上 下
724 / 1,544
第十二部・パリ 編

帰ってきた

しおりを挟む
 それから、車内にいる瀬尾と呉代に告げた。

「明日は多分どこにも出掛けないから、お前たちも自由にしていてくれ」

 そう言うと、彼らは「承知致しました」と返事をした。

 溜め息をつき、佑はシートに身を預けて目を閉じた。

 ミュンヘン空港までは車で約三十分。
 それからスムーズに離陸できたとしても、また更に一時間半かかる。
 シャルル・ド・ゴール空港からホテルまでは、車で約四十分。

(……三時間はみたほうがいいか)

 考えなくても真夜中の到着になるのは明白だ。

(まぁ、香澄が寝てるベッドに潜り込むのもいいか。温まってそうだな)

 疲れ切っていても、香澄の事を考えるだけで口元が緩む。

(……今帰るよ)

 心の中で香澄に語りかけ、佑は空港まで少し眠る事にした。



**



「んー……っ」

 電子書籍で漫画を読んでいた香澄は、きりのいいところでスマホを閉じ、ベッドの上に仰向けになる。

 思いきり伸びて、片足を膝の上に乗せて太腿の裏や臀部のストレッチをし始め、最終的には自転車漕ぎもしだす。

「あぁー……っ」

 一通り動いて時間を確認すると、二十三時半近くだ。

「……寝よ」

 先ほど気になってスマホの地図アプリで、このホテルからミュンヘンまでどのぐらい掛かるのか調べてみた。

 佑は「隣の国だ」と言っていたが、それでも飛行機で一時間半と言えば札幌から東京までの距離になる。

 佑が入れてくれたGPSアプリでは、香澄からも彼の位置が分かる。

 心配なのでチラッとアプリを覗いてみると、彼のアイコンはまだミュンヘンにあった。

「すぐ戻るって言ったけど、泊まりになるかもしれないしなぁ……。アドラーさん達と飲むなら、そのままブルーメンブラットヴィルに行ってもおかしくないし。……仲良くしてくれるなら、それでいいや」

 ケロリと言うと、香澄は寝る準備を始めた。

 もうすでに風呂には入っていて、仙骨シャワーもした。
 大好きなネクタリンの香りにも包まれているし、このままぐっすり眠れそうだ。

 メイン照明を消し、佑が帰ってきた時のために各部屋の間接照明はつけておく。

 キングサイズのベッドに潜り込み、寝る前に膣トレをする。

「……地道に頑張ってるけど、佑さん気持ちいいって思ってくれてるのかな。……でもこういう努力してますって言うのも、誘ってるみたいで恥ずかしいし。そしたら絶対佑さんエッチなこと言うもん。……それはもっと恥ずかしい。……でもなぁ、ちょっとは知ってもらいたい気持ちもあって……。うーん」

 ブツブツと言いながら膣トレをし、目を閉じて妄想の佑を締め付けてみる。

「……佑さんの感じてる顔、可愛いもんなぁ」

 セックス中の佑の顔を想像し、香澄は一人赤くなる。
 香澄を見つめて腰を振る彼の姿を見ると、自分のものだと思えて独占欲が刺激される。

「最近ムラムラしてばっかりだなぁ。ニセコでの禁欲期間が効いて、爆発しちゃってるのかな」

 はぁ、と溜め息をつき、コロンと横を向く。
 パジャマの中に手を入れて胸を揉みかけ――、恥ずかしくなってやめた。

「ヨーロッパに来てからしてばっかりだから、ちょっとは自重しないと」

 だがコネクターナウのトーク履歴には、『帰ったら抱かせて』というメッセージが残されている。

 しかも、『酷くするかもしれない』とまで書かれてある。

 考えるだけで胸がドキドキし、期待してしまっている自分がいた。

「と、取りあえず明日、明日。今日は寝る!」

 パタパタと顔の前で手を振り、香澄は誰もいない部屋にむかって「おやすみなさい」と告げて目を閉じた。



**




 佑がパリのホテルに戻って来たのは、深夜二時前だ。

 ルームキーでドアを開け、静かに室内に入る。
 部屋の中はシンとしていて、香澄が寝ていると分かった。

 間接照明がついているのは、彼女の気遣いだろう。

 それだけで佑の心にホッと温かなものが宿る。

 迷わずマスターベッドルームに向かい、羽根布団が盛り上がっているのを見て安堵した。

 近付くと香澄の寝顔が見え、すぅすぅという寝息も聞こえる。

(……帰ってきた……)

 今すぐキスをして抱き締めたいが、お楽しみはあとに取っておく事にした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ミックスド★バス~家のお風呂なら誰にも迷惑をかけずにイチャイチャ?~

taki
恋愛
【R18】恋人同士となった入浴剤開発者の温子と営業部の水川。 お互いの部屋のお風呂で、人目も気にせず……♥ えっちめシーンの話には♥マークを付けています。 ミックスド★バスの第5弾です。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

社長の奴隷

星野しずく
恋愛
セクシー系の商品を販売するネットショップを経営する若手イケメン社長、茂手木寛成のもとで、大のイケメン好き藤巻美緒は仕事と称して、毎日エッチな人体実験をされていた。そんな二人だけの空間にある日、こちらもイケメン大学生である信楽誠之助がアルバイトとして入社する。ただでさえ異常な空間だった社内は、信楽が入ったことでさらに混乱を極めていくことに・・・。(途中、ごくごく軽いBL要素が入ります。念のため)

【R18】豹変年下オオカミ君の恋愛包囲網〜策士な後輩から逃げられません!〜

湊未来
恋愛
「ねぇ、本当に陰キャの童貞だって信じてたの?経験豊富なお姉さん………」 30歳の誕生日当日、彼氏に呼び出された先は高級ホテルのレストラン。胸を高鳴らせ向かった先で見たものは、可愛らしいワンピースを着た女と腕を組み、こちらを見据える彼の姿だった。 一方的に別れを告げられ、ヤケ酒目的で向かったBAR。 「ねぇ。酔っちゃったの……… ………ふふふ…貴方に酔っちゃったみたい」 一夜のアバンチュールの筈だった。 運命とは時に残酷で甘い……… 羊の皮を被った年下オオカミ君×三十路崖っぷち女の恋愛攻防戦。 覗いて行きませんか? ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ・R18の話には※をつけます。 ・女性が男性を襲うシーンが初回にあります。苦手な方はご注意を。 ・裏テーマは『クズ男愛に目覚める』です。年上の女性に振り回されながら、愛を自覚し、更生するクズ男をゆるっく書けたらいいなぁ〜と。

【完結】やさしい嘘のその先に

鷹槻れん
恋愛
妊娠初期でつわり真っ只中の永田美千花(ながたみちか・24歳)は、街で偶然夫の律顕(りつあき・28歳)が、会社の元先輩で律顕の同期の女性・西園稀更(にしぞのきさら・28歳)と仲睦まじくデートしている姿を見かけてしまい。 妊娠してから律顕に冷たくあたっていた自覚があった美千花は、自分に優しく接してくれる律顕に真相を問う事ができなくて、一人悶々と悩みを抱えてしまう。 ※30,000字程度で完結します。 (執筆期間:2022/05/03〜05/24) ✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼ 2022/05/30、エタニティブックスにて一位、本当に有難うございます! ✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼ --------------------- ○表紙絵は市瀬雪さまに依頼しました。  (作品シェア以外での無断転載など固くお断りします) ○雪さま (Twitter)https://twitter.com/yukiyukisnow7?s=21 (pixiv)https://www.pixiv.net/users/2362274 ---------------------

【R18】鬼上司は今日も私に甘くない

白波瀬 綾音
恋愛
見た目も中身も怖くて、仕事にストイックなハイスペ上司、高濱暁人(35)の右腕として働く私、鈴木梨沙(28)。接待で終電を逃した日から秘密の関係が始まる───。 逆ハーレムのチームで刺激的な日々を過ごすオフィスラブストーリー 法人営業部メンバー 鈴木梨沙:28歳 高濱暁人:35歳、法人営業部部長 相良くん:25歳、唯一の年下くん 久野さん:29歳、一個上の優しい先輩 藍沢さん:31歳、チーフ 武田さん:36歳、課長 加藤さん:30歳、法人営業部事務

ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~

菱沼あゆ
恋愛
念願のランプのショップを開いた鞠宮あかり。 だが、開店早々、植え込みに猫とおばあさんを避けた車が突っ込んでくる。 車に乗っていたイケメン、木南青葉はインテリアや雑貨などを輸入している会社の社長で、あかりの店に出入りするようになるが。 あかりには実は、年の離れた弟ということになっている息子がいて――。

処理中です...