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第十二部・パリ 編
ガブリエルとの出会い
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『お気遣いありがとうございます。まだ大丈夫のようです』
暖炉からは、火が燃えてパチパチと音を立てている。
その音に耳を澄まし、佑は何と話を切り出したものか思案した。
だが迷っていつまでも世間話をしていても、いたずらに香澄を待たせるだけだ。
決意を固めると、口を開いた。
『彼女は……エミリアはどうしていますか?』
ようやく忌々しい女の名前を口にした佑を見て、ガブリエルは満足そうな、だがほの暗さを感じさせる笑みを浮かべる。
『今は自分の部屋にいる。今日君が来ると伝えたら、やけに興奮していたよ』
視線を落とし、佑は息をつく。
執事がコーヒーを出してくれたので、気持ちを誤魔化すために一口飲んだ。
『……俺を恨んでいますか? 半ば強引に彼女を押しつけました』
佑の問いに、ガブリエルはゆったりと脚を組んで膝に手を当て、少し考える。
『私の生活スタイルが変わったのは確かだが、利害が一致したので特に異論はないかな。私はこのままだと、一生妻に恵まれずに過ごすはずだったから』
佑は彼の言わんとする事を理解し、また沈黙する。
『私は自分のスペックを理解しているつもりだ。大富豪と言われる資産家で、ルックスもいい。恐らく初対面の女性なら、大抵の人は私を〝魅力的〟と思うだろう』
『その通りだと思います』
世辞抜きに、ガブリエルは世の女性が求めるすべてを兼ね揃えている。
だが彼には、大きな欠点となる性癖がある。
『しかし私はいわゆるサドだ。それを明かして私の元に残る女性はいなかった。私が側に置きたいと望む女性は、強くて自分の意志をハッキリ持ち、社会的に立場のある女性が多いからね。そういう女性を屈服させるのが好きなのだが……。そこで君からメイヤー家の令嬢の話を聞いて、なんていう巡り合わせだろうと神に感謝したよ』
ガブリエルが微笑む。
秀麗な顔立ちの彼が微笑むので、うっとりするような笑顔に見えるが、目の奥には尋常ではない光が宿っている。
その雰囲気を敏感に感じ取る者は、まず彼に近づかないだろう。
『だからこそ、あなたに話を持ちかけました。あなたはパートナーが欲しい。俺は逃げられない環境で彼女に報復したい。この決断について、俺は後悔していません。ですがあなたは彼女を妻にして後悔していませんか?』
佑がもう一度尋ねると、ガブリエルは暗い笑みを浮かべた。
『そこまで言うなら、彼女に会いに行こう。新婚の私がいま、彼女をどんなに愛しているか知れば、君もそんな愚かな質問をしないだろう』
そう言ってガブリエルは立ち上がり、佑もあまり気が進まないながらも彼についていく。
護衛たちが指示を求める視線をよこしたので、応接室で待つよう言った。
長い廊下を進み、階段を上がる。
その途中、佑はガブリエルと出会った時の事を思いだしていた。
**
彼との初対面は有名な南仏の国際映画祭でだ。
アメリカでの映画祭は娯楽的な映画の賞となり、南仏ではよりアート的な映画作品がノミネートされる。
当日にレッドカーペットで授賞式が行われて終わり、かと思えばまったく違っていて、南仏の海辺のホテルでは連日連夜セレブたちによるパーティーが行われる。
そもそも世界のVIPには一年の社交スケジュールがあり、世界経済フォーラムやNYの美術オークション、南仏の映画祭やスイスで行われる現代美術フェアなど。
グランドスラムと呼ばれる世界各地で行われるテニスの大会の中でも、イギリスのウィンブルドンで行われる大会は最も歴史が古い。
選手たちは必ず白いユニフォームを着なければならないと、決まりがあるほどだ。
それを見に行くのもセレブの嗜みだ。
国際的な経済会議と言われると政治家しか用がないように思えるが、必ずパーティーが行われるので、世界経済に影響を与える資産家も必ず招待される。
モナコで行われるレーシングカーの選手権や、やはり伝統のあるイギリス王室が主催する競馬など、あちこちで行われる催しに向かっては人と会い、ビジネスに結びつけていく。
アドラーは〝サーキット〟と呼んでいる一年の予定がびっちり詰まっている。
佑も仕事で成功を収めた頃から、あちこちに招待され、または人に紹介されて……と、人脈や仕事の場を広げていっていた。
件の映画祭は、記者が取材をするにも複数の雑誌や新聞から推薦状を受け、それを英文に訳して事務局にアピールする必要がある。
それが認められて初めて、五段階になっている一番下のランクのプレスパスが受けられるほどだ。
プレスとはPR、広告の事で、この場合はマスコミを指していて、マスコミ用のパスだ。
映画祭では映画作品に関係する者しか招待されないと思いきや、作品を作るのに協力した会社の関係者やモデルなども招待される。
加えて大きなセレブのイベントに欠かせないのが、チャリティイベントだ。
暖炉からは、火が燃えてパチパチと音を立てている。
その音に耳を澄まし、佑は何と話を切り出したものか思案した。
だが迷っていつまでも世間話をしていても、いたずらに香澄を待たせるだけだ。
決意を固めると、口を開いた。
『彼女は……エミリアはどうしていますか?』
ようやく忌々しい女の名前を口にした佑を見て、ガブリエルは満足そうな、だがほの暗さを感じさせる笑みを浮かべる。
『今は自分の部屋にいる。今日君が来ると伝えたら、やけに興奮していたよ』
視線を落とし、佑は息をつく。
執事がコーヒーを出してくれたので、気持ちを誤魔化すために一口飲んだ。
『……俺を恨んでいますか? 半ば強引に彼女を押しつけました』
佑の問いに、ガブリエルはゆったりと脚を組んで膝に手を当て、少し考える。
『私の生活スタイルが変わったのは確かだが、利害が一致したので特に異論はないかな。私はこのままだと、一生妻に恵まれずに過ごすはずだったから』
佑は彼の言わんとする事を理解し、また沈黙する。
『私は自分のスペックを理解しているつもりだ。大富豪と言われる資産家で、ルックスもいい。恐らく初対面の女性なら、大抵の人は私を〝魅力的〟と思うだろう』
『その通りだと思います』
世辞抜きに、ガブリエルは世の女性が求めるすべてを兼ね揃えている。
だが彼には、大きな欠点となる性癖がある。
『しかし私はいわゆるサドだ。それを明かして私の元に残る女性はいなかった。私が側に置きたいと望む女性は、強くて自分の意志をハッキリ持ち、社会的に立場のある女性が多いからね。そういう女性を屈服させるのが好きなのだが……。そこで君からメイヤー家の令嬢の話を聞いて、なんていう巡り合わせだろうと神に感謝したよ』
ガブリエルが微笑む。
秀麗な顔立ちの彼が微笑むので、うっとりするような笑顔に見えるが、目の奥には尋常ではない光が宿っている。
その雰囲気を敏感に感じ取る者は、まず彼に近づかないだろう。
『だからこそ、あなたに話を持ちかけました。あなたはパートナーが欲しい。俺は逃げられない環境で彼女に報復したい。この決断について、俺は後悔していません。ですがあなたは彼女を妻にして後悔していませんか?』
佑がもう一度尋ねると、ガブリエルは暗い笑みを浮かべた。
『そこまで言うなら、彼女に会いに行こう。新婚の私がいま、彼女をどんなに愛しているか知れば、君もそんな愚かな質問をしないだろう』
そう言ってガブリエルは立ち上がり、佑もあまり気が進まないながらも彼についていく。
護衛たちが指示を求める視線をよこしたので、応接室で待つよう言った。
長い廊下を進み、階段を上がる。
その途中、佑はガブリエルと出会った時の事を思いだしていた。
**
彼との初対面は有名な南仏の国際映画祭でだ。
アメリカでの映画祭は娯楽的な映画の賞となり、南仏ではよりアート的な映画作品がノミネートされる。
当日にレッドカーペットで授賞式が行われて終わり、かと思えばまったく違っていて、南仏の海辺のホテルでは連日連夜セレブたちによるパーティーが行われる。
そもそも世界のVIPには一年の社交スケジュールがあり、世界経済フォーラムやNYの美術オークション、南仏の映画祭やスイスで行われる現代美術フェアなど。
グランドスラムと呼ばれる世界各地で行われるテニスの大会の中でも、イギリスのウィンブルドンで行われる大会は最も歴史が古い。
選手たちは必ず白いユニフォームを着なければならないと、決まりがあるほどだ。
それを見に行くのもセレブの嗜みだ。
国際的な経済会議と言われると政治家しか用がないように思えるが、必ずパーティーが行われるので、世界経済に影響を与える資産家も必ず招待される。
モナコで行われるレーシングカーの選手権や、やはり伝統のあるイギリス王室が主催する競馬など、あちこちで行われる催しに向かっては人と会い、ビジネスに結びつけていく。
アドラーは〝サーキット〟と呼んでいる一年の予定がびっちり詰まっている。
佑も仕事で成功を収めた頃から、あちこちに招待され、または人に紹介されて……と、人脈や仕事の場を広げていっていた。
件の映画祭は、記者が取材をするにも複数の雑誌や新聞から推薦状を受け、それを英文に訳して事務局にアピールする必要がある。
それが認められて初めて、五段階になっている一番下のランクのプレスパスが受けられるほどだ。
プレスとはPR、広告の事で、この場合はマスコミを指していて、マスコミ用のパスだ。
映画祭では映画作品に関係する者しか招待されないと思いきや、作品を作るのに協力した会社の関係者やモデルなども招待される。
加えて大きなセレブのイベントに欠かせないのが、チャリティイベントだ。
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✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼
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