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第十二部・パリ 編

パリのブランチ

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「……私のおっぱいでいいなら、好きにしていいよ」

「……香澄のおっぱいじゃないと嫌だよ」

 二人は互いの温もりを感じ、とりとめのない事を話す。

 佑の調子が完全に戻ったと思える頃まで、香澄は努めて佑に甘えていた。





 佑はパリでは仕事の予定がないようで、その日はホテルの部屋でゆったり過ごす事にした。

 彼は観光に行ってもいいと言ってくれたのだが、どうにも朝の様子が気になってならない。

 無理をさせたくないので、二人でジョン・アルクールのバスオイルをジェットバスに垂らし、いい香りに包まれて優雅なバスタイムを過ごした。

 結局クロックムッシュを食べたのは、十一時が近くなってからだ。

 ブランチになったので、佑はフロアコンシェルジュに少し腹に溜まるメニューを頼んだようだ。

 白いプレートの上にはクロックムッシュがあり、たっぷりサラダが入ったボウルに、ハムやチーズの盛り合わせもある。
 マッシュルームのオイル煮に、バスケットには焼きたてのクロワッサンが入っている。

 おまけにデザートには高級そうなモンブランケーキもあった。

「わぁ、凄い! 豪華!」

 テーブルの上に並べられた料理を見るだけで、SNS映えする。
 香澄はスマホで写真を撮り、満足気に微笑む。

 オレンジジュースとグレープフルーツジュースの入ったデキャンタもあり、佑は優雅にシャンパンだ。

「いただきます!」

 ぱん、と胸の前で両手を合わせ、香澄はぺこぺこのお腹を癒やすためにフォークとナイフを手にした。

 一度食べて病みつきになったクロワッサンにまず手が伸びて、皿の上でサクサクの生地を手でちぎった。
 口に入れると、サクふわの食感にバターの香りがし、この上なく美味しい。

「んん~っ……。この一口のために生きてる……」

「どこかのおじさんみたいだよ」

 佑はそう言って笑い、香澄もつられて笑顔になる。

 香澄は何を食べても感動しているが、彼は慣れっこなのか普通に食事を進めていく。

 クロワッサンを食べたあとはサラダをモシャモシャと食べ、キノコ類が大好きなのでマッシュルームに取り掛かる。

「ん! 美味しい! やっぱりキノコは外さない! 日本だとマッシュルームってマイナーだよね。こんなに沢山食べられるの嬉しい」

 アヒージョのようなマッシュルームは、ほんの少しピリッと辛く絶妙に美味しい。

「佑さん、我が儘言っていい?」
「ん? 何でも言って」

 香澄からのおねだりが珍しいのか、佑は嬉しそうに笑う。

「あのね、明日の朝もこのマッシュルーム食べたい。……というか、ボウル一杯ぐらいたっぷり食べたい……」

 恥ずかしそうに小声でおねだりをすると、佑は横を向いて激しく噎せたあとに笑いだした。

「……そんなにおかしかった? ……ごめんね。食い意地張ってて……」

 香澄はカァ……と赤面し、俯く。
 それでも手は動き、フォークでマッシュルームを刺すと口に運んでいた。

「いや、ごめん。そうじゃない。香澄の〝我が儘〟があんまりにも可愛いから、拍子抜けして……。てっきりジュエリーか何か買って欲しいって言うかと思ったんだ」

 佑はすぐ謝り、香澄も彼と自分の認識の差に思わず苦笑いになる。

「私、いつも宝石は要らないっていってるじゃない。ご飯から宝石の流れにはならないよ」

「……いや、俺が考えてたんだ。今着てるワンピースなら、どんな色のジュエリーが映えるかな? って思って」

 食事前、佑に着てほしいと言われてハイブランドのワンピースを着ていた。
 モノトーン柄に鮮やかな花柄が描かれていて、まさにパリを歩くに相応しい。

 正直、ホテルの部屋なので気持ち的にはスウェットで十分だ。
 けれどこの素晴らしいスイートルームで食事をするなら、きちんとした格好をしないといけないのかな、と思い、言われるがままお洒落をした。

 ちなみに室内にはバトラーが控えていて、二人の飲み物がなくなりかけると注いでくれている。

「佑さん、宝石を買ったらきりがないでしょう。誕生石とか星座石とか、好きな色とか石の意味とか……。理由をつけて贈りたがるに決まっているんだから」

 ブランド物の服を着て星付きホテルでブランチを取り、婚約者に余計な買い物をするなと文句を垂れ、我ながら何様かと思ってしまう。
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