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第十部・ニセコ 編
ニセコ到着
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札幌からニセコへは、JRを使うと小樽側になる。
車では旧国道五号線を西へ行けば……と思いがちだが、内陸部を通ってショートカットすると早く行ける。
札幌市の南区にある定山渓から豊平峡ダムのある山道を通り、あげいも、いももちで有名な中山峠で小休憩する。
峠を下ってしまえば喜茂別町、真狩村を通りニセコ町だ
そこから比羅夫方面に行くと、秋成のペンション『レッドパイン』がある。
ペンション前に着いたのは、お昼過ぎだ。
「いやぁ、いいドライブルートでしたね! 紅葉も綺麗な時期だし楽しかったです!」
瀬尾が笑顔を見せる。
佑は強張った顔でペンションを見ていた。
「告白する前の中学生みたいですね」
呉代の軽口に久住が笑いを堪える。
佐野は大自然を眺めて、癒やされた表情をしていた。
呉代と久住の笑いを、小山内が「んんっ」と咳払いをして収め、佑に声を掛けた。
「社長、行ってらっしゃいませ。我々はここで待機させて頂きます」
「……ああ」
佑は鳥の囀りしか聞こえない静けさに耳を澄ませる。
(こんなに自然に囲まれた場所なら、たっぷりリフレッシュできたろうな)
佑は腐葉土の上に溜まった落ち葉をカサカサと踏みしめ、ゆっくりペンションに向かう。
玄関の前の階段まで差し掛かった時、ドアが開いて若い男女が出てきた。
「だからもー、和也さんは意地悪だなぁ」
「うるさいな。ホラ、さっさと……」
二人はそこまで会話したあと、佑を見て固まった。
「いらっしゃいま……」
女の子と言える外見の女性が、そこまで言って言葉を呑む。
たっぷり数秒経って、彼女は叫んだ。
「うそぉ! 御劔佑!?」
若い男性は、これ以上ないほど目を見開いて固まっている。
「すみません。ペンションの方ですか? 秋成さんというオーナーさんはいらっしゃいますか?」
「……お、お待ちください」
激しく動揺した女性が、会釈をして中に駆け込んでいく。
秋成には崇から「これから御劔さんが向かう」と連絡されているはずた。
なので直接香澄を呼ぶより、まずオーナーと話して挨拶をすべきと判断した。
いきなり香澄を呼ぶのは心臓に悪い。
一か月近く時間が空いて、少し弱気になっているのは否めない。
空腹の胃に刺激のある物を入れると毒になるように、佑はすぐ香澄に会うのを本能的に避けた。
佑は女性がペンションの中に入ったのを見送ったあと、ゆっくり階段を上がっていく。
「……本当に、あの御劔佑さんですか?」
ドア前に立ったままの青年が、強張った表情で尋ねてくる。
「Chief Everyの社長という意味でなら、その通りです。必要なら名刺をお渡ししますが」
そう言って佑は名刺を出そうとしたが、驚くほど拒絶された。
「いいです!」
初対面にしては過剰な反応を見せられたが、今まで〝色んな人〟に会ってきたので、さほど驚かない。
その時ドアが開いて、秋成が現れた。
「御劔さん、こんにちは。はるばるようこそ。香澄ちゃんは元気ですよ」
秋成が手を差し出したので、佑はにっこり笑って握手に応じる。
「立派なペンションですね。とても素敵です」
「ありがとうございます」
後ろに立っていた先ほどの女性は、香澄の名前が出た時に表情を強張らせた――ように見えた。
「ひとまず中へどうぞ。空いている部屋がありますので、そちらで寛いでください。今ちょっと野暮用がありまして。すぐ済ませますので、それまでお茶を飲んでいてください」
「分かりました。ご丁寧にどうも。……香澄はどこにいますか?」
佑が彼女をそう呼んだ瞬間、若い二人の雰囲気がピリッと緊張した。
佑は人が放つ雰囲気や、表情の変化に気付きやすい。
(この二人、香澄と何かあったのか? いや、婚約者が俺だから驚いている?)
考えようとしたが、今は香澄の話をしているのでひとまずそちらに集中する事にした。
「香澄ちゃんはいまちょっと外しているんです。その……野暮用というか、あとでちゃんと説明します」
「分かりました。待たせて頂きます」
「じゃあ、僕は急いで用事を済ませてきます。真奈美ちゃん、御劔さんを〝スズラン〟にお通しして、コーヒーをお出しして」
「はい!」
真奈美と呼ばれた小柄な女性は、「どうぞ」と微笑んで佑をペンションの中に案内した。
車では旧国道五号線を西へ行けば……と思いがちだが、内陸部を通ってショートカットすると早く行ける。
札幌市の南区にある定山渓から豊平峡ダムのある山道を通り、あげいも、いももちで有名な中山峠で小休憩する。
峠を下ってしまえば喜茂別町、真狩村を通りニセコ町だ
そこから比羅夫方面に行くと、秋成のペンション『レッドパイン』がある。
ペンション前に着いたのは、お昼過ぎだ。
「いやぁ、いいドライブルートでしたね! 紅葉も綺麗な時期だし楽しかったです!」
瀬尾が笑顔を見せる。
佑は強張った顔でペンションを見ていた。
「告白する前の中学生みたいですね」
呉代の軽口に久住が笑いを堪える。
佐野は大自然を眺めて、癒やされた表情をしていた。
呉代と久住の笑いを、小山内が「んんっ」と咳払いをして収め、佑に声を掛けた。
「社長、行ってらっしゃいませ。我々はここで待機させて頂きます」
「……ああ」
佑は鳥の囀りしか聞こえない静けさに耳を澄ませる。
(こんなに自然に囲まれた場所なら、たっぷりリフレッシュできたろうな)
佑は腐葉土の上に溜まった落ち葉をカサカサと踏みしめ、ゆっくりペンションに向かう。
玄関の前の階段まで差し掛かった時、ドアが開いて若い男女が出てきた。
「だからもー、和也さんは意地悪だなぁ」
「うるさいな。ホラ、さっさと……」
二人はそこまで会話したあと、佑を見て固まった。
「いらっしゃいま……」
女の子と言える外見の女性が、そこまで言って言葉を呑む。
たっぷり数秒経って、彼女は叫んだ。
「うそぉ! 御劔佑!?」
若い男性は、これ以上ないほど目を見開いて固まっている。
「すみません。ペンションの方ですか? 秋成さんというオーナーさんはいらっしゃいますか?」
「……お、お待ちください」
激しく動揺した女性が、会釈をして中に駆け込んでいく。
秋成には崇から「これから御劔さんが向かう」と連絡されているはずた。
なので直接香澄を呼ぶより、まずオーナーと話して挨拶をすべきと判断した。
いきなり香澄を呼ぶのは心臓に悪い。
一か月近く時間が空いて、少し弱気になっているのは否めない。
空腹の胃に刺激のある物を入れると毒になるように、佑はすぐ香澄に会うのを本能的に避けた。
佑は女性がペンションの中に入ったのを見送ったあと、ゆっくり階段を上がっていく。
「……本当に、あの御劔佑さんですか?」
ドア前に立ったままの青年が、強張った表情で尋ねてくる。
「Chief Everyの社長という意味でなら、その通りです。必要なら名刺をお渡ししますが」
そう言って佑は名刺を出そうとしたが、驚くほど拒絶された。
「いいです!」
初対面にしては過剰な反応を見せられたが、今まで〝色んな人〟に会ってきたので、さほど驚かない。
その時ドアが開いて、秋成が現れた。
「御劔さん、こんにちは。はるばるようこそ。香澄ちゃんは元気ですよ」
秋成が手を差し出したので、佑はにっこり笑って握手に応じる。
「立派なペンションですね。とても素敵です」
「ありがとうございます」
後ろに立っていた先ほどの女性は、香澄の名前が出た時に表情を強張らせた――ように見えた。
「ひとまず中へどうぞ。空いている部屋がありますので、そちらで寛いでください。今ちょっと野暮用がありまして。すぐ済ませますので、それまでお茶を飲んでいてください」
「分かりました。ご丁寧にどうも。……香澄はどこにいますか?」
佑が彼女をそう呼んだ瞬間、若い二人の雰囲気がピリッと緊張した。
佑は人が放つ雰囲気や、表情の変化に気付きやすい。
(この二人、香澄と何かあったのか? いや、婚約者が俺だから驚いている?)
考えようとしたが、今は香澄の話をしているのでひとまずそちらに集中する事にした。
「香澄ちゃんはいまちょっと外しているんです。その……野暮用というか、あとでちゃんと説明します」
「分かりました。待たせて頂きます」
「じゃあ、僕は急いで用事を済ませてきます。真奈美ちゃん、御劔さんを〝スズラン〟にお通しして、コーヒーをお出しして」
「はい!」
真奈美と呼ばれた小柄な女性は、「どうぞ」と微笑んで佑をペンションの中に案内した。
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