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第十一部・スペイン 編

プライベートジェットのベッドで ☆

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 会議室に残っていた河野は、窓の外を眺めて頬杖をついていた。

(まさかロンドンでの事を言う訳にもいかないしな。強いショックを受けた赤松さんが、無意識に忘れているのは仕方がない。覚えていなくてもフラッシュバックを起こす可能性は十分にある。彼女と社長、二人の安定を考えていかなくては)

 河野とてロンドンの事件を目の当たりにして、香澄に「働け」と言うつもりはない。
 へたをすれば働くどころではなく、精神を病んであとにも影響を及ぼす可能性もあった。

 幸いにも香澄は、自力で立つ気力を持っている。

 皮肉な事に、彼女が元彼によって自己肯定感を地に叩き落とされた出来事が、「これ以上悪い事なんてない」という底力を生んでいた。

 それでも、今の彼女は十分に傷付いている。

 河野としても休ませてあげたい。

 だが佑は香澄が側にいないと、調子が出ない仕様になっている。

 会社のためにも、二人には心身共に健康でいてもらわなくては困る。

(今後、赤松さんをきちんと守るために、松井さんや護衛の方々とも相談しておくか……)

 もう一度息をつき、河野は立ち上がった。



**



 新千歳空港からバルセロナまでは、約十五時間半かかる。

 夕食をとって洗面所で歯磨きをすると、佑と香澄はベッドルームに向かった。

「……私たちだけベッドでいいのかな?」

 女子に人気のプリン・パルフェのルームウェアを着た香澄は、もこもことした手触りを手で確かめつつ佑の顔色を窺う。
 二人が着ているルームウェアは、あらかじめ飛行機内のクローゼットに用意されてあった。他にも下着やバスタオルなど、必要な物は揃っている。

「この飛行機の所有者は俺だし。前方の席もフルフラットになるし、ファーストクラスと遜色ない自負はある。随分楽贅沢な旅だと思っているよ」

「そっ……か。そうだよね。私、エコノミー乗ったの……二年前ぐらいかな? 比べたら確かにこの飛行機はずっと贅沢だよね。何か、感覚おかしくなっちゃった」

 感覚的に、同じ五つ星ホテルに宿泊しているのに、「スイートルームでなくていいのかな?」と言っているようなものだ。

 香澄は当然のように、エコノミークラスで旅行をしていた。
 麻衣と一緒にベトナムのホーチミンに行き、フォーを好きなだけ食べたのはいい思い出だ。

 新千歳からホーチミンまでは八時間半ぐらいだったが、座ったまま長時間過ごすのは少しつらかった。

 エコノミークラス症候群がどうの……という話を聞いていると、少し不安になった。
 なので飛行機に乗っていた時は、思いだしたら足首を動かしてふくらはぎの血液のポンプを動かすようにしていた。

 それに比べ佑の飛行機は、前方部分にある普通のシートはゆったりしていて、彼が言うとおりファーストクラスと遜色ない機能が備わっている。

 勿論フルフラットになるし、プライバシーが守られるように仕切りがある。
 佑と同じ食事をとれるので、食事も食器で提供され、飲み物もおつまみも一流の物が提供される。

 自分たちがベッドで寝るとはいえ、河野たちを「窮屈じゃないかな?」と気遣う事は、オーナーである佑を侮辱する事になる。

 彼はこの飛行機で、他社の経営者や海外の貴賓など、あらゆる人をもてなしている。
 誰が搭乗しても十分すぎるサービスを受けられるようになっているので、心配する必要はないのだ。

 佑と二人で寝てもまだ余裕があり、嬉しくなった香澄は布団の中でゴロゴロしてから、佑に抱きついた。

 佑は香澄の頭を優しく撫で、ちゅ、と額にキスをくれる。

 そのあと後頭部や背中を撫でた手が、スル……と下に移動してお尻に至った。

「!」

 ピクッと反応した香澄は、薄闇の中で目を見開く。

 ドアがあるとは言え、同じ飛行機の中に河野や護衛、運転手たちがいる。
「そんな中で……?」と思ったのだ。

 だが佑はうっすら微笑み、香澄の丸いお尻を撫で続ける。

「……ん……」

 落ち着かずモソモソと身じろぎする香澄に、佑がキスをしてくる。

「――ン?」

 はむ、と唇をついばまれたかと思うと、佑が覆い被さってくる。

「んむ、……んぅ、んー」

 トントンと佑の背中を叩いて「駄目」と訴えるが、言う事を聞いてくれない。
 やめるどころか唇のあわいをペロリと舐められ、腰に震えが走る。

 ゴオオオ……と絶え間なくエンジンの音が聞こえるなか、香澄のくぐもった声が聞こえては途切れる。
 上等な羽根布団がモソモソと蠢き、ベッドルームは艶やかな雰囲気を発していた。

 枕元に逃げた香澄の手が、大きな手に捕らえられる。

 ギュッと握り込まれ、指と指が絡み合う。

 香澄の手はしばらく抵抗していたが、力強く握られ手の甲を指先でスリスリと撫でられて、そのうち大人しくなっていった。
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