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第十部・ニセコ 編

母屋の案内

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「お邪魔します」

 ログハウスの母屋に入ると、普通の家と同じ造りで少し安心する。

 自宅近辺でもたまにログハウスの家を見るが、中はどうなっているのだろう? と興味を持っていた。
 もし母屋が特別な造りをしていたなら、最初の内は迷ってしまうかもしれないと思っていたが、何とかなりそうだ。

 それでも母屋の中に入った途端、木の香りがして感動する。
 どこを見ても木目があり、家の大事な枠組みには丸太が使われ内側でも向き出しになっていた。

「凄いね。木の匂いがするし、とっても綺麗」

 感動して呟くと、自慢の家を褒められて秋成がまんざらでもない笑みを浮かべる。

「木が乾燥したりする関係で、よく家鳴りがするけれど、それは気にしないで。別にオバケ的なものは何もいないから」

「あはは! 良かった!」

 玄関で靴を脱ぎ、リビングダイニング、キッチンを案内される。

「聡子は早朝に起きてペンションで朝食の仕込みをする。通いのアシスタントさんがいて、ペンションの調理場は大体回ってるから大丈夫。それでも、イモの皮むきとかそういうのは手が空いた時に手伝ってくれると助かるかな」

「分かりました」

「ローテーションで母屋の家事当番がある。食事、掃除、洗濯。他にも郵便や宅配の整理などの雑用もあるから、少しずつ慣れていってほしい」

「はい」

「こっちは洗面所。それで、風呂はボードを用意してあって、誰が入っているかマグネットで分かるようにしてある。誰かが入っている時は脱衣所に入らないのは絶対の約束。洗面所はそのために、脱衣所とは別になっているから、洗面や歯磨きは心配しないで。トイレもしっかり毎回施錠、必ずノック。トイレは一階と二階、両方にあるからね」

 一階をあらかた案内したあと、秋成はリビングで説明の続きをする。

「俺と和也くんは主に体力仕事をしている。さっきの薪割りは主に秋にやっていて、チェーンソーを使って危ないから、もし手伝ってくれるなら運ぶ方を頼むよ。他にも食料の買い出しや車でお客様の送迎もあるから、不在にする事もある。用事がある時は気を付けて」

「分かりました」

 秋成の説明が始まった時から、香澄はバッグからメモ帳を取り出してすべてメモしている。

「聡子は主に食事担当で、真奈美ちゃんにはお客様の案内や、客室の掃除を頼んでいる。全員専門ではなくて、手が空いた人は手伝いをして補い合っている。香澄ちゃんには、真奈美ちゃんと同じ立ち位置になってもらう」

「はい」

「あと、アルバイトじゃなくて長期雇用としてのアシスタントの秋山秀樹(あきやまひでき)くんもいる。彼はここ住まいじゃなくて地元からの通いだ」

「そうなんですね。あとからご挨拶します」

 こうやって注意事項を指導されると、働けるのだと思ってワクワクし、香澄は張り切って返事をする。

「二階を案内するよ」

 秋成が言って階段を上がり、香澄もついていく。

 二階には部屋が四つあり、傾斜のある屋根なので天上が高い。
 フロアの端が吹き抜けになっていて、一階には薪ストーブ、そして二階の天井にはシーリングファンがあり、暖かい空気を循環させる仕組みになっていた。

「俺と聡子の寝室は一階。そっちの部屋は和也くんで、こっちは真奈美ちゃん。香澄ちゃんはそっち」

 どうやら二階のホールを隔てて男女で分かれているようだ。

「最初にシェアハウスになっているとは言ったけど、婚約者がいる身なのに悪いね。部屋の鍵は掛かるようになっているから、それは安心して」

「いえ、気にしないでください! 皆従業員で仲間ですし、大丈夫」

 そりゃあ全員二十代で年齢は近いが、こんな近い距離感で犯罪行為が起こるはずもない。

「何かあったらすぐに教えて。御劔さんに顔向けできない事になったら困るから」
「分かりました」

 頷いたあと、自分の部屋と言われた空間を覗き込む。

「わあ、可愛い」

 部屋は六畳ほどでベッドにクローゼット、鏡のついたチェストに学習机がある。
 カーテンは柔らかな黄色のチェックで、女の子の部屋という感じがした。

「ここはもともと、娘の部屋だったんだ。成人して結婚したから、今はこうやって従業員に使ってもらっている」

 言われて、従姉妹の顔を思い出した。

「明美(あけみ)ちゃん、名古屋だったっけ」
「ああ、下の智恵(ちえ)は福岡だ」

 秋成は少し寂しそうな顔で笑う。
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