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第十一部・スペイン 編
フェルナンドとの会話
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「いただきます」
フェルナンドが席に着いたあと、香澄は両手を合わせて小さく呟く。
『今のなに? 日本式の食前の祈り?』
『あ、えーと今のは……そうですね、日本式の食前の言葉なのですが……』
日本の文化に興味を持ってくれたのだな、と思うと嬉しくなった。
香澄は英語で説明をしつつ、ゆっくり朝食を始めた。
『へえ、じゃあカスミの恋人はあのタスク・ミツルギなんだ』
朝食を終え、二人はコーヒーを飲みながら会話をしている。
だがそろそろ朝食時間は終わりのようで、周囲にいる人もまばらになってきた。
『そうなんですけど……。あの、そろそろ時間のようなので……』
『そうだね。楽しくてつい時間を忘れた。俺は休暇なんだけど、もし良かったらカフェテリアでも行ってコーヒーを飲み直さないか? もっと日本の話を聞きたいな』
誘われて、香澄は考える。
(話していて特におかしな人じゃないし、距離感も普通だった。久住さんたちにいてもらうなら、いい……のかな?)
恐らく先ほどの段階で、久住たちは佑や河野に連絡を入れているだろう。
それで特に警戒しろという指示がないのなら……、と思った。
『分かりました。ただ、護衛の同行を了承してください』
護衛と言われ、フェルナンドは久住と佐野を見た。
『いいよ。君を異性として見ている訳じゃないけど、彼らも仕事をしないとね』
レストランを出たあと、フェルナンドが尋ねてくる。
『このままホテルを出ても大丈夫? 支度があるなら待ってるけど』
『平気です』
街をプラプラ歩く程度なら、がっつりメイクをするほどでもないし、貴重品は持っている。
頷いたあと、護衛もつれてホテルを出た。
外に出たフェルナンドは、少し考えたあと『よし』と頷く。
『カスミ、日本から来たならカカオ・タンパカのチョコ食べなよ。ここから歩いて十五分ぐらいの場所に、イートインつきの本店がある』
『ぜひ行きたいです!』
ウェルカムチョコレートがとても美味しかったので、お土産に買いたいと思っていたので、香澄は快諾する。
『じゃあ、行こうか』
フェルナンドと並んでブラブラと歩きながら、「妙な縁ができたな」とぼんやり考える。
『フェルさんは何をしている人なんですか?』
あまり人の仕事を気にすると失礼なのかもしれないが、ホテルで優雅に過ごしているなら佑の〝お仲間〟なのかもしれない。
フェルナンドは気を悪くしたでもなく答えた。
『海運関係を経営しているんだ。海上の輸送サービスと考えてくれればいい。物でも人でもなんでも運ぶよ』
『へえ、色んな方々にお会いしましたが、海運は初めてです』
『今度クルーズ船に招待しようか? もちろん、恋人も一緒に』
『んふふ、ありがとうございます』
招待は魅力的だが、佑が何と言うか分からないので、一人で決める訳にはいかない。
「決めるのは彼じゃなくて君だろう?」と言われたとしても、香澄が一人で責任が負える話ではない。
いつも周りに言われている通り、もう一人だけの体ではないのだ。
フェルナンドの周りにいる女性はは、イエスかノーをハッキリ言う人ばかりなのだろう。
彼は曖昧に笑ってごまかす香澄を不思議そうな顔で見て、少し肩をすくめた。
『ガウディ関係は見たって聞いたけど、他の都市は行ったの? マドリードとか』
『まだなんです。今回は佑さんの出張に同行しているので、まったくの観光旅行という訳ではないので』
『そうか。スペインはいい国だから、今度あちこち見る事を勧めるよ』
彼の言葉に『はい』と笑ってから、彼が何人なのか尋ねる事にした。
『今さらなんですが、フェルさんはスペインの方ですか?』
『そうだよ。あ、カスミから見たら区別がつかないかな。日本人は〝外国人〟っていうくくりから、さらに区別するのが苦手って聞いたけど』
『んー……、ラテン系、ゲルマン系、スラブ系……と分かれているのは知識では理解したんですが、実際お会いすると難しいです』
世界を股に掛けている佑の秘書なのに、我ながら情けない。
『まあ、仕方ないね。俺も日本人と韓国人、中国人の見分けがすぐにつくか? って言われたら、まず分からないと思う』
『ふふ、それ知っている方も言っていました』
双子を思いだし、香澄は微笑む。
『昨今、何かあると差別差別って言うけど、分からない事は分からないってストレートに聞くのが一番な気もするけどね。尋ねられて怒る人はそれまでな気がする。文化が違う事によって、常識が相手の文化では非常識な事もあるし。それをちゃんと教えてあげるのが文化人だと俺は思うよ』
『みんなフェルさんのような考え方だと、ありがたいです』
『ありがと』
香澄の言葉にフェルナンドはご機嫌に笑い、『あそこだよ』と前方にある店を示した。
フェルナンドが席に着いたあと、香澄は両手を合わせて小さく呟く。
『今のなに? 日本式の食前の祈り?』
『あ、えーと今のは……そうですね、日本式の食前の言葉なのですが……』
日本の文化に興味を持ってくれたのだな、と思うと嬉しくなった。
香澄は英語で説明をしつつ、ゆっくり朝食を始めた。
『へえ、じゃあカスミの恋人はあのタスク・ミツルギなんだ』
朝食を終え、二人はコーヒーを飲みながら会話をしている。
だがそろそろ朝食時間は終わりのようで、周囲にいる人もまばらになってきた。
『そうなんですけど……。あの、そろそろ時間のようなので……』
『そうだね。楽しくてつい時間を忘れた。俺は休暇なんだけど、もし良かったらカフェテリアでも行ってコーヒーを飲み直さないか? もっと日本の話を聞きたいな』
誘われて、香澄は考える。
(話していて特におかしな人じゃないし、距離感も普通だった。久住さんたちにいてもらうなら、いい……のかな?)
恐らく先ほどの段階で、久住たちは佑や河野に連絡を入れているだろう。
それで特に警戒しろという指示がないのなら……、と思った。
『分かりました。ただ、護衛の同行を了承してください』
護衛と言われ、フェルナンドは久住と佐野を見た。
『いいよ。君を異性として見ている訳じゃないけど、彼らも仕事をしないとね』
レストランを出たあと、フェルナンドが尋ねてくる。
『このままホテルを出ても大丈夫? 支度があるなら待ってるけど』
『平気です』
街をプラプラ歩く程度なら、がっつりメイクをするほどでもないし、貴重品は持っている。
頷いたあと、護衛もつれてホテルを出た。
外に出たフェルナンドは、少し考えたあと『よし』と頷く。
『カスミ、日本から来たならカカオ・タンパカのチョコ食べなよ。ここから歩いて十五分ぐらいの場所に、イートインつきの本店がある』
『ぜひ行きたいです!』
ウェルカムチョコレートがとても美味しかったので、お土産に買いたいと思っていたので、香澄は快諾する。
『じゃあ、行こうか』
フェルナンドと並んでブラブラと歩きながら、「妙な縁ができたな」とぼんやり考える。
『フェルさんは何をしている人なんですか?』
あまり人の仕事を気にすると失礼なのかもしれないが、ホテルで優雅に過ごしているなら佑の〝お仲間〟なのかもしれない。
フェルナンドは気を悪くしたでもなく答えた。
『海運関係を経営しているんだ。海上の輸送サービスと考えてくれればいい。物でも人でもなんでも運ぶよ』
『へえ、色んな方々にお会いしましたが、海運は初めてです』
『今度クルーズ船に招待しようか? もちろん、恋人も一緒に』
『んふふ、ありがとうございます』
招待は魅力的だが、佑が何と言うか分からないので、一人で決める訳にはいかない。
「決めるのは彼じゃなくて君だろう?」と言われたとしても、香澄が一人で責任が負える話ではない。
いつも周りに言われている通り、もう一人だけの体ではないのだ。
フェルナンドの周りにいる女性はは、イエスかノーをハッキリ言う人ばかりなのだろう。
彼は曖昧に笑ってごまかす香澄を不思議そうな顔で見て、少し肩をすくめた。
『ガウディ関係は見たって聞いたけど、他の都市は行ったの? マドリードとか』
『まだなんです。今回は佑さんの出張に同行しているので、まったくの観光旅行という訳ではないので』
『そうか。スペインはいい国だから、今度あちこち見る事を勧めるよ』
彼の言葉に『はい』と笑ってから、彼が何人なのか尋ねる事にした。
『今さらなんですが、フェルさんはスペインの方ですか?』
『そうだよ。あ、カスミから見たら区別がつかないかな。日本人は〝外国人〟っていうくくりから、さらに区別するのが苦手って聞いたけど』
『んー……、ラテン系、ゲルマン系、スラブ系……と分かれているのは知識では理解したんですが、実際お会いすると難しいです』
世界を股に掛けている佑の秘書なのに、我ながら情けない。
『まあ、仕方ないね。俺も日本人と韓国人、中国人の見分けがすぐにつくか? って言われたら、まず分からないと思う』
『ふふ、それ知っている方も言っていました』
双子を思いだし、香澄は微笑む。
『昨今、何かあると差別差別って言うけど、分からない事は分からないってストレートに聞くのが一番な気もするけどね。尋ねられて怒る人はそれまでな気がする。文化が違う事によって、常識が相手の文化では非常識な事もあるし。それをちゃんと教えてあげるのが文化人だと俺は思うよ』
『みんなフェルさんのような考え方だと、ありがたいです』
『ありがと』
香澄の言葉にフェルナンドはご機嫌に笑い、『あそこだよ』と前方にある店を示した。
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