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第十部・ニセコ 編
食事作りの提案
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「……香澄さんはいいんですか」
和也に尋ねられ、ハッと我に返った香澄は、取るべき行動を確認する。
「今日の仕事はきちんとします。ルカさんがアクアパッツァを食べたい……と言っているのも夕食の事でしょうから、それまでにやる事はやって、ご迷惑はかけません」
それなら問題ないだろうと思って言ったのだが、和也はまた文句をつけてくる。
「忙しいのに会ったばかりの男に飯を作るんですか? 腰が軽いですね」
〝腰が軽い〟の意味は合っているのだが、何となく込められている感情を察して暗い気持ちになってしまう。
「……そういう問題じゃなくて……。彼、このままじゃあ栄養が偏るでしょう」
ルカの買い物籠には、カップ麺やインスタントラーメンが山盛りに入っていた。
せっかく食べ物の美味しい北海道にいるというのに、その食生活はお節介ながらも気になってしまう。
佑も双子も料理ができる富豪だが、世の中には家事ができない富豪がいてもおかしくない。
むしろ裕福な育ちなら使用人がいて当たり前なので、できない可能性の方が高い。
このまま和也と話していても埒があかないと思った香澄は、スマホを取り出した。
「私からオーナーに電話をします」
そう言ってさっさと秋成の連絡先を出し、スマホを耳に宛がう。
『もしもし、香澄ちゃん? どうかした?』
「あ、秋成おじさん? いまスーパーなんですが、以前に言っていた豪邸の方と出会いまして。どうやら家事に困っているようなので、今日仕事を終えてから夕食を作りに行っていいですか? やる事を終えたらすぐ戻りますから」
事情を話すと、彼は半分納得した声を出す。
『あぁー……。いいけど、初対面なのに大丈夫かい?』
「はい。この手の人には免疫がありますし、きっと大丈夫です。それよりインスタント物ばっかり食べているみたいなので、そっちの方が心配になっちゃって……」
『確かにそれは心配だな』
秋成が電話の向こうで笑った時、ルカがトントンと香澄の肩をつついてきた。
『この買い物が終わったら、僕が直接レッドパインのオーナーに挨拶に行くよ』
そう言われ、香澄は秋成にその旨を伝える。
『ずっと気になっていた豪邸の主と話せるのは嬉しいな。こっちもコーヒーぐらいは出せるから、気軽に遊びに来てくださいと伝えておいてくれ』
「はい」
電話を切って秋成が概ねOKを出したと伝えると、ルカはパッと表情を明るくする。
『ルカさん、万が一の食料も大事ですが、今晩アクアパッツァが食べたいのなら、その材料も買っておきましょうか』
『分かった! カスミ、幾らかかってもいいから、必要な材料をカゴに入れてくれる?』
喜び勇むルカに笑い返し、香澄は和也に会釈をした。
「必要な物を揃えたらすぐ戻りますから、買い物が終わったら入り口で待っていて頂けますか?」
「……ああ」
和也は最後にルカを睨み、カートを押して去っていく。
彼から不穏な空気を感じて気が重たくなったが、香澄はとりあえず買い物を済ませる事にした。
『じゃあ、材料を入れていきましょうか。アクアパッツァの他に食べたい物はありますか?』
『作ってくれるなら、リゾットとスープも! あ~、でもパスタも食べたいな』
挙げるメニューがさすがイタリア人だ。
『お口に合うか分かりませんが、作れそうなメニューで考えますね』
アクアパッツァのベースとなる魚は何がいいかルカに尋ね、他の材料も籠に入れていく。
彼は香澄の隣をプラプラ歩きながら、ご機嫌だ。
『嬉しいな。ここで女の子と買い物をできるなんて』
『いつからニセコにいらしたんですか?』
『ん~、この別荘を買ったのは今年の春なんだ。それから今年のバカンスは何がなんでもここで過ごすぞって思ってね。夏に妹がロンドンで産気づいたから、姪っ子の誕生を見届けて、少し仕事をしてから日本に来たんだ』
『そうなんですね。妹さん、無事にお子さん出産できて良かったです』
『ああ、可愛い子だったよ。二人目だから妹も慣れた感じだったけどね。上の子は男の子なんだけど、あの子がお兄ちゃんになったんだと思うと不思議な感じだな』
香澄は自分の子供はいないが、従姉妹の子がいるのでルカの気持ちは分かる気がした。
店内を回って食材を集めたあと、レジではルカがカードで支払う。
(……やっぱりこのレベルの人は、カードでスッ……なんだなぁ)
和也を探すと、サッカー台で商品をエコバッグに詰めていたので慌てて手伝いにいった。
「ごめんなさい。手伝います」
「……いえ」
不機嫌なのを隠そうとしない彼は口数少なく返事をし、黙々と食品をエコバッグに詰めている。
(性格がハッキリしていて機嫌を取るのが大変っていうか、気を遣うなぁ)
隣のサッカー台では、ルカがご機嫌に口笛を吹いているのが聞こえてきた。
和也に尋ねられ、ハッと我に返った香澄は、取るべき行動を確認する。
「今日の仕事はきちんとします。ルカさんがアクアパッツァを食べたい……と言っているのも夕食の事でしょうから、それまでにやる事はやって、ご迷惑はかけません」
それなら問題ないだろうと思って言ったのだが、和也はまた文句をつけてくる。
「忙しいのに会ったばかりの男に飯を作るんですか? 腰が軽いですね」
〝腰が軽い〟の意味は合っているのだが、何となく込められている感情を察して暗い気持ちになってしまう。
「……そういう問題じゃなくて……。彼、このままじゃあ栄養が偏るでしょう」
ルカの買い物籠には、カップ麺やインスタントラーメンが山盛りに入っていた。
せっかく食べ物の美味しい北海道にいるというのに、その食生活はお節介ながらも気になってしまう。
佑も双子も料理ができる富豪だが、世の中には家事ができない富豪がいてもおかしくない。
むしろ裕福な育ちなら使用人がいて当たり前なので、できない可能性の方が高い。
このまま和也と話していても埒があかないと思った香澄は、スマホを取り出した。
「私からオーナーに電話をします」
そう言ってさっさと秋成の連絡先を出し、スマホを耳に宛がう。
『もしもし、香澄ちゃん? どうかした?』
「あ、秋成おじさん? いまスーパーなんですが、以前に言っていた豪邸の方と出会いまして。どうやら家事に困っているようなので、今日仕事を終えてから夕食を作りに行っていいですか? やる事を終えたらすぐ戻りますから」
事情を話すと、彼は半分納得した声を出す。
『あぁー……。いいけど、初対面なのに大丈夫かい?』
「はい。この手の人には免疫がありますし、きっと大丈夫です。それよりインスタント物ばっかり食べているみたいなので、そっちの方が心配になっちゃって……」
『確かにそれは心配だな』
秋成が電話の向こうで笑った時、ルカがトントンと香澄の肩をつついてきた。
『この買い物が終わったら、僕が直接レッドパインのオーナーに挨拶に行くよ』
そう言われ、香澄は秋成にその旨を伝える。
『ずっと気になっていた豪邸の主と話せるのは嬉しいな。こっちもコーヒーぐらいは出せるから、気軽に遊びに来てくださいと伝えておいてくれ』
「はい」
電話を切って秋成が概ねOKを出したと伝えると、ルカはパッと表情を明るくする。
『ルカさん、万が一の食料も大事ですが、今晩アクアパッツァが食べたいのなら、その材料も買っておきましょうか』
『分かった! カスミ、幾らかかってもいいから、必要な材料をカゴに入れてくれる?』
喜び勇むルカに笑い返し、香澄は和也に会釈をした。
「必要な物を揃えたらすぐ戻りますから、買い物が終わったら入り口で待っていて頂けますか?」
「……ああ」
和也は最後にルカを睨み、カートを押して去っていく。
彼から不穏な空気を感じて気が重たくなったが、香澄はとりあえず買い物を済ませる事にした。
『じゃあ、材料を入れていきましょうか。アクアパッツァの他に食べたい物はありますか?』
『作ってくれるなら、リゾットとスープも! あ~、でもパスタも食べたいな』
挙げるメニューがさすがイタリア人だ。
『お口に合うか分かりませんが、作れそうなメニューで考えますね』
アクアパッツァのベースとなる魚は何がいいかルカに尋ね、他の材料も籠に入れていく。
彼は香澄の隣をプラプラ歩きながら、ご機嫌だ。
『嬉しいな。ここで女の子と買い物をできるなんて』
『いつからニセコにいらしたんですか?』
『ん~、この別荘を買ったのは今年の春なんだ。それから今年のバカンスは何がなんでもここで過ごすぞって思ってね。夏に妹がロンドンで産気づいたから、姪っ子の誕生を見届けて、少し仕事をしてから日本に来たんだ』
『そうなんですね。妹さん、無事にお子さん出産できて良かったです』
『ああ、可愛い子だったよ。二人目だから妹も慣れた感じだったけどね。上の子は男の子なんだけど、あの子がお兄ちゃんになったんだと思うと不思議な感じだな』
香澄は自分の子供はいないが、従姉妹の子がいるのでルカの気持ちは分かる気がした。
店内を回って食材を集めたあと、レジではルカがカードで支払う。
(……やっぱりこのレベルの人は、カードでスッ……なんだなぁ)
和也を探すと、サッカー台で商品をエコバッグに詰めていたので慌てて手伝いにいった。
「ごめんなさい。手伝います」
「……いえ」
不機嫌なのを隠そうとしない彼は口数少なく返事をし、黙々と食品をエコバッグに詰めている。
(性格がハッキリしていて機嫌を取るのが大変っていうか、気を遣うなぁ)
隣のサッカー台では、ルカがご機嫌に口笛を吹いているのが聞こえてきた。
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