりばったりにしてみない?」
「そうだな。じゃあ、食べたい物のジャンルを決めておくか」
言われて考えるが、望む物はあらかた食べた気がする。
食べたい物に悩んでいると、急に日本の味噌や醤油の味が恋しくなった。
「……日本食か、ラーメンがいいな」
ポツリと呟くと、「よしそうしよう」とすぐさま返事をされる。
「ひいきにしているラーメン屋のパリ支店があるんだ。美味しいからそこに行こう」
「うん、ラーメン食べたい!」
佑と一緒にラーメンを食べられるのが嬉しく、香澄はご機嫌になる。
それからコーディネートについて考え始めた。
「じゃあ、今日はカジュアルめでもいいかな? あれ、でもこっちの人ってラーメンを食べる時、高級ディナーみたいな感覚なんだっけ?」
「そうだな。シェフがこだわった料理だからと、きちんとした服装で食べる人もいる。日本のように部屋着みたいな服でも入れる店……とは、少し感覚が違うんだろうな。星がついている店もあるし、基本的にフランスは食に敬意を払っている国だから」
「じゃあ普通にお洒落していくね。それにしても、海外で日本のラーメンが人気ってニュースで見たけど、実際その通りなんだね」
「オペラ座付近は、日本食店や和食レストランがひしめき合っている、アジア食品街って言えるよ」
「そうなんだ。何だか嬉しいな」
ラーメンが憧れの国で人気があると思うと、嬉しくなる。
「パリでは日本の倍くらいの値段がするけど、見合ったサービスをしているからウケがいいんだと思う。コース仕立てにしている所もあるから、日本みたいな庶民的な感覚とは違うだろうな」
「コースは知らなかった」
驚いて目を丸くすると、佑が微笑む。
「……うん」
幸せそうに返事をし、香澄がふわぁ……と欠伸をする。
(この幸せを守るためなら、何だってしてみせる)
香澄の甘い香りを吸い、佑は自身に誓いを立てた。
「起きる? もう少し寝る? まだ六時半ぐらいだけど」
「んー……。もうちょっとゴロゴロしてたい。ちゃんと起きるから」
「ゆっくりでいいよ」
佑は伸びをし、今日はどこに行こうか思考を巡らせる。
パリにならいつでも来られるが、仕事から離れた今だからこそ、香澄との時間を大切にしたい。
――勿論ヨーロッパに来ている間も、松井から頻繁にメールがあり、確認したり電話をかけているのだが……。
**
「どこか行きたい所はある? 食べたい物やショッピング、何でも言ってみて」
昨晩変な空気になったからか、佑がいつも以上に甘やかしてくる。
「……お父さんみたい」
「だから」
思わずいつもの言葉を呟くと、あからさまに佑が落ち込んだ。
時間は九時半で、ルームサービスで優雅に朝食をとったあとだ。
リクエスト通りマッシュルームが沢山盛られ、香澄は「美味しい、美味しい」と言いながらペロリと平らげた。
「麻衣や家族にお土産は買いたいけど、私の買い物はもういいからね。特にハイブランドの。もう入れる所もないし」
遠い目で言うと、佑がとんでもない事を言う。
「二階も三階も空き部屋があるから、そこを新しいウォークインクローゼットにすればいいだろ?」
「思考回路が違う……」
がくり、と俯きつつ、ミルクティーを飲みながらのチョコレートが止まらない。
帰国して体重計に乗るのが恐怖だ。
(ショウコさんにまた鍛えてもらわないと)
佑が香澄の体型に注文をつけないとはいえ、もともと体のバランスを褒められてモデル役を頼まれた。
自分ではプロポーションがいいと思っていないが、彼のインスピレーションが湧きやすい体型でいなければとは思っている。
「……しかし我ながら、独り身なのにでかい家を建てたな。いや、将来子沢山な家庭にしたいとは思っていたけど」
「お陰様でいい暮らしをさせて頂いています」
ペコリとお辞儀をすると、佑も「どういたしまして」と笑ってくれる。
「それで、んー。今日の予定ね……。お土産の買い物ついでに、昼食は予約のいるお店じゃなくて、行き当たりばったりにしてみない?」
「そうだな。じゃあ、食べたい物のジャンルを決めておくか」
言われて考えるが、望む物はあらかた食べた気がする。
食べたい物に悩んでいると、急に日本の味噌や醤油の味が恋しくなった。
「……日本食か、ラーメンがいいな」
ポツリと呟くと、「よしそうしよう」とすぐさま返事をされる。
「ひいきにしているラーメン屋のパリ支店があるんだ。美味しいからそこに行こう」
「うん、ラーメン食べたい!」
佑と一緒にラーメンを食べられるのが嬉しく、香澄はご機嫌になる。
それからコーディネートについて考え始めた。
「じゃあ、今日はカジュアルめでもいいかな? あれ、でもこっちの人ってラーメンを食べる時、高級ディナーみたいな感覚なんだっけ?」
「そうだな。シェフがこだわった料理だからと、きちんとした服装で食べる人もいる。日本のように部屋着みたいな服でも入れる店……とは、少し感覚が違うんだろうな。星がついている店もあるし、基本的にフランスは食に敬意を払っている国だから」
「じゃあ普通にお洒落していくね。それにしても、海外で日本のラーメンが人気ってニュースで見たけど、実際その通りなんだね」
「オペラ座付近は、日本食店や和食レストランがひしめき合っている、アジア食品街って言えるよ」
「そうなんだ。何だか嬉しいな」
ラーメンが憧れの国で人気があると思うと、嬉しくなる。
「パリでは日本の倍くらいの値段がするけど、見合ったサービスをしているからウケがいいんだと思う。コース仕立てにしている所もあるから、日本みたいな庶民的な感覚とは違うだろうな」
「コースは知らなかった」
驚いて目を丸くすると、佑が微笑む。
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