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第十二部・パリ 編

俺はお前を一生許さない

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 ――変わっていない。

 ――何も、反省していない。

 十代の頃は感じのいい少女だと思っていたのに、心の底にある汚泥に気付けなかった。

 表向き〝良家のお嬢様〟という完璧な仮面があったからこそ、隠し持っていた本性がさらに醜く感じる。

 香澄のような純朴な女性に惹かれた佑には、エミリアの考えを理解する事ができない。

 いっそ「すべてが嘘だったなら」と今になっても思う。

 だがすべて現実だ。

 佑は溜め息をつき、哀れなものを見る目でエミリアを見た。

『お前は自分が何をしたのか理解せず、己を女王だと思い込み、すべて望むままになると信じて一生を終えるのかもしれないな』

 佑は涙を拭い、溜め息をつく。

『これから先、誰一人としてお前を救える者はいないだろう。諦めてガブリエルの貞淑な妻になれ。お前と縁談があったドイツの資産家も、〝結婚しなくて良かった〟と安堵していたよ』

〝結婚したくない地味な男〟にそう言われていたと知り、プライドを傷つけられたエミリアが、また激しく唸る。

『エミリア、お前は美しいよ。ただし、外見だけだ。そして自己中心的で、他者の痛みを理解しない、破滅的な愚か者だ。……どうして誰も、お前を矯正してやろうと思わなかったんだろうな。……それが哀れでならない』

「むごぉー……」

 エミリアが哀れっぽい声を出す。

 だが今さら同情する気持ちなどない。
 ただ「たられば」の話をしただけだ。

『……俺はお前を一生許さない。万が一お前が改心しても、絶対に許さない。謝りに来ようなんて絶対に思うな。お前はこの屋敷から、二度と表に出るな』

 最後にそう言って、佑は深く長い溜め息をつく。

『タスク、彼女の言い分でも聞くか?』

 楽しそうなガブリエルの声に、佑は疲れ切った顔で首を横に振る。

 ガブリエルは、妻が他者に責められているのを見るのが楽しいらしく、ニコニコしている。

 彼はこれと決めた相手がとことん打ちのめされ、心を折られるさまを見るのが大好きだ。

 ガブリエルは基本的に他者に無害だ。

 その代わり、自分のパートナーには最も厳しい主となる。

 今後エミリアがどうなるか知らないし、知ろうとも思わない。

 ガブリエルに申し訳なさはあるが、他に手立てはない。

 もっとエミリアをなじりたい気持ちはあるが、便器の中身に向かって「お前は汚い」と言っているようなものだ。
 一人で熱くなるほど、空しさがこみ上げてくる。

 佑は窓の外を見て、ゆっくり息を吸い、吐く。

『ここでエミリアの言葉が聞けたとしても、俺の怒りとやるせなさが増すだけです』

『残念だ。せっかく彼女の口の中を犯しているペニスギャグを見せてあげようと思ったのに』

 マスクの中身は想像通りだったが、知るだけでも醜いと思った佑は、うんざりして首を左右に振る。

『正直、こんな気持ち悪いものは見たくありません。こんなグロテスクなものは、俺の美学に反します』

 佑の言葉に怒ったのか、エミリアがまた唸る。

『そうか、残念だ。彼女は実の兄が好きなんだって? その人でも連れてきたら、彼女はもっと喜ぶのかな』

「むごぉおおっ!!」

 ガブリエルの言葉を聞き、エミリアが渾身の力で暴れる。

『やめてください。この女のためではなく、彼が気の毒です。彼はこの女によってトラウマを負わされた。彼の友人として、この毒婦に二度と会わないでほしいと思っていますし、彼も望まないでしょう』

『ふぅん……。残念だな。まぁ、私は妻で遊べたらそれでいい。私たち夫婦に関係のない人を巻き込む事はないか』

 ガブリエルは穏やかに微笑み、乗馬用の鞭を手に取った。
 そしてエミリアの乳房に先端を当てたかと思うと、ピシッと鋭い音を立てて彼女を打った。

「むぅーっ!!」

 エミリアがもがき、ガブリエルは爽やかに笑う。

『さて、ご褒美もあげたしまた客間に戻ろう。君には少し休憩が必要のようだし』

 言われた通り、佑は疲れきっていた。
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