634 / 1,559
第十一部・スペイン 編
既視感
しおりを挟む
(おいしそ……)
時差もあるので今が何時なのかも忘れ、香澄はチョコレートをチラチラ気にする。
「た……」
佑にチョコレートを食べていいか尋ねようとした時、フッと既視感を覚えた。
(あれ? 私……。このホテルに来た事がある?)
そう思ってから、「そんなはずはない」と内心で首を横に振る。
(じゃあ、何でこう感じたんだろう? スペインに来たのは初めて。ヨーロッパに来たのは、ドイツへ行って以来。……エミリアさんとイギリスに行った時の事は覚えていなくて……)
既視感の理由は分からないが、お城のようなホテルにいると堪らなく不安になってくる。
「香澄?」
佑は固まっていた香澄を不審に思い、声を掛けてくる。
何とも言えず、香澄は彼に抱きついた。
「……ちょっと、ギュッてして」
「ん……」
佑は何も言わず抱き締めてくれ、その体の温もりが香澄を落ち着かせていく。
「どうした?」
落ち着いた頃、佑が穏やかな声で尋ねてくる。
「ううん、何でも……」
「言って。ほんの些細な事でもいいから、すべて教えて」
言われて、ニセコで「何でも話し合っていこう」と言ったのを思いだした。
「大した事はないんだけど、こういう……お城みたいな内装のホテルにいると、『来た事あったっけ?』っていう気持ちになって、それで何でかちょっと不安……、怖さみたいなものも感じて……。……変だよね」
笑って誤魔化そうとしたが、佑は目を見開いて香澄を凝視していた。
「……佑さん?」
「……いや」
そういったあと、佑はしばし何かを考える。
「ホテルを変えるか?」
「えっ!? 何でそうなるの!? こんな立派なホテルにチェックインしたんだから、勿体ない事しないで」
香澄は弾かれたように顔を上げ、佑の服を掴む。
「だが……」
「本当に気にしないで。お友達のホテルだし、お知り合いの方が納得するグレード、地理的な利便性、警備、あらゆる面で選んで利用しているホテルだって言う事は、秘書だから分かっています。だから、私一人のために『変える』なんて言わないで」
そう訴えたからか、佑は息をつく。
「……バルセロナでの仕事を終えたら場所を変える。それまで我慢してくれるか?」
「勿論!」
微笑んだあと、香澄は話題を変える。
「ねぇ、チョコ食べていい?」
「どうぞ。ここのウェルカムチョコレートは、スペイン王室御用達の『カカオ・タンパカ』だよ」
「美味しそう。いただきます」
香澄はソファに座り、チョコレートに手を伸ばす。
まだまだ香澄の頭の中はセレブに染まっておらず、世界的に有名なショコラトリーの名前を出されても、いまいち分かっていない。
ピラミッドのような形をしたチョコレートを口の中に入れると、品のいい甘さに「んん!」と目を見開いた。
「んふぅ~……」
軽く噛み、舌の上で溶かしていく時間が幸せだ。
佑はその顔を満足げに見ている。
「おいひい……」
食べ終わって幸せの声を出すと、クスクス笑った佑がいつものように尋ねてくる。
「美味いか?」
「うまい」
んふ、と笑ってピースすると、佑も笑ってピースしてくれた。
佑も香澄の隣に腰を下ろし、ソファの背もたれに腕を預けてこちらを見てくる。
(……た、食べづらい……)
舌の上でチョコレートを転がして味わっているが、右側から視線を感じて恥ずかしい。
ぷい、と横を向こうとすると、後ろから抱き締められた。
「分けて」
欲のこもった声がしたかと思うと、抱き寄せられてキスをされた。
「……ん」
まだ口の中にチョコレートが残っているのに、佑は舌を差し入れて香澄の口内を舐め回してきた。
時差もあるので今が何時なのかも忘れ、香澄はチョコレートをチラチラ気にする。
「た……」
佑にチョコレートを食べていいか尋ねようとした時、フッと既視感を覚えた。
(あれ? 私……。このホテルに来た事がある?)
そう思ってから、「そんなはずはない」と内心で首を横に振る。
(じゃあ、何でこう感じたんだろう? スペインに来たのは初めて。ヨーロッパに来たのは、ドイツへ行って以来。……エミリアさんとイギリスに行った時の事は覚えていなくて……)
既視感の理由は分からないが、お城のようなホテルにいると堪らなく不安になってくる。
「香澄?」
佑は固まっていた香澄を不審に思い、声を掛けてくる。
何とも言えず、香澄は彼に抱きついた。
「……ちょっと、ギュッてして」
「ん……」
佑は何も言わず抱き締めてくれ、その体の温もりが香澄を落ち着かせていく。
「どうした?」
落ち着いた頃、佑が穏やかな声で尋ねてくる。
「ううん、何でも……」
「言って。ほんの些細な事でもいいから、すべて教えて」
言われて、ニセコで「何でも話し合っていこう」と言ったのを思いだした。
「大した事はないんだけど、こういう……お城みたいな内装のホテルにいると、『来た事あったっけ?』っていう気持ちになって、それで何でかちょっと不安……、怖さみたいなものも感じて……。……変だよね」
笑って誤魔化そうとしたが、佑は目を見開いて香澄を凝視していた。
「……佑さん?」
「……いや」
そういったあと、佑はしばし何かを考える。
「ホテルを変えるか?」
「えっ!? 何でそうなるの!? こんな立派なホテルにチェックインしたんだから、勿体ない事しないで」
香澄は弾かれたように顔を上げ、佑の服を掴む。
「だが……」
「本当に気にしないで。お友達のホテルだし、お知り合いの方が納得するグレード、地理的な利便性、警備、あらゆる面で選んで利用しているホテルだって言う事は、秘書だから分かっています。だから、私一人のために『変える』なんて言わないで」
そう訴えたからか、佑は息をつく。
「……バルセロナでの仕事を終えたら場所を変える。それまで我慢してくれるか?」
「勿論!」
微笑んだあと、香澄は話題を変える。
「ねぇ、チョコ食べていい?」
「どうぞ。ここのウェルカムチョコレートは、スペイン王室御用達の『カカオ・タンパカ』だよ」
「美味しそう。いただきます」
香澄はソファに座り、チョコレートに手を伸ばす。
まだまだ香澄の頭の中はセレブに染まっておらず、世界的に有名なショコラトリーの名前を出されても、いまいち分かっていない。
ピラミッドのような形をしたチョコレートを口の中に入れると、品のいい甘さに「んん!」と目を見開いた。
「んふぅ~……」
軽く噛み、舌の上で溶かしていく時間が幸せだ。
佑はその顔を満足げに見ている。
「おいひい……」
食べ終わって幸せの声を出すと、クスクス笑った佑がいつものように尋ねてくる。
「美味いか?」
「うまい」
んふ、と笑ってピースすると、佑も笑ってピースしてくれた。
佑も香澄の隣に腰を下ろし、ソファの背もたれに腕を預けてこちらを見てくる。
(……た、食べづらい……)
舌の上でチョコレートを転がして味わっているが、右側から視線を感じて恥ずかしい。
ぷい、と横を向こうとすると、後ろから抱き締められた。
「分けて」
欲のこもった声がしたかと思うと、抱き寄せられてキスをされた。
「……ん」
まだ口の中にチョコレートが残っているのに、佑は舌を差し入れて香澄の口内を舐め回してきた。
23
お気に入りに追加
2,572
あなたにおすすめの小説

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。


甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
オオカミ課長は、部下のウサギちゃんを溺愛したくてたまらない
若松だんご
恋愛
――俺には、将来を誓った相手がいるんです。
お昼休み。通りがかった一階ロビーで繰り広げられてた修羅場。あ~課長だあ~、大変だな~、女性の方、とっても美人だな~、ぐらいで通り過ぎようと思ってたのに。
――この人です! この人と結婚を前提につき合ってるんです。
ほげええっ!?
ちょっ、ちょっと待ってください、課長!
あたしと課長って、ただの上司と部下ですよねっ!? いつから本人の了承もなく、そういう関係になったんですかっ!? あたし、おっそろしいオオカミ課長とそんな未来は予定しておりませんがっ!?
課長が、専務の令嬢とのおつき合いを断るネタにされてしまったあたし。それだけでも大変なのに、あたしの住むアパートの部屋が、上の住人の失態で水浸しになって引っ越しを余儀なくされて。
――俺のところに来い。
オオカミ課長に、強引に同居させられた。
――この方が、恋人らしいだろ。
うん。そうなんだけど。そうなんですけど。
気分は、オオカミの巣穴に連れ込まれたウサギ。
イケメンだけどおっかないオオカミ課長と、どんくさくって天然の部下ウサギ。
(仮)の恋人なのに、どうやらオオカミ課長は、ウサギをかまいたくてしかたないようで――???
すれ違いと勘違いと溺愛がすぎる二人の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる