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第十二部・パリ 編

エミリアのなれの果て

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『姉を失い、自暴自棄になった私に〝欲しいもの〟はなくなった。人と話していてもつまらないし、何をしても喜びを得られない。人が大勢いて楽しそうにしているのを見るほど、姉と笑い合った色鮮やかな素晴らしい日々を思いだす』

『一生に一度の恋だったのでしょうね』

『かもしれないな。姉弟で背徳感もあったから、なおさら燃えたのは否めない。だが姉ほど素晴らしい女性とは、この先出会えない気がする』

 人によっては引いてしまう話だが、酔っていたせいか佑は彼の恋に特に異論を唱える気持ちにならなかった。

『俺はそこまで愛せる女性に出会えていないので、羨ましいです』

 その言葉に、ガブリエルは優しく笑った。

『きっと君だけのmon amourに出会えるさ。〝その運命のために、できるだけいい男でいるべきだ〟』

 言葉の後半は、ララ・シャルネルの名言をアレンジして彼は笑う。
 元ネタを理解した佑は、ワインを飲んで笑う。

『確かに、そうあるべきですね』

 いい男であり続ける努力をしなければ、いざ最高の相手と出会えた時に後悔するかもしれない。
 運命の女性がすり抜けていったあとに「なぜ自分磨きをしなかったのだろう」と悔やんでも遅い。

『私はもう、女性を素直に愛せない。私のもとを去って行った姉への愛と憎しみを込めて、女性にサディスティックな行為をするしか自分を慰められない』

『……それがあなたの愛し方なら、きっと受け入れてくれる女性が現れるでしょう』

 その時はそうやって彼を慰めるしかできなかった。



**



 佑はガブリエルとの出会いを思いだしながら、彼の城を歩く。

 佑にいい人ができたらパーティーを開くと言ってくれたのに、その城へエミリアの様子を見にくるなんて皮肉な話だ。

 同時に彼にエミリアを宛がってしまった事への罪悪感が押し寄せる。

 香澄がロンドンに連れて行かれ行方不明になった時、フランスの重鎮という事で勿論ガブリエルにも連絡をし、解決の糸口になる情報はないか協力を求めた。

 事件が収束したあと、ガブリエルから『その後どうなった?』と心配してくれた。

 その時に佑は怒りのままに彼女の所業を話し、ただ逮捕させ、資産を奪うだけでは足りないと話した。

 確かにその時、ガブリエルが『では私がその陰湿な女を引き取ろう』と言った。

 けれど今になって「これで良かったのか」という後悔がこみ上げてくる。

 エミリアはどうなっても構わないが、ガブリエルの人生に毒にしかならない女を投じてしまうのは良心が咎めた。

 それを押し切って大金を出し、エミリアの身柄をロンドン警察から引き取ったのはガブリエルだった。

 考え事をしている間、ガブリエルは三階にあるドアの前で立ち止まった。

 彼はポケットから鍵束を取り出し、ニタァ……と笑うと、ドアをノックした。

 トン、トトトントン、トン、トン。

 中にいる人間に、不快な感情を催させるノックだ。

 ノック音のあと、室内から小さな声が聞こえた気がする。

『入るよ、モン・シェリー』

 ガブリエルはそう言って鍵を開けた。

 ドアが開いた向こうには、客間と変わらない豪奢な部屋がある。

 だがそこに家具はなく、SMホテルかと言いたくなる器具が台の上に整然と置かれてあった。
 中には昔ながらの拷問器具もあり、見ているだけで具合が悪くなる

 佑もたまに香澄を軽く縛ってみたい気持ちになるが、痛めつけたり、彼女が嫌がる事をする気持ちにはならない。

 まず香澄を愛したいし、たっぷり感じさせたい。

 愛情を伝える行為に、必要以上の痛みや恥辱は要らないと考えている。

 だが――。

「…………」

 佑は目の前にいる〝モノ〟を見て目を眇める。

 分娩台のような椅子に座っているのは、エミリアだ。

 革製のアイマスクで目隠しをされ、乳房はさらけ出され、ウエストから下は革製のボディスーツを纏っている。

 網タイツのガーターストッキングを穿いた足首には足枷があり、足枷はハイヒールと繋がっていた。

 乳首にはローターがついていて、ボディスーツのクロッチは盛り上がり、前後の孔にバイブが入っているようだ。

 秘部から細い管が伸びてその先にパックがあるのは、尿道カテーテルだろう。

 両手は拘束され、脚もM字に大きく開かれ固定されている。

 口元にもマスクがあり、そこからフゴフゴと声にならない声が漏れていた。
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