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第十部・ニセコ 編

薪割りの手伝い

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 それから部屋を出て鍵を掛け、また廊下を歩く。

「今はお客様は出払って観光やアクティビティ楽しんでいらっしゃるんですが、夕方になるとぼちぼち戻ってこられます。食堂も十七時からディナータイムの始まりです。あ、ランチは十一時から十四時までになります。お部屋の掃除は午前中にやっちゃいます。午後は他の場所の掃除。二人セットでやるので、残り一人は母屋担当や他の事をやるようになってます」

「はい」

 香澄はハキハキと返事をする。

「大体こんな感じかな? あとは明日以降、実践で教えますね。私はこれから奥さんの手伝いをしますが、香澄さんはどうしますか?」

「オーナーに和也さんの手伝いをと言われたので、表に行ってきます」
「分かりました!」

 それから一階に下りると、玄関から背の高い男性が重たそうな買い物袋を下げて入ってくるところだった。

「秋山さん! こちら、今日から一か月一緒になる赤松香澄さんです。可愛いでしょ!」

 真奈美が元気よく紹介してくれ、香澄は「赤松です、宜しくお願いします」と頭を下げた。

 日に焼けた秋山は白いTシャツにダウンのベスト、ジーンズを穿いている。
 彼は香澄を少しの間見つめていたが、やがて「宜しく」と言ってからキッチンへ食料を置きに行った。

 真奈美が香澄を見て小さく笑う。

「あんな感じでぶっきらぼうだけど、優しい人ですよ」
「分かりました」

 そのあと玄関前で別れようとした時、真奈美が香澄のパーカーを引っ張った。

「はい?」

 振り向くと、真奈美が何か含んだ笑みを浮かべて口元に手を当てている。
 内緒話だと察した香澄は、顔を寄せた。

「和也さん、格好いいけど、私のなので駄目ですよ」

 若さゆえの牽制をされ、香澄の胸の中にじんわりと甘酸っぱい気持ちが沸き起こる。

(付き合ってるんだなぁ。バイト先で芽生えた恋、いいねぇ)

 心の中で酔っ払ったおじさんのような事を言い、香澄はニコニコして彼女の肩をポンと叩いた。

「私は婚約者一筋だから、心配しないで。応援してるよ」

 小声で言い返すと、真奈美は嬉しそうに破顔した。





(若いっていいなぁ……)

 表に出ると、まだ和也は薪を切っていた。

「お手伝いします!」

 香澄がまた声を張り上げると、和也が顔を上げてチェーンソーを止める。

「ありがとうございます。じゃあ、脇にある切った薪を、あっちに運んで積むの頼んでいいですか? ちょっとコツがいるんですが、なるべく隙間ができないようにやってほしいんです。軍手必須で、手に棘が刺さらないように気をつけてください」

「分かりました、頑張ります!」

 和也の横には、適当な長さに切られた薪がゴロゴロ転がっている。
 もとは結構な太さの幹だったようで、それを薪にしてしまうのが凄い。

 ペンションに戻って軍手を貸してもらい、香澄は薪を運び始める。

(あー、これ後から腰にくるやつかな。よし、体鍛えるぞ)

 屈んで拾って、運んで積んで。
 それを延々と繰り返し、和也が切っている伐採木も最後の一つになっている。

 やがて、香澄が手伝いだしてから一時間ほどして、和也は今日のノルマを終えた。

「お疲れ様です!」

 香澄も重たい薪を運び、汗だくになっている。
 ある種の爽快感を覚えつつ笑いかけると、和也がキャップとゴーグル、マスクを取り、快活に笑う。

「初日なのにこき使ってすみません。体痛くないです??」
「大丈夫です。この木のくずはどうしますか? 何かちりとりっぽい物でも……」

 辺りには木くずが飛び散り、一面クリーム色になっている。

「集めて別の袋に入れます。これ、油を含ませると焚きつけになるんですよ」
「焚きつけ?」

 聞き慣れない単語に、香澄は首を傾げる。

「火をおこすきっかけにする物です。ホームセンターでは専門の物がありますよ」
「なるほど」

 これも勉強、と思って香澄は頷く。

「薪ストーブの付け方を教わると思いますが、最初に細い枝や細い木を組んでから、油を含ませた木くずをスプーンで撒きます。それに火をつけて、最初は薪ストーブの戸を少し開けて空気を入れて燃え上がらせます。火が落ち着いてきたら大きい薪を入れて、時間が経って燃えてきたらまた足して……っていう感じです」

「ほう……!」

 未知の事に香澄は感心して頷く。
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