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第十二部・パリ 編
満腹うさぎ
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「皆さん、休日って何をしてるんですか?」
香澄の素朴な疑問に、主に呉代と久住が固まった。
呉代はまさか合コン三昧だと言えず、久住も彼女ができず料理に逃げているなど言えない。
久住の家は、女性を呼ぶとドン引きされるほど料理設備が整っていると、香澄は知らなかった。
二人は視線を泳がせ半笑いになる。
なお、佐野も彼女がいないのだが、彼はもともと孤独を愛する気質らしく、特に苦に思っていないらしい。
「まぁ、色々ですよ。趣味とか、体鍛えたりとか」
「そうですね。たゆまぬ努力が実を結びますから」
呉代と久住がそれらしい事を言う。
佑は彼らが白々しい嘘を言っていると知っているが、特に何も言わない。
香澄は何も知らないので、「凄いプロ意識ですね」と、うんうん頷いた。
調理時間が短い料理から順番に運ばれ、前菜やサラダがテーブルに載る。
そのあと、ムール貝の酒蒸しがバケツ一杯に出て、全員でお喋りしながらかぶりつく。
(おいし……)
さすが美食の街だ。
勿論ピンキリなのだろうが、佑が選んだ店は何を食べても美味しい。
食べながら気にしているのは、他のテーブルにある、どんっとした塊の肉料理だ。
「凄いね、あっちのテーブルのお肉」
コソッと佑に囁くと、彼がにんまりと笑った。
「ああいうの食べたいだろ? オーダーしておいた」
「えっ?」
驚いて目を丸くすると、佑はしたり顔でつけ加える。
「香澄が肉の申し子なのは分かってるよ。思う存分食べて満足してくれ」
すべてを知っているという顔で微笑まれ、香澄は思わず親指を立てた。
「恩に着ます」
やがて巨大な肉――骨付きリブロースが三皿運ばれてきた。
勿論、二皿は河野たちのテーブルに置かれる。
肉はオーブンでじっくり焼かれていて、テーブルで切り分けて食べるようになっている。
味つけは岩塩、肉汁のソース、ハーブペッパーが小さな器に入っていた。
佑が切り分けてくれて、香澄はさっそく肉を頬張る。
塊肉なのでしっかりした肉質というイメージがあったが、実際食べてみるととてもジューシーで柔らかい。
「んむ、むぐ」
すぐに病みつきになった香澄は、あれこれ味変をして肉を楽しむ。
隣のテーブルでも「うまいうまい」と声が聞こえ、いつもの佑と二人での食卓も好きだが、大人数で囲む食卓はやはりいいと思った。
帰りの車に乗る頃には、満腹になって目をうとうとさせていた。
**
ホテルに戻ったあと、香澄はブラジャーのホックを外してソファに寝転んでいた。
ヨーロッパに来てから本能のままに生きている気がして、このままでは駄目人間になりそうだ。
それでも三大欲求には勝てず、食欲が満たされたあとは睡眠欲に支配されようとしている。
「香澄、風呂の用意ができたよ」
「んー」
生返事をしてまだ寝転んでいると、近づいてきた佑がラップワンピースのリボンを解く。
加えてパンプスを脱がせ、コトンと床に置いた。
それからワンピースの前面にあるボタンを外していく。
「う……ん。まだ寝る……」
「はい、腕抜いて」
「んー」
言われた通り腕を上げると、ワンピースを脱がされた。
スリップ姿の香澄は、まだ強情にゴロゴロしている。
「本能的な香澄も可愛いよ」
そう言われてはさすがに恥ずかしくなり、人間らしい返事をする。
「……ごめんなさい。本当にお腹一杯で……。眠たい……」
「いいよ。満足させられたなら嬉しいから。じゃあ、もう少し休んでいて。俺は少し買い物をしてくる」
そう言った佑にヒョイッと抱き上げられ、ベッドルームまで運ばれる。
「風邪を引かないように、布団を被って寝てなさい」
「ん……」
ぱふっと体の上に羽根布団が掛けられ、頭を撫でられる。
照明も小さくなり、香澄はすぐに眠りの淵へ落ちていってしまった。
佑が何を買いに行ったのか、もしこの時に教えてもらっていたなら、後から恥ずかしい思いをしなくて済んだかもしれなかった――。
香澄の素朴な疑問に、主に呉代と久住が固まった。
呉代はまさか合コン三昧だと言えず、久住も彼女ができず料理に逃げているなど言えない。
久住の家は、女性を呼ぶとドン引きされるほど料理設備が整っていると、香澄は知らなかった。
二人は視線を泳がせ半笑いになる。
なお、佐野も彼女がいないのだが、彼はもともと孤独を愛する気質らしく、特に苦に思っていないらしい。
「まぁ、色々ですよ。趣味とか、体鍛えたりとか」
「そうですね。たゆまぬ努力が実を結びますから」
呉代と久住がそれらしい事を言う。
佑は彼らが白々しい嘘を言っていると知っているが、特に何も言わない。
香澄は何も知らないので、「凄いプロ意識ですね」と、うんうん頷いた。
調理時間が短い料理から順番に運ばれ、前菜やサラダがテーブルに載る。
そのあと、ムール貝の酒蒸しがバケツ一杯に出て、全員でお喋りしながらかぶりつく。
(おいし……)
さすが美食の街だ。
勿論ピンキリなのだろうが、佑が選んだ店は何を食べても美味しい。
食べながら気にしているのは、他のテーブルにある、どんっとした塊の肉料理だ。
「凄いね、あっちのテーブルのお肉」
コソッと佑に囁くと、彼がにんまりと笑った。
「ああいうの食べたいだろ? オーダーしておいた」
「えっ?」
驚いて目を丸くすると、佑はしたり顔でつけ加える。
「香澄が肉の申し子なのは分かってるよ。思う存分食べて満足してくれ」
すべてを知っているという顔で微笑まれ、香澄は思わず親指を立てた。
「恩に着ます」
やがて巨大な肉――骨付きリブロースが三皿運ばれてきた。
勿論、二皿は河野たちのテーブルに置かれる。
肉はオーブンでじっくり焼かれていて、テーブルで切り分けて食べるようになっている。
味つけは岩塩、肉汁のソース、ハーブペッパーが小さな器に入っていた。
佑が切り分けてくれて、香澄はさっそく肉を頬張る。
塊肉なのでしっかりした肉質というイメージがあったが、実際食べてみるととてもジューシーで柔らかい。
「んむ、むぐ」
すぐに病みつきになった香澄は、あれこれ味変をして肉を楽しむ。
隣のテーブルでも「うまいうまい」と声が聞こえ、いつもの佑と二人での食卓も好きだが、大人数で囲む食卓はやはりいいと思った。
帰りの車に乗る頃には、満腹になって目をうとうとさせていた。
**
ホテルに戻ったあと、香澄はブラジャーのホックを外してソファに寝転んでいた。
ヨーロッパに来てから本能のままに生きている気がして、このままでは駄目人間になりそうだ。
それでも三大欲求には勝てず、食欲が満たされたあとは睡眠欲に支配されようとしている。
「香澄、風呂の用意ができたよ」
「んー」
生返事をしてまだ寝転んでいると、近づいてきた佑がラップワンピースのリボンを解く。
加えてパンプスを脱がせ、コトンと床に置いた。
それからワンピースの前面にあるボタンを外していく。
「う……ん。まだ寝る……」
「はい、腕抜いて」
「んー」
言われた通り腕を上げると、ワンピースを脱がされた。
スリップ姿の香澄は、まだ強情にゴロゴロしている。
「本能的な香澄も可愛いよ」
そう言われてはさすがに恥ずかしくなり、人間らしい返事をする。
「……ごめんなさい。本当にお腹一杯で……。眠たい……」
「いいよ。満足させられたなら嬉しいから。じゃあ、もう少し休んでいて。俺は少し買い物をしてくる」
そう言った佑にヒョイッと抱き上げられ、ベッドルームまで運ばれる。
「風邪を引かないように、布団を被って寝てなさい」
「ん……」
ぱふっと体の上に羽根布団が掛けられ、頭を撫でられる。
照明も小さくなり、香澄はすぐに眠りの淵へ落ちていってしまった。
佑が何を買いに行ったのか、もしこの時に教えてもらっていたなら、後から恥ずかしい思いをしなくて済んだかもしれなかった――。
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(執筆期間:2022/05/03〜05/24)
✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼
2022/05/30、エタニティブックスにて一位、本当に有難うございます!
✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼
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○表紙絵は市瀬雪さまに依頼しました。
(作品シェア以外での無断転載など固くお断りします)
○雪さま
(Twitter)https://twitter.com/yukiyukisnow7?s=21
(pixiv)https://www.pixiv.net/users/2362274
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