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第十二部・パリ 編

パリ九区レストラン

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 ショップカウンターなども品のあるデザインで、壁に下着姿の女性の白黒写真が飾られているのがお洒落だ。

 フィッティングルームのカーテンはシャーベットピンクで、店内の内装そのものが女性が憧れるロマンチックな部屋を表したかのように思える。

 そういう意味では、香澄もよく利用している『ストロベリー・ジョー』の店舗と似ている。

「素敵だね。男性客も一緒にいるけど、やっぱり女性の夢が詰まったお店っていう感じがする」

「そうだな。気分を上げてなんぼだから。下着の質が良ければ、内装はシンプルで味気なくていいかと言われたら、そうじゃない。ブランドとして特別感を出すなら、訪れた一時でも夢を見られる場所を提供しなくては」

 知らずと熱の籠もった持論を口にする佑を、香澄は微笑んで見る。

 二人で店内を見ていると、佑は妥協はしないという目つきで商品を見ている。

「セクシーなのを探しに来たけど、普通のやつも可愛いな」

 佑が淡い色の花柄のパンティを手に取り、裏表を確認する。

 ちなみに呉代たちは店の外で待っている。

「こっちの黒と赤のも可愛いな」

 ブラジャーとパンティのハンガーを両手に持ち、佑は服の上から香澄に当ててみる。
 勿論、当てながら頭の中で香澄の裸を想像している訳で――。

「じ、自分で選ぶ……」

 恥ずかしくなった香澄はコートの上から両手で胸を隠し、トコトコと反対側の棚に向かう。

(あれっ?)

 だが向かった先には布面積の少ないコーナーがあり、「まずった!」と内心焦る。
 すぐ後ろから佑が迫り、ポンと肩に手が置かれた。

「…………え、と……」

 恐る恐る振り向くと、佑がとてもいい笑みを浮かべている。

「ゆっくり選ぼうか」

(アーッ!)

 魔王に肩を抱かれ、うさぎは断末魔の悲鳴を上げた。



**




 買い物を済ませて着替えると、車でパリ九区にあるレストランに向かった。

「ここは肉料理が美味い店なんだ。好きだろ? 肉」

「好き!」

 胃袋まですっかり管理され、恥ずかしい。

 それでも食い気が勝ってしまう自分は、どう足掻いても都会の洗練された女性にはなれない気がした。

 香澄の頭の中では、東京のお洒落な女性というのは朝にグリーンスムージーを飲んでお昼はお洒落なカフェ料理を食べる。
 夕食は控えめにして、夜はジムでのボディメイクに勤しむというイメージだ。

 香澄もスムージーを作るし、佑と一緒に体を鍛えてはいる。

 けれど基本的に食欲が勝ってしまうので、美味しい物を鼻先にぶら下げられると、どうしても負けてしまう。

(痩せてるより、ちょっと小太りなほうが寿命が長いっていうし……)

 心の中で自分に言い訳をしながら、車からレストラン前で降りる。

 パリらしくテラス席が印象的な店は、見るからにお洒落だ。
 木製のテーブルに椅子が並ぶ内装は、高級で上品というより、ナチュラルで親しみやすい雰囲気があった。

 勿論予約済みで、名前を告げるとすぐに席に案内された。
 店内にはパリっ子らしい客が他にもいて、アコーディオンの楽しげなBGMも掛かっていて雰囲気がいい。

 例によってメニューは佑に読んでもらい、彼のお勧めワインにした。
 いつもならシャンパンから白ワイン、赤ワインという流れだが、この店は肉料理がメインでコース仕立てではないので、飲む物も特に気にしなくていいようだ。

「乾杯!」

「はい、乾杯。お疲れ様」

 赤ワインで乾杯をして隣の席を見ると、護衛たちもグラスを合わせている。

「河野さんたちも一日お疲れ様でした。お仕事の日じゃないのに付き合ってくださって、ありがとうございます」

 河野たちともグラスを合わせ、香澄はペコリと頭を下げる。

「いえ、とんでもない。こっちは日本を出れば毎日仕事ですから。それに美味いもんを一緒に喰えて幸せですよ」

 笑う呉代に、小山内がぼやく。

「呉代くんは若いからいいよね。僕はちょっと油断すると腹が出てくるから、帰国したらしっかり鍛え直さないと」

 この中で一番年嵩の小山内はそう言って、ノンガスウォーターを飲む。

 幾ら食事を一緒にするとはいえ、護衛は勤務中なので酒は飲まない。

 因みに店の外には、例によってフランス人護衛が立っている。
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