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第十二部・パリ 編

ハードルの高い下着

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 改めて一か月離れた事を謝っても、彼は「香澄にとって必要な事だったから」と許してくれるだろう。

 その上でニセコで香澄を抱き潰してしまった事を言って、反省会モードになるのは目に見えている。

 だからこれ以上気を遣わせないために、帰省期間については黙っている事にした。

「……そうだな。ゆっくりするか。くだらない、些細な話をたくさんしよう」

「うん」

 ニコッと微笑むと、香澄は「あー! お腹一杯!」と伸びをし、ポンポンになった胃をさすった。





 バトラーが退出してから、香澄はラフな洋服に着替えて、佑とゴロゴロ自堕落な半日を過ごした。

 リビングのカウチソファで脚を投げ出して座り、クラシック音楽を掛けて体を寄せ合う。
 バイオエタノール暖炉の火を見つめてポツポツと語らっていると、何時間でも過ごせる気がした。

 途中で会話が途切れても、佑が頭を撫でて抱き締め、イチャイチャは止まらない。

 テーブルにはホテルに頼んで取り寄せてもらった、チョコレートやマカロンなどのお菓子が沢山ある。
 日本ではお馴染みの高級ショコラから、日本では手に入らない、現地ならではの物までよりどりみどりだ。

 喉が渇けば電話一本で何でも飲み物が頼めて、このままでは駄目人間になりそうだ……と毎度思う。

 二人で佑のタブレットを覗き込み、パリ観光で行きたい場所を決めるのも楽しかった。

「香澄って黒い下着好き?」

「え? 下着ならスペインでも買ったから、もう十分だよ」

 返事をすると、目の前でタブレットの画面が変わり、ブラジャーをつけた女性の胸元がアップになる。

「ん?」

 見覚えがあるな……と思ったら、香澄もある程度持っている、『オーバード』という下着ブランドのサイトだ。

「ここのなら、もう持ってるよ?」

 キョトンとして佑を見るが、彼は含みのある笑みを浮かべて「こっちは?」とタブレットをタップする。

「こ……れは……」

 そのページは、香澄も見た事はあるものの「ハードルが高くて無理!」と思った商品ページだ。

 ボンデージスタイルの下着や、レースのチョーカーとパンティの間を、真珠のアクセサリーが首から谷間、腹部を飾っている物もある。

 ボディハーネスや、総レースのグローブとアイマスクがセットになった商品もある。

「ねぇ……、待って? 私、無理!」

 悲鳴に似た声を上げてページを閉じようとしたが、佑が香澄を抱き締めて腕の動きを封じられた。

「もぉっ」

「着けてくれないの? 俺の事、疲れていて可哀想って思ったんだろ?」

 笑いを含んだ声で言われ、香澄はぷぅっと頬を膨らませる。

「それはずるい!」

「香澄のエッチな姿を見たら、元気になるんだけどな」

「違う所がでしょ」

「おや、香澄も突っ込むようになったな」

 佑が笑い、香澄の頭をワシャワシャと撫でる。

「……俺たちそろそろ一年経つし、こっちもレベルアップしないか?」

「むー」

 彼の言葉に香澄はうなり、譲歩できそうな物がないか改めてページを見る。

 一番布面積がある物でも、きわどい所に穴が空いていて譲歩しがたい。

 それでもここまで言われると、「何とか期待に応えたいけど……」とまじめに取り合おうとする気持ちになる。

(男の人って視覚的な興奮を好むって言うし、やっぱりエッチな下着の効果は高いのかな? 出会いだって、バニーガールとパンツスーツのギャップとか言ってたし……)

 麻衣から教えられたが、女性は耳で興奮する事が多いらしい。
 それに対し男性は外見で判断しやすく、目で興奮するとされているようだ。

(佑さんは私の外見が好き……なんて言わないだろうけど、ある程度はそういうのあるんだろうな。服を着替えさせたがるのも、どこか通じるものがあるし……)

 色々考えながら黙っていると、佑が顔を覗き込んできた。

「怒ってる?」

「ううん? いや、ちょっと考えてて……」

 香澄は佑の腕をやんわりと解き、自分の指で画面をスクロールさせる。
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