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第十二部・パリ 編

年上の助言

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『今抱えている苦しみを手放したまえ。彼女の事は私に任せ、もう忘れるんだ。これ以上、君が苦しむ必要はない。一つの処理が終わったら、〝次〟に気持ちをシフトさせるんだ』

『はい、そうします』

『私の知っている経営者なら、この程度の後始末は笑いながらこなすだろう。君は経営者としてまだ若く、優しすぎる。自分の大切な者のため、会社のため、もっと非道な男になれるよう努力したまえ。心の中で取捨選択をしきれていないから、無駄に傷付く羽目になる。大切なもの以外には心を揺るがすな』

 年上の彼に助言され、佑は自分がまだまだ〝小僧〟なのだと実感した。

『努力します』

 これで終わり、という雰囲気を感じ、佑は腕時計を確認してからガブリエルに城を辞する旨を告げる。

『では俺は次の目的地に向かいます』

『フランク氏に会うのか?』

『ええ。元凶に釘を刺し、クラウザー家との確執も整理する必要があります』

 ガブリエルには、アドラーとフランクの確執は話していないが、彼は詮索しなかった。

『色々、ありがとうございました』

『構わないとも。そうだ、もし良かったら日本のスイーツを送ってくれ。珍しい菓子に目がなくてね』

 最後に普通の人らしい面を見せられ、佑は微笑む。

『分かりました。最高の物を選びます』

 もう一度握手をし、佑は河野たちが待っている別室に向かった。



**




「社長、御用はお済みですか?」

 河野たちが待っている部屋に着くと、テーブルの上にあった甘味の皿は綺麗に片付いていた。
 人数分の菓子が出されていたのだろうが、恐らく河野が一人で食べたのだろう。

 フランスの由緒ある城に来た上、かなり特殊な用事だというのに、図太く菓子を平らげられる精神は流石だ。

 呉代はドン引きした表情で河野を見ている。

「……満腹になったか?」

「本場のマカロンとチョコレートは、さすがに美味しかったです」

 相変わらずな河野に思わず笑い、〝日常〟を感じて安心した佑は「行くぞ」と先に歩き出した。

 ガブリエルは見送りをしないが、それでいい。

 玄関先で執事のアランにお辞儀され、佑たちは車に乗り込む。

 飛行機に乗るために一度パリに戻るが、今の殺伐とした雰囲気では香澄に会えない。

 佑はこれからドイツに向かって、エミリアの祖父に会わなければならない。

(すべてが終わったら、うさぎ吸いをしよう)

 佑は目を閉じて香澄を想い、小さく息をついた。



**



 シャルル・ド・ゴール空港まで戻った頃には、もう夕食時は過ぎていた。

 ミュンヘン空港までは約一時間半の空路となる。

 佑はプライベートジェットに乗り、護衛たちが会話をする声を聞きながら、シートで溜め息をつく。

 いつもなら香澄が向かいにいて、窓の外を見てワクワクしているのが見られただろう。

 暗くなった窓ガラスにの向こうに彼女の顔を思い浮かべ、ほんの僅かに微笑む。

 飛行機は間もなく動き、滑走路で順番を待ってから離陸する。
 加速したのち、機体がフワッと浮き、グングンと上昇していく。

 眼下に広がるパリの街並みを見て、その中に香澄がいるのだと思うと少し不安になる。

 警備は久住と佐野に任せたが、大丈夫だろうか。

 同じミスを二度繰り返さないと思っているが、トラブルのほうから飛び込んでくる事だってある。

 心配になった佑は、香澄にメッセージを送った。

『いま移動してる。変わりないか?』

 トーク画面を開いたまま待っていると、パッと既読がつく。

 すかさずスタンプが送られてきたが、なぜかキャラクターが「がんばります」と言っているスタンプで、訳が分からない。

 けれどすぐに『間違えた! ごたっぷ』と入ったので、思わず笑ってしまった。

 改めて送られてきたのは、食べ物の写真だ。
 コースメニューの一皿ずつを撮影し、アプリで一つの画像に編集し直した物だ。

『コース料理を出してくれて、鴨のコンフィがとっても美味しかったの! 佑さんにも食べさせてあげたかった! 明日の朝はクロックムッシュを出してくれるんだって。早く帰ってきてね!』

 ホテルライフを満喫しているようで、なによりだ。

 思わず表情を緩ませ、返事を打つ。
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