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第十部・ニセコ 編
もっと気さくに話してくださいね
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真奈美は二階の一番奥へ進み、看板に『Lily of the valley(鈴蘭)』と書かれた部屋に入る。
ちなみにもう一部屋のスイートはラベンダーだ。
入ってすぐ靴を脱ぎ、障子を開くと広々とした客室があった。
「わぁ……広い」
「でしょう?」
メインの部屋は十畳の居間と八畳の寝室が繋がっている造りだ。
客層は日本人よりも海外の人が多い想定をしているのか、座椅子ではなく、ソファとテーブルのセットになっている。
壁際にはお湯のポットやパウダーのコーヒー、紅茶、緑茶が完備され、ミニバーもある。
大きな液晶テレビは、有料でケーブルテレビも見られるようになっていた。
窓際には景色を見ながら談話を楽しめるよう、椅子が二脚に丸テーブルがある。
寝室にはチョコレート色のベッドカバーと光沢のあるフットスローが掛けられた、セミダブルのベッドが二つ置かれてあった。
寝室の壁にあるライトは花を思わせる形で、真奈美がパチッと照明をつけてみせると、温かなオレンジ色の光が点いた。
「こっちがトイレと浴室」
言われて入り口近くにある引き戸の奥を見ると、ゆったりとしたスペースの独立したトイレがあり、洗面所も大きな鏡と明るく暖かな雰囲気で開放的だ。
ガラス戸の向こうは窓から外の景色が楽しめる浴槽があり、洗い場も広い。
「豪華な部屋ですねぇ……」
呟いてから、思わず「この部屋に佑さんと泊まれたら……」と考え、ゆるりと首を左右に振る。
「でしょう? 素敵ですよね。奥さんがセンスのいい人なので、業者さんと話し合って徹底的にこだわったみたいです」
言われて、確かに昔からセンスが良かったと思い出す。
いいところのお嬢さんなのもあって、着ている物も素敵だったし、プレゼントや料理なども一ひねりされていた。
子供の頃から良い物に触れているので、成長と共にその感覚も研ぎ澄まされていったのだろう。
ぼんやりと客室に見とれていると、真奈美がクスクス笑った。
「なんだか香澄さんって年上っていう感じしませんね。綺麗だし、偉ぶったところがないし。あの、失礼ですけどおいくつですか? どう見ても二十三、四歳ぐらいにしか見えないんですが」
若く見られていると知り、香澄は赤面する。
「いや、いやいや。そんな……。私、二十七歳なんです。十一月で二十八歳になるんです。せっかく若く見てもらったのに、何かすみません……」
「ええーっ!?」
真奈美は一歩ズイッと香澄に近寄り、息がかかるほど顔を寄せてくる。
「お肌すべっすべ。触っていいです? わっ、ツルツル! 赤ちゃんみたいな肌してる。無駄毛もなくないです? わぁぁ……」
真奈美に顔をプニプニと押されたかと思うと、掌ですべすべと感触を確かめられる。
「ちょっと腕見せてください!」
なぜかやたらはりきった真奈美が、香澄の腕をとってパーカーの袖を捲り上げた。
「わっ」
「すっごぉ……。これって永久脱毛したんですか? 本当にすべっすべ……。それにいい匂いする……」
褒められれば褒められるほど、恥ずかしい。
こんな体になったのも、佑と暮らすようになってからなので、自分一人の意識改善ではない。
「香澄さん、婚約者さんがいるってオーナーが言ってたんですが、結婚はいつぐらいにするんですか?」
「あ……と」
どうやら真奈美は相手について聞かされていないようだ。
釘を刺す必要がある異性にだけ、ひっそりと伝えたのだろう。
「来年のジューンブライドを目標にしているんです」
「ジューンブライドかぁ。素敵~! あ、そうだ。香澄さんの方が年上なんだし、もっと気さくに話してくださいね」
「いやいや、そこはちゃんと線引きさせてもらいま……、するね?」
真奈美のつぶらな目に見つめられて圧を感じ、香澄は笑いながら口調を変える。
すると真奈美はニカッと笑う。
と、外から車の音が聞こえ、真奈美は窓から外を見て「秋山さんが戻ってきた!」と言う。
「秋山さんにも紹介しますね。秋山さんは三十七歳で既婚者なんです。パッと見怖いかもですが、黙々と仕事するタイプで、頼りになりますよ。怖い人のように見えて、何を言っても怒りません」
「オーナーからも以前、チラッと噂を聞きました。『頼りになる』って」
そう言うと、真奈美は身内を褒められたように嬉しそうに微笑む。
ちなみにもう一部屋のスイートはラベンダーだ。
入ってすぐ靴を脱ぎ、障子を開くと広々とした客室があった。
「わぁ……広い」
「でしょう?」
メインの部屋は十畳の居間と八畳の寝室が繋がっている造りだ。
客層は日本人よりも海外の人が多い想定をしているのか、座椅子ではなく、ソファとテーブルのセットになっている。
壁際にはお湯のポットやパウダーのコーヒー、紅茶、緑茶が完備され、ミニバーもある。
大きな液晶テレビは、有料でケーブルテレビも見られるようになっていた。
窓際には景色を見ながら談話を楽しめるよう、椅子が二脚に丸テーブルがある。
寝室にはチョコレート色のベッドカバーと光沢のあるフットスローが掛けられた、セミダブルのベッドが二つ置かれてあった。
寝室の壁にあるライトは花を思わせる形で、真奈美がパチッと照明をつけてみせると、温かなオレンジ色の光が点いた。
「こっちがトイレと浴室」
言われて入り口近くにある引き戸の奥を見ると、ゆったりとしたスペースの独立したトイレがあり、洗面所も大きな鏡と明るく暖かな雰囲気で開放的だ。
ガラス戸の向こうは窓から外の景色が楽しめる浴槽があり、洗い場も広い。
「豪華な部屋ですねぇ……」
呟いてから、思わず「この部屋に佑さんと泊まれたら……」と考え、ゆるりと首を左右に振る。
「でしょう? 素敵ですよね。奥さんがセンスのいい人なので、業者さんと話し合って徹底的にこだわったみたいです」
言われて、確かに昔からセンスが良かったと思い出す。
いいところのお嬢さんなのもあって、着ている物も素敵だったし、プレゼントや料理なども一ひねりされていた。
子供の頃から良い物に触れているので、成長と共にその感覚も研ぎ澄まされていったのだろう。
ぼんやりと客室に見とれていると、真奈美がクスクス笑った。
「なんだか香澄さんって年上っていう感じしませんね。綺麗だし、偉ぶったところがないし。あの、失礼ですけどおいくつですか? どう見ても二十三、四歳ぐらいにしか見えないんですが」
若く見られていると知り、香澄は赤面する。
「いや、いやいや。そんな……。私、二十七歳なんです。十一月で二十八歳になるんです。せっかく若く見てもらったのに、何かすみません……」
「ええーっ!?」
真奈美は一歩ズイッと香澄に近寄り、息がかかるほど顔を寄せてくる。
「お肌すべっすべ。触っていいです? わっ、ツルツル! 赤ちゃんみたいな肌してる。無駄毛もなくないです? わぁぁ……」
真奈美に顔をプニプニと押されたかと思うと、掌ですべすべと感触を確かめられる。
「ちょっと腕見せてください!」
なぜかやたらはりきった真奈美が、香澄の腕をとってパーカーの袖を捲り上げた。
「わっ」
「すっごぉ……。これって永久脱毛したんですか? 本当にすべっすべ……。それにいい匂いする……」
褒められれば褒められるほど、恥ずかしい。
こんな体になったのも、佑と暮らすようになってからなので、自分一人の意識改善ではない。
「香澄さん、婚約者さんがいるってオーナーが言ってたんですが、結婚はいつぐらいにするんですか?」
「あ……と」
どうやら真奈美は相手について聞かされていないようだ。
釘を刺す必要がある異性にだけ、ひっそりと伝えたのだろう。
「来年のジューンブライドを目標にしているんです」
「ジューンブライドかぁ。素敵~! あ、そうだ。香澄さんの方が年上なんだし、もっと気さくに話してくださいね」
「いやいや、そこはちゃんと線引きさせてもらいま……、するね?」
真奈美のつぶらな目に見つめられて圧を感じ、香澄は笑いながら口調を変える。
すると真奈美はニカッと笑う。
と、外から車の音が聞こえ、真奈美は窓から外を見て「秋山さんが戻ってきた!」と言う。
「秋山さんにも紹介しますね。秋山さんは三十七歳で既婚者なんです。パッと見怖いかもですが、黙々と仕事するタイプで、頼りになりますよ。怖い人のように見えて、何を言っても怒りません」
「オーナーからも以前、チラッと噂を聞きました。『頼りになる』って」
そう言うと、真奈美は身内を褒められたように嬉しそうに微笑む。
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