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第十部・ニセコ 編

希美との付き合い

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 最初は希美はとてもいい彼女でいてくれた。

 初めに「多忙だから頻繁にデートはできないし、最優先する事もできない」と断りを入れたが、「構いません。承知の上です」と言ってくれたので安心していた。

 だからその分、コネクターナウに連絡がちょくちょく入っていたのも、仕方のない事と思っていた。

 朝晩の挨拶に加え、「食事はこれでした」という写真。
 と言っても、彼女はその体型を維持するために、思わず体調を心配してしまうような食事しかしていなかったのだが。

 それから仕事をする前のメイクが終わったあとの自撮り。
 休日にも友人と遊んでいる時の写真を送ってきて、出張先で申し訳ない気持ちになりながら「楽しんで」とメッセージを送っていた。

 彼女がそうやって頻繁に連絡を送ってくるのは、自分が寂しくさせているせい。

 そんな負い目があったからこそ、佑は希美からの連絡をなるべく受け入れ、気がついた時には返事を送っていた。

 しかし付き合って一か月経った頃から、彼女のメッセージに不穏な感情が含まれるようになっていく。

『今週も会えないんですか?』
『また出張? 少し多すぎるんじゃないですか?』

 仕事で忙しいのは嘘ではない。

 Chief Everyの店舗は全世界にあるため、佑だって現場の空気を感じて責任者と話し合う必要がある。
 加えてChief EveryやCEPと、コラボした仕事をしたいと申し入れる企業は多々あり、そのためにNYやヨーロッパへ赴く事も多々あった。
 すべてがオンラインで済ませられるとはいえ、担当者の熱気や商品となる素材をこの目で直接確認しなくては、佑も承諾できない場合もある。

 出張は仕事だけでなく、その土地のセレブと会食をし、音楽コンサートやバレエなどを見て親交を深める事が必要な時もある。
 世界中の誰もが〝御劔佑〟を求めていて、彼のビジネス展開やクラウザー家との繋がりを得たがっている。

 煩わしい仕事ではあるのは確かだが、今後も仕事を拡大させていくために必要な事と割り切っていた。

 だからそれを、希美に「本当に必要なものなの?」と疑われ、自分の仕事や生き方を疑問視されるのはつらかった。

『ごめん。お土産、何でも好きな物を買っていくから』

 そう返事を打つと、希美は高価なブランドのバッグなどをほしがった。

 不機嫌にさせたお詫びと思って帰国してから渡すと、彼女は嬉しそうな顔で受け取って「高価な物を買ってきてほしいって言って、買って来てくれたら、私が拗ねた事や我が儘を許してくれた証拠だと思えるの」と泣いた。

 そのように、責めては泣かれて……を続けていくうちに、次第に希美と付き合っているのがつらく思えてきた。

 決定的だったのは、彼女のマンションにお邪魔して少し惰眠を貪っていた時、希美が佑のスマホを手に取っていた事だった。

「何してるんだ」

 疲れているものの、人前だと落ち着かなくてウトウトする程度だった佑は、彼女の行動に気付いて思わず咎めるような声を出してしまった。
 後ろめたい事は何もしていないので、スマホぐらい見られてもどうって事はない。

 だが自分が眠っている間に、こっそり見ようとするその神経を疑った。

 結局その時、希美は「浮気していないか不安だったから」と号泣し、それ以上の騒ぎになるのを避けたかった佑は「これっきり」として不問に付した。

 きっかけがあると、佑の不信感はどんどん増していく。

 寝る前に電話を受け取り、女と会っていないか疑われ、ネチネチと三十分近く責められる。
 疲れて早く寝たいのに、「私はこんなに佑さんを想っているのに」「私ばかりがつらい想いをして、佑さんは一人で楽しく仕事をして遊んでいる」となじられた。

 もともと恋人を欲していたのは、癒やされたかったからだ。

 ささいな事で一緒に喜んで、限られた時間でも笑い合って落ち着く事ができて、心身共に支え合い、お互いを元気の素とできる存在を求めていた。

 それが、希美と一緒にいると佑ばかりが責められ、気力も何もかも奪われていく。
 希美に寂しい思いをさせてしまっているのは事実だが、大人と言える年齢だし、佑の多忙さを理解してくれると思っていた。

 離れている間はそれぞれ仕事とプライベートを大切にし、デートできる時はお互いを求める。
 そういう、自立した大人の付き合いを求めていた。

 モヤモヤしながらも、佑は「希美を構えていない自分に非がある」と思って、別れを告げられずにいた。

 さらに、もう後戻りできない出来事があった。
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