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第十一部・スペイン 編
朝食での出会い
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佑はスーツ姿でベッドに四つ這いになり、こちらを見下ろしている。
自分はベッドで裸なのに、彼はスーツ姿という差に背徳的な気持ちになった。
「香澄」
唇は隠しているので、前髪を上げられ額にちゅ、とキスをされた。
「ごめん。俺はもうそろそろ出るけど、朝食は十時頃まで大丈夫なはずだ。何ならルームサービスを頼んでもいいし」
「……分かったから。ちゃんと働いてきて」
まだ少し怒っているが、顔を布団から出して返事をする。
譲歩したのが伝わったのか、佑はホッとしたように微笑んで頭を撫でてきた。
それから、言い含めてくる。
「五つ星ホテルだけど、ホテルの内部にどんな人がいるか分からない。移動する時は護衛に伝えて。べったりついて歩かれるのが嫌なら、目立たない所を歩くぐらいの配慮はしてくれる」
「うん」
「ホテルの外に出てもいいけど、タクシーは使わず護衛に運転させて。買い物は護衛にカードを持たせてあるから、それを使ってくれ」
「……そ、そんなのいい。自分の買い物ぐらい自分でするよ」
いつも通り反抗したが、また頭を撫でられる。
「いいか、香澄。ここはスペインだ。俺の言う事を聞いて。俺は仕事があるから側にいてやれない。警戒はしすぎなぐらいで丁度いい。何かあったら一人で対応しようとしないで、必ず護衛に言う。いいね?」
「はい」
「腰は立つ?」
言われてモゾモゾと身じろぎし、少し力が入るようになったのを確認する。
「そろそろ」
「ん、良かった。俺に連絡がある時はなるべく河野に。緊急の時は直接かけてくれ」
「うん、分かった」
香澄はゆっくり起き上がり、背中をヘッドボードに預ける。
そんな彼女を、佑が抱き寄せた。
「……あったかい。布団の中でぬくぬくしてたから、体がホカホカしてる」
「レンチンしたてです」
冗談を言うと、佑は笑う。
「行ってきます」
佑は唇にチュッとキスをして、ベッドルームを出ていく。
姿が見えなくなる前にこちらを振り返り、投げキスをした。
足音が遠くなり、ドアが開閉する音が聞こえる。
「……いつも『俺は日本人の感覚だ』って言ってるけど、やってる事はかなり駄々甘で、海外っぽいなぁ」
呟いて笑ってから、香澄はゆっくりベッドをおりる。
まずシャワーを浴びて、朝の活動をする事にした。
**
香澄はブラウンのニットと揃いのニットスカートを身に纏い、朝食レストランへ行く。
そしてビュッフェで黙々と皿に食べ物を盛っていた。
佑に言われた通り、部屋を出る時は久住と佐野に連絡をした。
彼らはもう朝食を終えたそうなので、香澄の席から少し離れた場所で待機してもらっている。
遅い時間になるとあまり人気がない。
のんびりとスパニッシュオムレツの焼き上がりを待っていると、「Hi.」と声を掛けられた。
「え?」
顔を上げると、見覚えのある男性が立っている。
昨日の朝に、ジュースサーバー前で声を掛けてきたラテン系のイケメンだ。
『今日は一人なの?』
英語で話しかけられ、香澄はきょと、と目を瞬かせる。
『昨日はご親切にありがとうございました。連れは仕事です』
『なら、ブランチを一緒にとってもいい?』
『ご遠慮します』
同席してもいいかと尋ねられ、香澄は首を横に振る。
ここで頷けば佑が嫉妬し、怒る。
『いいじゃないか! 減るもんじゃないし』
だが男性は気さくに話し、香澄の後ろで食べ物を皿にとっている。
『じゃあ、こうしよう。君は自分の席で座って食べる。僕は〝自由席〟に座る』
そう言われ、頑なに拒絶してもこの手合いは諦めないと理解した。
双子がいい例だ。
『朝食の間だけですよ』
香澄は溜め息をつき、譲歩する。
『俺はフェルナンド。フェルって呼んで。君は?』
『……カスミ・アカマツです』
溜め息をついた香澄は、焼きたてのスパニッシュオムレツをトレーに置いて席に向かった。
ほどなくしてフェルナンドはトレーを手に、香澄の向かいに座る。
久住たちは異変を覚えて立ちあがったが、香澄は「その場で待機してくださって大丈夫です」と手でサインを送った。
自分はベッドで裸なのに、彼はスーツ姿という差に背徳的な気持ちになった。
「香澄」
唇は隠しているので、前髪を上げられ額にちゅ、とキスをされた。
「ごめん。俺はもうそろそろ出るけど、朝食は十時頃まで大丈夫なはずだ。何ならルームサービスを頼んでもいいし」
「……分かったから。ちゃんと働いてきて」
まだ少し怒っているが、顔を布団から出して返事をする。
譲歩したのが伝わったのか、佑はホッとしたように微笑んで頭を撫でてきた。
それから、言い含めてくる。
「五つ星ホテルだけど、ホテルの内部にどんな人がいるか分からない。移動する時は護衛に伝えて。べったりついて歩かれるのが嫌なら、目立たない所を歩くぐらいの配慮はしてくれる」
「うん」
「ホテルの外に出てもいいけど、タクシーは使わず護衛に運転させて。買い物は護衛にカードを持たせてあるから、それを使ってくれ」
「……そ、そんなのいい。自分の買い物ぐらい自分でするよ」
いつも通り反抗したが、また頭を撫でられる。
「いいか、香澄。ここはスペインだ。俺の言う事を聞いて。俺は仕事があるから側にいてやれない。警戒はしすぎなぐらいで丁度いい。何かあったら一人で対応しようとしないで、必ず護衛に言う。いいね?」
「はい」
「腰は立つ?」
言われてモゾモゾと身じろぎし、少し力が入るようになったのを確認する。
「そろそろ」
「ん、良かった。俺に連絡がある時はなるべく河野に。緊急の時は直接かけてくれ」
「うん、分かった」
香澄はゆっくり起き上がり、背中をヘッドボードに預ける。
そんな彼女を、佑が抱き寄せた。
「……あったかい。布団の中でぬくぬくしてたから、体がホカホカしてる」
「レンチンしたてです」
冗談を言うと、佑は笑う。
「行ってきます」
佑は唇にチュッとキスをして、ベッドルームを出ていく。
姿が見えなくなる前にこちらを振り返り、投げキスをした。
足音が遠くなり、ドアが開閉する音が聞こえる。
「……いつも『俺は日本人の感覚だ』って言ってるけど、やってる事はかなり駄々甘で、海外っぽいなぁ」
呟いて笑ってから、香澄はゆっくりベッドをおりる。
まずシャワーを浴びて、朝の活動をする事にした。
**
香澄はブラウンのニットと揃いのニットスカートを身に纏い、朝食レストランへ行く。
そしてビュッフェで黙々と皿に食べ物を盛っていた。
佑に言われた通り、部屋を出る時は久住と佐野に連絡をした。
彼らはもう朝食を終えたそうなので、香澄の席から少し離れた場所で待機してもらっている。
遅い時間になるとあまり人気がない。
のんびりとスパニッシュオムレツの焼き上がりを待っていると、「Hi.」と声を掛けられた。
「え?」
顔を上げると、見覚えのある男性が立っている。
昨日の朝に、ジュースサーバー前で声を掛けてきたラテン系のイケメンだ。
『今日は一人なの?』
英語で話しかけられ、香澄はきょと、と目を瞬かせる。
『昨日はご親切にありがとうございました。連れは仕事です』
『なら、ブランチを一緒にとってもいい?』
『ご遠慮します』
同席してもいいかと尋ねられ、香澄は首を横に振る。
ここで頷けば佑が嫉妬し、怒る。
『いいじゃないか! 減るもんじゃないし』
だが男性は気さくに話し、香澄の後ろで食べ物を皿にとっている。
『じゃあ、こうしよう。君は自分の席で座って食べる。僕は〝自由席〟に座る』
そう言われ、頑なに拒絶してもこの手合いは諦めないと理解した。
双子がいい例だ。
『朝食の間だけですよ』
香澄は溜め息をつき、譲歩する。
『俺はフェルナンド。フェルって呼んで。君は?』
『……カスミ・アカマツです』
溜め息をついた香澄は、焼きたてのスパニッシュオムレツをトレーに置いて席に向かった。
ほどなくしてフェルナンドはトレーを手に、香澄の向かいに座る。
久住たちは異変を覚えて立ちあがったが、香澄は「その場で待機してくださって大丈夫です」と手でサインを送った。
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✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼
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○表紙絵は市瀬雪さまに依頼しました。
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(Twitter)https://twitter.com/yukiyukisnow7?s=21
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