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第十一部・スペイン 編
第十一部・序章1 河野の説教
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翌日ルカに挨拶をしてニセコを発った香澄は、佑と車に乗った。
札幌に一度寄ってランチと買い物をしてから、新千歳空港へ向かうルートだ。
佑が用意した荷物の中には、十分すぎる化粧品がある。
ジョン・アルクールのコロンやボディクリーム、ボディソープ、シャボンのボディスクラブなど、香澄が好んで使う物はすべて揃っていた。
(相変わらず甘やかされてるなぁ)
久しぶりの感覚を味わいつつ、香澄は車内からスマホで母に連絡をする。
『ニセコで佑さんと合流しました。これからスペインに出張なので同行します。そのあとフランスやイタリアも寄るようです。帰国したらお土産を送るね』
栄子からは『気を付けていってらっしゃい。お土産はいいから気をつける事』とあった。
麻衣にもメッセージを送ると、『お土産楽しみにしてる!』と素直な返事があったので、香澄は張り切ってスマホでオススメお土産を検索した。
新千歳空港から佑のプライベートジェットに乗り、高度が安定すると休憩時間になる。
客室乗務員が飲み物のサービスを始め、香澄は佑と一緒にソファに座り、映画を楽しもうとする。
その時、河野が来て「少しお説教をしても宜しいですか?」と尋ねてきた。
(う……)
きっと佑がやつれていた事だと察し、香澄は素直に頷く。
「はい、お聞きします」
「香澄、いい。河野も余計な気を回さないでくれ」
佑が香澄の手を引くが、秘書として聞かなければいけない。
「今回の事は私が言い出しました。ご迷惑をお掛けした分、河野さんの言葉をきちんと聞きたいです」
真摯に訴えると、佑は少しためらったあと溜め息をついた。
「河野、あまり言い過ぎるな。香澄は落ち込みやすい」
「承知しております。では赤松さん、会議室に移りましょう」
「はい」
頷いた香澄は、河野と一緒に会議室へ向かった。
会議室に着くと、「適当に座ってください」と言われる。
河野から二席ほど離れた場所に座ると、彼は少し間を置いたあと口を開いた。
「社長は赤松さんがいないと、ポンコツになります」
「えっ」
あの御劔佑をしてポンコツと言われ、香澄は耳を疑う。
「誇張はしていません。通常業務はちゃんとこなしてくださいますが、赤松さんがいない後半、ご自宅でろくな休み方をされていませんでした」
「ど、どういう……?」
恐る恐る尋ねると、河野は声のトーンを変えず淡々と告げる。
「前日帰宅された姿のまま、着替えもせず床に転がっていらっしゃいました」
「え…………」
信じられない事を言われ、香澄は想像しようとして……できなかった。
「着替えずに床で寝ていたという事ですか?」
「はい。斎藤さんが作られた食事も、ほぼ手をつけていません。『何か食べるように言ってくれないか』と泣きつかれましたが、私と松井さんがどれだけ言っても召し上がりませんでした」
佑の闇を見たような気がし、香澄の背に冷や汗が伝う。
「赤松さんさえいればこうなりません。社長はあなたが生きがいで、あなたさえ目の前でニコニコしていれば、きちんと食べて寝て、健康にも気を遣い、仕事も精力的にこなしてくださいます」
「……すみません……」
手を膝の上に揃えて謝ると、河野の溜め息が聞こえる。
そろりと顔を上げると、彼は窓の外を見て何か考えていた。
「別に赤松さんを責めたい訳ではありません。説教のつもりですが、あなた一人に責任があり、あなたに改善を求める……というのもまた違います」
「はい」
河野は組んだ手をテーブルの上に置き、言葉を探している。
札幌に一度寄ってランチと買い物をしてから、新千歳空港へ向かうルートだ。
佑が用意した荷物の中には、十分すぎる化粧品がある。
ジョン・アルクールのコロンやボディクリーム、ボディソープ、シャボンのボディスクラブなど、香澄が好んで使う物はすべて揃っていた。
(相変わらず甘やかされてるなぁ)
久しぶりの感覚を味わいつつ、香澄は車内からスマホで母に連絡をする。
『ニセコで佑さんと合流しました。これからスペインに出張なので同行します。そのあとフランスやイタリアも寄るようです。帰国したらお土産を送るね』
栄子からは『気を付けていってらっしゃい。お土産はいいから気をつける事』とあった。
麻衣にもメッセージを送ると、『お土産楽しみにしてる!』と素直な返事があったので、香澄は張り切ってスマホでオススメお土産を検索した。
新千歳空港から佑のプライベートジェットに乗り、高度が安定すると休憩時間になる。
客室乗務員が飲み物のサービスを始め、香澄は佑と一緒にソファに座り、映画を楽しもうとする。
その時、河野が来て「少しお説教をしても宜しいですか?」と尋ねてきた。
(う……)
きっと佑がやつれていた事だと察し、香澄は素直に頷く。
「はい、お聞きします」
「香澄、いい。河野も余計な気を回さないでくれ」
佑が香澄の手を引くが、秘書として聞かなければいけない。
「今回の事は私が言い出しました。ご迷惑をお掛けした分、河野さんの言葉をきちんと聞きたいです」
真摯に訴えると、佑は少しためらったあと溜め息をついた。
「河野、あまり言い過ぎるな。香澄は落ち込みやすい」
「承知しております。では赤松さん、会議室に移りましょう」
「はい」
頷いた香澄は、河野と一緒に会議室へ向かった。
会議室に着くと、「適当に座ってください」と言われる。
河野から二席ほど離れた場所に座ると、彼は少し間を置いたあと口を開いた。
「社長は赤松さんがいないと、ポンコツになります」
「えっ」
あの御劔佑をしてポンコツと言われ、香澄は耳を疑う。
「誇張はしていません。通常業務はちゃんとこなしてくださいますが、赤松さんがいない後半、ご自宅でろくな休み方をされていませんでした」
「ど、どういう……?」
恐る恐る尋ねると、河野は声のトーンを変えず淡々と告げる。
「前日帰宅された姿のまま、着替えもせず床に転がっていらっしゃいました」
「え…………」
信じられない事を言われ、香澄は想像しようとして……できなかった。
「着替えずに床で寝ていたという事ですか?」
「はい。斎藤さんが作られた食事も、ほぼ手をつけていません。『何か食べるように言ってくれないか』と泣きつかれましたが、私と松井さんがどれだけ言っても召し上がりませんでした」
佑の闇を見たような気がし、香澄の背に冷や汗が伝う。
「赤松さんさえいればこうなりません。社長はあなたが生きがいで、あなたさえ目の前でニコニコしていれば、きちんと食べて寝て、健康にも気を遣い、仕事も精力的にこなしてくださいます」
「……すみません……」
手を膝の上に揃えて謝ると、河野の溜め息が聞こえる。
そろりと顔を上げると、彼は窓の外を見て何か考えていた。
「別に赤松さんを責めたい訳ではありません。説教のつもりですが、あなた一人に責任があり、あなたに改善を求める……というのもまた違います」
「はい」
河野は組んだ手をテーブルの上に置き、言葉を探している。
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