上 下
740 / 1,544
第十二部・パリ 編

満腹うさぎ

しおりを挟む
「皆さん、休日って何をしてるんですか?」

 香澄の素朴な疑問に、主に呉代と久住が固まった。

 呉代はまさか合コン三昧だと言えず、久住も彼女ができず料理に逃げているなど言えない。
 久住の家は、女性を呼ぶとドン引きされるほど料理設備が整っていると、香澄は知らなかった。

 二人は視線を泳がせ半笑いになる。

 なお、佐野も彼女がいないのだが、彼はもともと孤独を愛する気質らしく、特に苦に思っていないらしい。

「まぁ、色々ですよ。趣味とか、体鍛えたりとか」

「そうですね。たゆまぬ努力が実を結びますから」

 呉代と久住がそれらしい事を言う。

 佑は彼らが白々しい嘘を言っていると知っているが、特に何も言わない。

 香澄は何も知らないので、「凄いプロ意識ですね」と、うんうん頷いた。

 調理時間が短い料理から順番に運ばれ、前菜やサラダがテーブルに載る。
 そのあと、ムール貝の酒蒸しがバケツ一杯に出て、全員でお喋りしながらかぶりつく。

(おいし……)

 さすが美食の街だ。
 勿論ピンキリなのだろうが、佑が選んだ店は何を食べても美味しい。

 食べながら気にしているのは、他のテーブルにある、どんっとした塊の肉料理だ。

「凄いね、あっちのテーブルのお肉」

 コソッと佑に囁くと、彼がにんまりと笑った。

「ああいうの食べたいだろ? オーダーしておいた」

「えっ?」

 驚いて目を丸くすると、佑はしたり顔でつけ加える。

「香澄が肉の申し子なのは分かってるよ。思う存分食べて満足してくれ」

 すべてを知っているという顔で微笑まれ、香澄は思わず親指を立てた。

「恩に着ます」

 やがて巨大な肉――骨付きリブロースが三皿運ばれてきた。
 勿論、二皿は河野たちのテーブルに置かれる。

 肉はオーブンでじっくり焼かれていて、テーブルで切り分けて食べるようになっている。
 味つけは岩塩、肉汁ジュのソース、ハーブペッパーが小さな器に入っていた。

 佑が切り分けてくれて、香澄はさっそく肉を頬張る。
 塊肉なのでしっかりした肉質というイメージがあったが、実際食べてみるととてもジューシーで柔らかい。

「んむ、むぐ」

 すぐに病みつきになった香澄は、あれこれ味変をして肉を楽しむ。

 隣のテーブルでも「うまいうまい」と声が聞こえ、いつもの佑と二人での食卓も好きだが、大人数で囲む食卓はやはりいいと思った。

 帰りの車に乗る頃には、満腹になって目をうとうとさせていた。



**



 ホテルに戻ったあと、香澄はブラジャーのホックを外してソファに寝転んでいた。

 ヨーロッパに来てから本能のままに生きている気がして、このままでは駄目人間になりそうだ。
 それでも三大欲求には勝てず、食欲が満たされたあとは睡眠欲に支配されようとしている。

「香澄、風呂の用意ができたよ」
「んー」

 生返事をしてまだ寝転んでいると、近づいてきた佑がラップワンピースのリボンを解く。
 加えてパンプスを脱がせ、コトンと床に置いた。
 それからワンピースの前面にあるボタンを外していく。

「う……ん。まだ寝る……」

「はい、腕抜いて」

「んー」

 言われた通り腕を上げると、ワンピースを脱がされた。
 スリップ姿の香澄は、まだ強情にゴロゴロしている。

「本能的な香澄も可愛いよ」

 そう言われてはさすがに恥ずかしくなり、人間らしい返事をする。

「……ごめんなさい。本当にお腹一杯で……。眠たい……」

「いいよ。満足させられたなら嬉しいから。じゃあ、もう少し休んでいて。俺は少し買い物をしてくる」

 そう言った佑にヒョイッと抱き上げられ、ベッドルームまで運ばれる。

「風邪を引かないように、布団を被って寝てなさい」
「ん……」

 ぱふっと体の上に羽根布団が掛けられ、頭を撫でられる。

 照明も小さくなり、香澄はすぐに眠りの淵へ落ちていってしまった。

 佑が何を買いに行ったのか、もしこの時に教えてもらっていたなら、後から恥ずかしい思いをしなくて済んだかもしれなかった――。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ミックスド★バス~家のお風呂なら誰にも迷惑をかけずにイチャイチャ?~

taki
恋愛
【R18】恋人同士となった入浴剤開発者の温子と営業部の水川。 お互いの部屋のお風呂で、人目も気にせず……♥ えっちめシーンの話には♥マークを付けています。 ミックスド★バスの第5弾です。

社長の奴隷

星野しずく
恋愛
セクシー系の商品を販売するネットショップを経営する若手イケメン社長、茂手木寛成のもとで、大のイケメン好き藤巻美緒は仕事と称して、毎日エッチな人体実験をされていた。そんな二人だけの空間にある日、こちらもイケメン大学生である信楽誠之助がアルバイトとして入社する。ただでさえ異常な空間だった社内は、信楽が入ったことでさらに混乱を極めていくことに・・・。(途中、ごくごく軽いBL要素が入ります。念のため)

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

【R18】エリートビジネスマンの裏の顔

白波瀬 綾音
恋愛
御社のエース、危険人物すぎます​─​──​。 私、高瀬緋莉(27)は、思いを寄せていた業界最大手の同業他社勤務のエリート営業マン檜垣瑤太(30)に執着され、軟禁されてしまう。 同じチームの後輩、石橋蓮(25)が異変に気付くが…… この生活に果たして救いはあるのか。 ※サムネにAI生成画像を使用しています

【R18】豹変年下オオカミ君の恋愛包囲網〜策士な後輩から逃げられません!〜

湊未来
恋愛
「ねぇ、本当に陰キャの童貞だって信じてたの?経験豊富なお姉さん………」 30歳の誕生日当日、彼氏に呼び出された先は高級ホテルのレストラン。胸を高鳴らせ向かった先で見たものは、可愛らしいワンピースを着た女と腕を組み、こちらを見据える彼の姿だった。 一方的に別れを告げられ、ヤケ酒目的で向かったBAR。 「ねぇ。酔っちゃったの……… ………ふふふ…貴方に酔っちゃったみたい」 一夜のアバンチュールの筈だった。 運命とは時に残酷で甘い……… 羊の皮を被った年下オオカミ君×三十路崖っぷち女の恋愛攻防戦。 覗いて行きませんか? ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ・R18の話には※をつけます。 ・女性が男性を襲うシーンが初回にあります。苦手な方はご注意を。 ・裏テーマは『クズ男愛に目覚める』です。年上の女性に振り回されながら、愛を自覚し、更生するクズ男をゆるっく書けたらいいなぁ〜と。

【完結】やさしい嘘のその先に

鷹槻れん
恋愛
妊娠初期でつわり真っ只中の永田美千花(ながたみちか・24歳)は、街で偶然夫の律顕(りつあき・28歳)が、会社の元先輩で律顕の同期の女性・西園稀更(にしぞのきさら・28歳)と仲睦まじくデートしている姿を見かけてしまい。 妊娠してから律顕に冷たくあたっていた自覚があった美千花は、自分に優しく接してくれる律顕に真相を問う事ができなくて、一人悶々と悩みを抱えてしまう。 ※30,000字程度で完結します。 (執筆期間:2022/05/03〜05/24) ✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼ 2022/05/30、エタニティブックスにて一位、本当に有難うございます! ✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼ --------------------- ○表紙絵は市瀬雪さまに依頼しました。  (作品シェア以外での無断転載など固くお断りします) ○雪さま (Twitter)https://twitter.com/yukiyukisnow7?s=21 (pixiv)https://www.pixiv.net/users/2362274 ---------------------

若妻シリーズ

笹椰かな
恋愛
とある事情により中年男性・飛龍(ひりゅう)の妻となった18歳の愛実(めぐみ)。 気の進まない結婚だったが、優しく接してくれる夫に愛実の気持ちは傾いていく。これはそんな二人の夜(または昼)の営みの話。 乳首責め/クリ責め/潮吹き ※表紙の作成/かんたん表紙メーカー様 ※使用画像/SplitShire様

処理中です...