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第十一部・スペイン 編

ビュッフェ1

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「ありがとう。一緒に取りに行こうか」

 助かったと言わんばかりの笑みを見て、香澄は少し安心してしまう。

 だが女性は強気な性格をしているらしく、香澄をチラッと一瞥してつまらなさそうに言う。

『あなたこんな子供が趣味なの? 変わってるわね』

『彼女は立派な大人で、俺の婚約者です。朝食を取りに行くので失礼』

 佑はそう言ってから、香澄の肩に手を置いて食べ物が置いてある場所へ向かう。

「……ナンパされてたの?」

「そっちこそ」

 小さい声で言い合い、お互い内心で「違う……」と呟く。

「私は、『お困りですか?』って言われただけだもん」

 トレーの上に海外ならではの重たい皿を載せ、香澄は列に並ぶ。
 だがすぐ後ろについた佑も対抗してきた。

「俺はChief Everyの社長かって聞かれただけだ」

 むぅ、と膨れたまま、香澄は何種類もあるハムを前に迷い、ひとまず一枚ずつ取ってみる。続いてカリカリベーコンも一枚取った。
 順番にウィンナーやスクランブルエッグ、焼きトマトなどがあり、皿の上が賑やかになってくる。

「ん……?」

 ふと目の前に見慣れない食べ物があり、香澄の思考が停止した。

 女性に声を掛けられていた佑に嫉妬していたのに、困った顔でソロ……と彼を見上げる。

「なんか刺さってる……」

 何かを包んだサーモンに、上から串が刺さっている一口大の食べ物だ。
 佑は先ほどの言い合いにもならないものを、まったく気にしていなかったようで、いつもの調子で答えてくれた。

「これが昨日言ってたピンチョス。基本的に小さなパンをベースに、味付けになるおかずを一緒に串で刺した物を言うけど、これは亜流みたいなものかな。パンの代わりに揚げミートボールっぽい物を刺してるのとか」

「食べる!」

 張り切った香澄の横で、佑がブフッと噴き出した。

 恥ずかしくなってジトォ……と佑を見たが、もう遅い。
 横を向いて笑いを押し殺している彼は、香澄に続いてピンチョスを皿に取る。

「あれはなに?」

 おかずになる物が並んでいる先で、コックがその場で何か作ってくれている。

「スパニッシュオムレツかな」

「へぇえー……」

 だがそろそろおかずを載せた皿は一杯になり、香澄は一度その場を離れる事にした。
 その前にパン類があるコーナーに寄り、新しく小さめの皿をトレーに載せる。

「クロワッサンに……こっちの方はジャムやバターをつけて楽しむプレーンなパンかな? で、こっちは甘め……。甘いのはいいや」

 ブツブツと言いつつ、ひとまず好物でもあるクロワッサンを一つ載せる。

「佑さん、こっちのサンドウィッチ美味しそうだよ」

 コーナーにはバゲットにレタスやトマト、ハムが挟まれた物があり、香澄は迷わず皿に載せた。

「これはスペインではボカディージョって言うんだ。まぁ、バゲットでできたサンドウィッチなのは変わりないけど」

「ふぅん。あ、チーズが一杯ある。サラダのボウルももらおう」

 パンを載せた皿にチーズを数種類載せ、ガラスの小鉢に入ったサラダも載せた。

「よし、第一弾終わり。……って、これなぁに?」

 フルーツやデザート類もあるが、それは第二弾にするとして、その隣に〝何か〟のサーバーがある。
 ドリンクは別の場所にサーバーがあったし、コーヒー類はウェイターが席で注いでくれる。

 これは何だろう? と首を傾げる香澄に、佑がまた説明してくれる。

「ヨーグルトサーバーかな。小鉢にフルーツを入れてその上に掛けたりとか、シリアル類を入れる人もいる」

「ヨーグルト!」

 ほぉぉ……と納得しつつ席に戻ると、自分の皿がてんこ盛りになっていて少し恥ずかしくなった。
 悲しいのは、向かいに座った佑の皿にも同じぐらいの量がのっていた事だ。

(……佑さんと食べる量が同じ……)

 カァ……と赤面しつつ、香澄は「いただきます」と手を合わせる。

 まずオレンジジュースを飲んでみると、程よい酸味がありとても美味しい。
 思わずニコォ……と笑顔になる香澄を見て、佑がまた笑いを堪えていた。

「あ……あの。私、食いしん坊じゃないから……」

「知ってるよ。香澄は食いしん坊だ」

 女性らしく恥じらってみせたのに、佑は香澄の食いしん坊を全肯定してくる。
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