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第十部・ニセコ 編

敵陣へ ☆

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「ぁ……、…………あ、……う」

 弱々しい香澄の呻き声が聞こえる。

 窓ガラスの外の景色は、夕方から夜へと変化し、またうっすらと明るくなりつつある。

 体液で濡れたシーツの上で、香澄は背中を丸め、土下座のような格好をしていた。

 アスリートのようにおびただしい汗を流している佑も、動きが緩慢になっている。
 髪は汗でびしょ濡れになり、前髪から雫が滴っていた。

佑はたんったんっと香澄のお尻に腰を打ち付け、少しでも彼女を感じさせようと、腫れ上がった淫芽を指先でくすぐる。

 二人の結合部は、蜜と大量の精液で泥濘んでいた。

「ぁ――――、あぁあっ」

 肺の底から、空気ごと吐き出すような掠れ声で、香澄は最後の絶頂を迎えた。

 ビクビクッと体が玩具のように震え、――香澄は長時間にわたる荒淫に耐えられず、気絶すると同時に失禁してしまった。

 だが恥じらう余裕もなく、その意識はどっぷりと深い闇の中に落ちてゆく。

 佑は最後に精子すら残っていないような薄い精液を吐き出し、繋がったまましばらくゼェゼェと呼吸を整えていた。



 窓の外に見える羊蹄山は斜面に朝日を浴び、金色、あるいは茜色に山肌を染めようとしていた。



**



 香澄を抱き潰したあと、佑は彼女を抱き上げて風呂場に向かい、管理人にあらかじめ用意させておいた湯に浸かった。

 頭の中は疲労と寝不足で真っ白で、三十二歳になっての徹夜は堪える。
 それでも久しぶりに香澄を味わいつくし、気力は満ちていた。

 ぐったりとしたままの香澄を抱きかかえ、しっかり温まらせる。
 それから彼女の体と髪を献身的に洗い、自分も手早く洗った。

 香澄を河野に買わせた化粧品で整え、ネクタリンのボディクリームを塗り込んで、佑の頭はようやく動き出した。

 バスローブを着せた香澄を床暖房がきいた床の上に座らせ、自分も身支度を調える。

「……さすがに疲れた」

 佑はひとまず香澄をリビングのソファに寝かせ、キッチンで水を二杯飲む。
 ぐっと目の奥に力を込めると、香澄を抱き上げて今まで使っていたのとは別の寝室に連れていった。

 乾いた寝床に香澄を寝かせてから、彼女の匂いを好きなだけ嗅ぐ。

「……ああ、これだ。……この香り……」

 サラリとした髪をかき分けると、昨晩自分が強く噛みついた痕が残っている。
 それを見て、彼は病んだ笑みを浮かべた。

 一通り満足すると、香澄にしっかり羽根布団を被せて枕元にメモを残し、今まで使っていた寝室に向かった。
 シーツやベッドカバーなどを剥がして洗濯機を回し、あとは定期的に入っている清掃業者に任せる事にした。

 佑が所有している各地の別荘には、二人の服がクローゼットに収納されてある。

 各地にいるコーディネーターが現地でいいアイテムを見つけたら、二人のサイズに合った物を買ってもらうようにしている。
 購入前にきちんとオンラインでチェックしているので、どこに行っても気に入りの服を着る事ができた。

 佑は薄いグレーのロングTシャツを着て、ウォッシュデニムを穿く。

 キッチンを覗くと一通り材料は揃っているので、ゆで卵を作ってみじん切りにし、塩と胡椒とマヨネーズで和える。
 ハムと溶けるチーズと一緒に食パンに挟み、ホットサンドを作った。

 随分久しぶりに自分で作って食べる気持ちになり、疲れていながらも佑の気力は満ちている。

 香澄の分も作って焼く前の状態を皿に置いてラップをかけ、その隣にホットサンドメーカーを置く。
 その横に『いない間に起きたら、焼いて食べること』と書いたメモを置いた。

 オレンジジュースを一杯飲み干すと歯を磨き、黒いジャケットを羽織り、キャメルのチェスターコートを着る。
 最後に質のいい濃紺のマフラーを巻いた。

 荒れ狂ったものは一通り発散させたが、やさぐれた気持ちは治っていない。

 佑は溜息をついてから別荘を出た。





 車を運転して向かったのは、香澄を寝取ったルカという男の別荘だ。

 豪邸に住む彼は、ある程度の財力を持っているのだろう。
 もしかしたら、自分や祖父の知り合いの延長上にいる人物かもしれない。

 だがそれとこれとは別だ。

 厳しい顔のまま佑は玄関前に立ち、チャイムを鳴らした。
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