647 / 1,550
第十一部・スペイン 編
〝恋人を駄目にする恋人〟
しおりを挟む
「……私の事、好きなんだね」
監禁すると脅されているのに、喜んでしまう自分も大概だ。
それほど深く佑を愛し、すべてを受け入れられる気構えはできている。
「大好きだよ。この世界の誰よりも大切だ。香澄の代わりになる女性はいない、唯一無二だ」
嬉しくて、佑が愛しくて、――涙が零れそうになり、必死に笑おうとした。
薄闇の中で、香澄はグスッと鼻を啜る。
泣きそうなので、努めて明るく振る舞った。
「やった。私、世界一だ」
ふふっと笑った香澄を、佑がポンポンと撫でて抱き締める。
「頑張らなくていいよ。俺の前では力を抜いて、リラックスしていていい。常に笑顔でいようとしなくていいんだ。不安なら不安だと言っていいと学んだばかりだろう?」
「……うん」
きちんとしたいのに、佑は力を抜いていいと言う。
そのバランスが難しいなと思いつつ、どこかで落とし所を見つけられたらいいなと思った。
「佑さんだってずるいよ。私の事を甘やかして駄目人間にしようとするんだもん」
香澄はくてんと佑に寄りかかる。
「〝人を駄目にするソファ〟って言うのあったけど、佑さんは〝恋人を駄目にする恋人〟です」
「それでいいよ。俺の目標は、きちんとしたい香澄をダラダラにさせる事なんだから。何なら、下着姿でうろついてもいいんだよ?」
「な……っ」
佑が望んでいるだらしなさを知り、香澄は思わず彼を見る。
「そ、それしちゃったら駄目な奴でしょ」
「そこだよ?」
トンと指で額を押され、香澄は目を瞬かせる。
「あの家は香澄の自宅だ。それぐらいしてもらわないと困る。札幌で一人暮らししていた時、そうしていなかった?」
「……してた……けど」
「俺の所でしてくれないっていう事は、まだ心の壁があるんじゃないか?」
核心をつかれ、香澄は思わず言葉を失った。
「別にだらしなくなってほしいと言ってるんじゃない。香澄にだってプライドがあるだろうし。でも家族になりたいと思ってるから、あの家を心から安らげる所と思ってほしいんだ」
「うん……。努力、します」
なかなか肩の力が抜けない香澄を、佑はギュッと抱き締めつむじの辺りにキスをする。
それからポヨポヨと胸を揉んできた。
「セクハラだけど、できればこれぐらい……気持ちも柔らかくしてほしい」
「ふふふふ……、もぉ」
思わず笑ってから、香澄はふぁ……とあくびをする。
「眠い? 寝ようか」
そう言って佑は横になり、羽根枕の形を整える。
香澄も彼の隣に寝転んでまたあくびをしてから、先ほど目を覚ました時の事を思い出した。
「……佑さん、寝てなかったんでしょ?」
「今度は寝るよ」
「うん……。一緒に寝よ」
モソモソと身じろぎをして目を閉じると、彼のぬくもりと肌の感触に、とろりと目蓋が落ちてくる。
一か月の空白を経ての渇きがようやく落ち着き、安堵と一緒に疲れが出てきたのかもしれない。
佑にくっついて目を閉じていると、そのうち眠気が訪れて、あっという間に意識が闇に呑まれた。
小さな寝息が聞こえるようになってから、佑は静かに息をついた。
香澄の肌を撫でたいが、起こしてしまったら悪い。
一か月の香澄断ちの飢餓感はまだ癒えておらず、絶えずその肌を撫で、側にいるのだと確認しなければなかなか心が安まらない。
息を吸うと、香澄の香りがする。
それだけでもとても幸せな心地になり、今度は安堵の息をついた。
「だが……」と佑は薄闇の中で目を開き、ジッと闇の向こうを見る。
(イギリス……か)
不承不承頷いてしまったとはいえ、本当はしばらく香澄をイギリスに近づけたくなかった。
監禁すると脅されているのに、喜んでしまう自分も大概だ。
それほど深く佑を愛し、すべてを受け入れられる気構えはできている。
「大好きだよ。この世界の誰よりも大切だ。香澄の代わりになる女性はいない、唯一無二だ」
嬉しくて、佑が愛しくて、――涙が零れそうになり、必死に笑おうとした。
薄闇の中で、香澄はグスッと鼻を啜る。
泣きそうなので、努めて明るく振る舞った。
「やった。私、世界一だ」
ふふっと笑った香澄を、佑がポンポンと撫でて抱き締める。
「頑張らなくていいよ。俺の前では力を抜いて、リラックスしていていい。常に笑顔でいようとしなくていいんだ。不安なら不安だと言っていいと学んだばかりだろう?」
「……うん」
きちんとしたいのに、佑は力を抜いていいと言う。
そのバランスが難しいなと思いつつ、どこかで落とし所を見つけられたらいいなと思った。
「佑さんだってずるいよ。私の事を甘やかして駄目人間にしようとするんだもん」
香澄はくてんと佑に寄りかかる。
「〝人を駄目にするソファ〟って言うのあったけど、佑さんは〝恋人を駄目にする恋人〟です」
「それでいいよ。俺の目標は、きちんとしたい香澄をダラダラにさせる事なんだから。何なら、下着姿でうろついてもいいんだよ?」
「な……っ」
佑が望んでいるだらしなさを知り、香澄は思わず彼を見る。
「そ、それしちゃったら駄目な奴でしょ」
「そこだよ?」
トンと指で額を押され、香澄は目を瞬かせる。
「あの家は香澄の自宅だ。それぐらいしてもらわないと困る。札幌で一人暮らししていた時、そうしていなかった?」
「……してた……けど」
「俺の所でしてくれないっていう事は、まだ心の壁があるんじゃないか?」
核心をつかれ、香澄は思わず言葉を失った。
「別にだらしなくなってほしいと言ってるんじゃない。香澄にだってプライドがあるだろうし。でも家族になりたいと思ってるから、あの家を心から安らげる所と思ってほしいんだ」
「うん……。努力、します」
なかなか肩の力が抜けない香澄を、佑はギュッと抱き締めつむじの辺りにキスをする。
それからポヨポヨと胸を揉んできた。
「セクハラだけど、できればこれぐらい……気持ちも柔らかくしてほしい」
「ふふふふ……、もぉ」
思わず笑ってから、香澄はふぁ……とあくびをする。
「眠い? 寝ようか」
そう言って佑は横になり、羽根枕の形を整える。
香澄も彼の隣に寝転んでまたあくびをしてから、先ほど目を覚ました時の事を思い出した。
「……佑さん、寝てなかったんでしょ?」
「今度は寝るよ」
「うん……。一緒に寝よ」
モソモソと身じろぎをして目を閉じると、彼のぬくもりと肌の感触に、とろりと目蓋が落ちてくる。
一か月の空白を経ての渇きがようやく落ち着き、安堵と一緒に疲れが出てきたのかもしれない。
佑にくっついて目を閉じていると、そのうち眠気が訪れて、あっという間に意識が闇に呑まれた。
小さな寝息が聞こえるようになってから、佑は静かに息をついた。
香澄の肌を撫でたいが、起こしてしまったら悪い。
一か月の香澄断ちの飢餓感はまだ癒えておらず、絶えずその肌を撫で、側にいるのだと確認しなければなかなか心が安まらない。
息を吸うと、香澄の香りがする。
それだけでもとても幸せな心地になり、今度は安堵の息をついた。
「だが……」と佑は薄闇の中で目を開き、ジッと闇の向こうを見る。
(イギリス……か)
不承不承頷いてしまったとはいえ、本当はしばらく香澄をイギリスに近づけたくなかった。
23
お気に入りに追加
2,552
あなたにおすすめの小説
社長室の蜜月
ゆる
恋愛
内容紹介:
若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。
一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。
仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。
上司は初恋の幼馴染です~社内での秘め事は控えめに~
けもこ
恋愛
高辻綾香はホテルグループの秘書課で働いている。先輩の退職に伴って、その後の仕事を引き継ぎ、専務秘書となったが、その専務は自分の幼馴染だった。
秘めた思いを抱えながら、オフィスで毎日ドキドキしながら過ごしていると、彼がアメリカ時代に一緒に暮らしていたという女性が現れ、心中は穏やかではない。
グイグイと距離を縮めようとする幼馴染に自分の思いをどうしていいかわからない日々。
初恋こじらせオフィスラブ
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
身分差婚~あなたの妻になれないはずだった~
椿蛍
恋愛
「息子と別れていただけないかしら?」
私を脅して、別れを決断させた彼の両親。
彼は高級住宅地『都久山』で王子様と呼ばれる存在。
私とは住む世界が違った……
別れを命じられ、私の恋が終わった。
叶わない身分差の恋だったはずが――
※R-15くらいなので※マークはありません。
※視点切り替えあり。
※2日間は1日3回更新、3日目から1日2回更新となります。
若社長な旦那様は欲望に正直~新妻が可愛すぎて仕事が手につかない~
雪宮凛
恋愛
「来週からしばらく、在宅ワークをすることになった」
夕食時、突如告げられた夫の言葉に驚く静香。だけど、大好きな旦那様のために、少しでも良い仕事環境を整えようと奮闘する。
そんな健気な妻の姿を目の当たりにした夫の至は、仕事中にも関わらずムラムラしてしまい――。
全3話 ※タグにご注意ください/ムーンライトノベルズより転載
ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~
菱沼あゆ
恋愛
念願のランプのショップを開いた鞠宮あかり。
だが、開店早々、植え込みに猫とおばあさんを避けた車が突っ込んでくる。
車に乗っていたイケメン、木南青葉はインテリアや雑貨などを輸入している会社の社長で、あかりの店に出入りするようになるが。
あかりには実は、年の離れた弟ということになっている息子がいて――。
『逃れられない淫らな三角関係』番外編 ヘルプラインを活用せよ!
臣桜
恋愛
『逃れられない淫らな三角関係』の番外編です。
やりとりのある特定の読者さまに向けた番外編(小冊子)です。
他にも色々あるのですが、差し障りのなさそうなものなので公開します。
(他の番外編は、リアルブランド名とかを出してしまっている配慮していないものなので、ここに載せるかは検討中)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる