上 下
633 / 1,544
第十一部・スペイン 編

グラシアス・バルセロナ

しおりを挟む
「バルに行くなら色んな物があるよ」

「バル……?」

 聞いた事はあるが、詳しく知らない単語だ。

「バルは言ってしまえば飲み屋。スペイン的な食べ物と言えば、バゲットの上に色んな物をのせて食べるピンチョス。生ハムもアヒージョも美味い。クリームコロッケみたいなクロケッタや、タコ料理。地中海に面しているから、海産物も美味い」

 ごくん、と香澄の喉が鳴る。

 静かな車内で割と響いたのか、佑がクツクツと肩を揺らして笑いだした。

「香澄は素直で可愛い」

「く、食い気だけじゃないもん……」

 俯きつつ反論すると、肩を抱き寄せられ耳元で「知ってるよ」と囁かれる。

「――――っ」

 昨晩の恥ずかしすぎる交わりを思いだし、ボボッと火がついたように顔が熱くなった。

 照れくささを誤魔化すために、スペインについての質問をしながら車中で過ごした。

 窓の外、空港近くは畑が多かったが、すぐに家々がひしめきあう。
 おや、と思ったのは日本でも普及してきた、環状交差点ラウンドアバウトが多い事だ。

 高級そうな店が増えてきたな……と思った頃、車は街中の角で停車した。

「ここが当面の宿『グラシアス・バルセロナ』」

 佑にエスコートされて車を降りると、目の前にはいかにも五つ星ホテルです! という宮殿のような建物がそびえていた。

 バロック様式の建物は、日本にない伝統と高級感を訴えてくる。
 夜なのでライトアップされているのが、また雰囲気を増していた。

 周囲には、オレンジの実がなっている街路樹があるのが印象的だった。

 ぼんやりとホテルを見上げていると、後続の車から河野が出てきて、「部屋の鍵を受け取って参ります」と中に入っていった。

 佑は香澄に周辺を説明する。

「この辺りはゴシック地区。すぐ近くにはカタルーニャ広場や、ランブラス通りがある。ハイブランドの店があるグラシア通りがあるアシャンプラ地区は、もう少し離れた場所だ。ディアグナル通りという大きなストリートの向こうに、サグラダ・ファミリアがあり、もっと行くとグエル公園もある」

「うん……」

 よく分からなくて曖昧に頷くと、ポンポンと頭を撫でられた。

「そのうち」

「うん、そのうち」

 肩を抱かれホテルに入ると、まさしく城! というロビーが広がった。

 白を基調とした内装で、フロント前まで精緻な模様が描かれた絨毯が敷かれていた。
 ゴシック様式らしい豪華な装飾や、アーチなどの曲線を用いた作りはそれだけでも観賞する価値がある。
 煌びやかなロビーには観葉植物のグリーンで目に癒しを与え、貴族が座りそうな椅子では宿泊客が談笑していた。

 夜なのでシャンデリアをはじめ、あちこちに灯りがつき、金色の光を放っている。

「すごい……」

「このホテルは知り合いがオーナーなんだ。ホテル王と言われているショーン・ロッドフォードって聞いた事あるか?」

「あ、うん。名前だけは」

 確かアメリカに本拠地を置く、世界に名を轟かせる富豪の一人だ。

「ドイツ関係からヨーロッパ、アメリカに関係が延長して、現在アメリカに住んでいる知り合いの友人……。ややこしいな。まぁ、紹介だ。そしたら彼のために何着かデザインする事を請け負った。それと引き換えに、各地のホテルで融通を利かせてもらっている」

「すごい……。横の繋がり……」

「そう。世界は広いようでいて、割と狭い」

 それほど待たされる事もなく、コンシェルジュが英語で『ようこそ、ミツルギ様』とカードキーを手に近付いてくる。

『お部屋にご案内します』

 彼について歩き、エレベーターに乗り込むと最上階の九階まで上がる。
 造りは伝統的だが、エレベーターなどの設備はしっかりしている。

『今回もご滞在ありがとうございます。スタッフ一同心を込めておもてなし致します』

 エレベーターの中で挨拶をされ、いざ九階までついて白いドアを開くと、夜のバルセロナを一望できるスイートルームが広がっていた。

「わぁ……綺麗」

 間接照明で柔らかに照らされた部屋は、クラシカルなゴージャス感があった。

 リビングルームのソファは猫足で、お姫様が座っていそうだ。

 花柄のカーテンは厚地で高級感があり、ドレープをきかせて窓辺を飾り、金色のタッセルで留められている。

 部屋の要所には美しいフラワーアレンジメントがあり、テーブルの上にはウェルカムフルーツとチョコレートが置いてあった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ミックスド★バス~家のお風呂なら誰にも迷惑をかけずにイチャイチャ?~

taki
恋愛
【R18】恋人同士となった入浴剤開発者の温子と営業部の水川。 お互いの部屋のお風呂で、人目も気にせず……♥ えっちめシーンの話には♥マークを付けています。 ミックスド★バスの第5弾です。

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

社長の奴隷

星野しずく
恋愛
セクシー系の商品を販売するネットショップを経営する若手イケメン社長、茂手木寛成のもとで、大のイケメン好き藤巻美緒は仕事と称して、毎日エッチな人体実験をされていた。そんな二人だけの空間にある日、こちらもイケメン大学生である信楽誠之助がアルバイトとして入社する。ただでさえ異常な空間だった社内は、信楽が入ったことでさらに混乱を極めていくことに・・・。(途中、ごくごく軽いBL要素が入ります。念のため)

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

【R18】豹変年下オオカミ君の恋愛包囲網〜策士な後輩から逃げられません!〜

湊未来
恋愛
「ねぇ、本当に陰キャの童貞だって信じてたの?経験豊富なお姉さん………」 30歳の誕生日当日、彼氏に呼び出された先は高級ホテルのレストラン。胸を高鳴らせ向かった先で見たものは、可愛らしいワンピースを着た女と腕を組み、こちらを見据える彼の姿だった。 一方的に別れを告げられ、ヤケ酒目的で向かったBAR。 「ねぇ。酔っちゃったの……… ………ふふふ…貴方に酔っちゃったみたい」 一夜のアバンチュールの筈だった。 運命とは時に残酷で甘い……… 羊の皮を被った年下オオカミ君×三十路崖っぷち女の恋愛攻防戦。 覗いて行きませんか? ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ・R18の話には※をつけます。 ・女性が男性を襲うシーンが初回にあります。苦手な方はご注意を。 ・裏テーマは『クズ男愛に目覚める』です。年上の女性に振り回されながら、愛を自覚し、更生するクズ男をゆるっく書けたらいいなぁ〜と。

【R18】エリートビジネスマンの裏の顔

白波瀬 綾音
恋愛
御社のエース、危険人物すぎます​─​──​。 私、高瀬緋莉(27)は、思いを寄せていた業界最大手の同業他社勤務のエリート営業マン檜垣瑤太(30)に執着され、軟禁されてしまう。 同じチームの後輩、石橋蓮(25)が異変に気付くが…… この生活に果たして救いはあるのか。 ※サムネにAI生成画像を使用しています

若妻シリーズ

笹椰かな
恋愛
とある事情により中年男性・飛龍(ひりゅう)の妻となった18歳の愛実(めぐみ)。 気の進まない結婚だったが、優しく接してくれる夫に愛実の気持ちは傾いていく。これはそんな二人の夜(または昼)の営みの話。 乳首責め/クリ責め/潮吹き ※表紙の作成/かんたん表紙メーカー様 ※使用画像/SplitShire様

【R18】鬼上司は今日も私に甘くない

白波瀬 綾音
恋愛
見た目も中身も怖くて、仕事にストイックなハイスペ上司、高濱暁人(35)の右腕として働く私、鈴木梨沙(28)。接待で終電を逃した日から秘密の関係が始まる───。 逆ハーレムのチームで刺激的な日々を過ごすオフィスラブストーリー 法人営業部メンバー 鈴木梨沙:28歳 高濱暁人:35歳、法人営業部部長 相良くん:25歳、唯一の年下くん 久野さん:29歳、一個上の優しい先輩 藍沢さん:31歳、チーフ 武田さん:36歳、課長 加藤さん:30歳、法人営業部事務

処理中です...