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第十一部・スペイン 編

ベビードールのお披露目

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「それにしても佑さんは本当に物知りだね。ガイドさんできそう」

 香澄の言葉に佑は笑う。

「ヨーロッパのガイドは厳しい試験や資格が必要だから、俺には無理だよ。大体の情報は出張で訪れて、接待で説明してもらって知ったんだ。何回か重ねるうちに覚えるし、同じ要領で色んな国の主要な観光地は把握してるかな」

「そっかぁ」

 食事が終わると食後のスイーツとコーヒーが運ばれ、満足すると丁度いいタイミングで瀬尾が車をまわしてくれていた。

 残りの者も後続の車に乗り、またホテルに向かう。
 時刻は夕方で、こんな時間にお腹一杯食べるのは不思議な気持ちだ。

「早い晩ご飯を食べた気分。いまのランチだったの?」

「観光旅行に来る人もこのスペイン時間に戸惑うそうだけど、やっぱり現地の感覚に合わせるのが一番だよ。何せレストランが開いてないから」

「ふふ、そうだね」

 こうやって考えると、つくづく日本はサービス精神に溢れた国だ。

 海外では休むべき曜日や時間はきっちり守られている。
 日本の感覚だと不便に感じるが、逆にそのメリハリがこちらの人の生活を守っているのだろう。

 ドイツでも感じたが無理に笑おうとしないし、相手が客でも苛ついた時は不満を訴える。
 勿論、高級店で行儀良くしていればそんな対応はされないが、色々見て回る中で他の人たちを見て思った。

「ふぁ……」

 お腹一杯になると体温が上がり、眠くなってくる。

「眠たいか?」

 佑が腕を伸ばして香澄を抱き寄せ、ポンポンと頭を撫でてきた。

「ちょっと。まだ時差ボケがあるのかな」

「あとはホテルでゆっくりするだけだから、眠ってもいいよ」

「んー……」

 しばしばと目を瞬かせたあと、香澄は佑にもたれかかって目を閉じる。
 彼のウード&ベルガモッドがラストノートになり、心地よく香っていた。

 目を閉じて大好きな匂いを堪能し、香澄は車の振動に身を任せた。



**



「……ど、どぉ?」

 香澄は隣の部屋からコソコソと足音を忍ばせてやってくると、ベッドの前に立つ。

 彼女は昼間に買ったベビードールを身につけていた。
 三角の胸元は透けていないのでセーフだが、胸下はシースルーの布地がヒラヒラとしている。その布は正面で左右に分かれているので、お腹が丸出しだ。
 お揃いのパンティは布面積が小さく、サイドやバックも紐と言っても過言ではなく心許ない。

 香澄は懸命に両手でお腹を隠し、俯いたままチラチラと上目遣いに佑を窺っていた。

「隠さないで」

 ベッドで香澄を待っていた佑は胡座を掻き、嬉しそうにスマホを構える。

「ちょ……っ、と、撮るの!?」

「こんな可愛い香澄、記録に残さないでどうするんだ」

 カシャッとシャッター音がし、「手を離して」と指示される。

「う、うー……」

 香澄の手は戸惑いを見せたあと、ゆっくり腹部から離れた。

 すかさずカシャッと音がして、「その場でゆっくり一回転してみて」と指示がでる。
 佑はスマホを掲げたままなので、恐らく動画を撮影されているのだろう。

「もぉぉ……」

 顔を真っ赤にしたまま、香澄はその場で小さく足踏みをしてゆっくり回ってゆく。
 トトトト……と回っていると、ベッドのほうから「可愛いな。……可愛い。うん、可愛い」とブツブツ言っている声が聞こえるが、恥ずかしいので無視だ。

 正面に戻ると、少しやけくそになってベビードールのヒラヒラを摘まみ、バレエダンサーのようにちょこんとお辞儀をしてみせた。

「ブラボー!」

 すると佑がスマホを脇に置き、両手でパチパチと拍手する。

「も、もぉっ」

 恥ずかしさMAXになった香澄は、トトッと助走をつけてベッドの上にダイブした。
 ベッドマットの上で体を弾ませ、モゾモゾとうずくまる。

「……こら」

 いわゆる〝ごめん寝〟をした香澄の頭を、佑がつつく。

「はずかしい」

 だが顔を上げられない香澄は、くぐもった声で返事をするだけだ。
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