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第十一部・スペイン 編

サグラダ・ファミリア

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「ふあ……あぁ……」

 聖堂の中に入り、香澄は口をポカンと開け、天井や頭上高くにあるステンドグラスを見上げる。

 聖堂の中では柱が林立している。
 柱は変わったデザインで、柱頭は木の枝のように分かれて天井に届き、同化するようにくっついていた。

「不思議な柱。枝みたい」

「この聖堂は、森の中にいると思うように作られたそうだ。天井はかなり高いから、巨大樹と言っていいけどね」

「凄い……。どこもかしこも光で満ちあふれてる」

 左右には黄色、オレンジ、または青、緑の色とりどりのステンドグラスがあり、天井を見ても木漏れ日のように光がが差し込んでいる。

「聖堂って言ったらブルーメンブラットヴィルの聖堂を見た時のイメージが強いけど、あれとは造りが大違いだね。何て言うか……すっごい独特。なのにとても綺麗で訴えてくるものがあって……。……変態だ」

「ぶふっ」

 褒める語彙がなくなり、最終的に「変態」と言ったのを聞いて、佑が噴きだした。

「そうだね。天才的な人って、皆変態だと思うよ」

 香澄はぼんやりと、天井や高い場所ばかり見ている。
 佑は香澄が転ばないように手を握ってくれていた。

「見ての通り、光がどう差し込むか、どう表現するかにとてもこだわったみたいだ」

「うん、分かる」

 極彩色の聖堂にいると、キリスト教徒ではない香澄でも神聖な気持ちになってくる。

 中央祭壇まで行くと、やはり普通の聖堂とは異なる光景に出会う。

「なんか……、また罰当たりな事を言うけど、キリストがパラシュートを使ってるみたい」

「確かにパラシュートに見えるけど、あれは天蓋みたいだよ」

「天蓋?」

「ほら、天蓋付きベッドとかって言うだろ。屋根みたいな物の名前って思ったらいいけど」

「あー、そっかそっか」

 そのあともしげしげとキリスト像を見ていると、〝違い〟を見つけた。

 ブルーメンブラットヴィルでは十字架の長い部分に沿ってほぼ脚を伸ばしていたように思えたが、ここでは膝を立てて足の裏を十字架につけている。

(こういうのは、それぞれの作り手とか教会とかの、解釈の違いなのかな。昔から沢山ある宗教画も、似たようなモチーフはあれど詳細は違っているとかあるっぽいし)

 佑と美術館デートをした時も、せっかく連れてきてくれたのにあまり理解できなくて申し訳なく思い謝った事があった。

 するとこう言われたのだ。

『正解なんて作った人本人にしか分からない。だが世に放った以上、百人が百通りの解釈をしていいんだ。自分で見て〝あの色が好きだった〟〝これは何となく好き〟と感じたなら、それでいいんだよ』

 そう言われて、かなり気持ちが楽になったのを覚えている。

 もし詳しい解説があるなら佑が教えてくれるだろうし、あとはぼんやり捉えるだけにしておこうと思った。

 ある程度見たあと、佑が提案してくる。

「香澄。ヤングコーンに上ってみる?」

「え? 上れるの? 行ってみたい!」

「俺がずっと前に来た時は、上りも下りも階段だったけど、今はエレベーターがあるから上りは楽だよ。下りは急な螺旋階段があるから、足元に注意して」

「はい」

 佑が言うには、生誕の門か受難の門のどちらかを選んで上れるようだ。

「香澄は高い所ってどう?」

「ん、いや。特に凄く苦手ってほどじゃないよ。でもスカイツリーにあったように、高い場所で足元がガラスになっているのは難しいかな。足が竦んじゃう」

「そうか」

「佑さんは? 平気なの?」

 大きいと言えないエレベーターに乗り込めば、佑たち一行で埋まってしまう。

「俺は昔、双子にねだられてスカイツリーを案内して、ガラスの床まで行ったよ。双子はあの通りだから大喜びしてガラスの上でジャンプしてたな。俺も呼ばれたから普通に踏んだけど、何も反応しないからあいつらに『面白みがない』とクレームを受けた」

「んふふふふ……。お二人らしい」

 笑ってから、アロイスとクラウスを思いだす。

「今頃、どうしてるかな」

「会いたいのか?」

 特に怒っている様子もなく、聞かれる。
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