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第十部・ニセコ 編

親友との再会

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 だが麻衣との待ち合わせはここなので、場所を変える訳にもいかない。

 普段佑と一緒に行動したり、基本的に車だったり、護衛が常についている弊害が今出ていた。

「その大きいバッグ重いでしょー。持ってあげるから一緒に行こう?」
「お姉さんいい匂いするねー。何か特別な香水でもつけてるの?」

 一人が香澄の首元で香りを嗅ぎ、ギョッとした香澄は慌てて距離を取った。

「やめてください! 本当にこれから人が来るので、一緒に行く事はできません。ごめんなさい。さようなら」

 ハッキリ言った時、赤い車がロータリーに入ってきた。
 麻衣の車だと理解した香澄は、「じゃあ!」と会釈をして小走りに車に駆け寄る。

「香澄ー」

 運転席から姿を現したのは、ぽっちゃり体型の親友だ。
 ボブヘアに、健康そうな丸い頬、笑うと優しそうな雰囲気がグッと増す目元。
 麻衣はテラコッタカラーのセーターに、グレンチェックのワイドパンツを穿いていた。

 大好きな彼女は何も変わっていないのに、服装のせいか記憶よりずっと垢抜けた感じがして、香澄は嬉しくなる。

「麻衣、久しぶりー」

 両手を広げてハグをすると「おっとっと」と彼女が苦笑する気配があった。

「あんた御劔社長と付き合ってて、随分挨拶がグローバルになったんじゃない? 荷物、トランクに入れなよ」

「うん」

 チラッと先ほどの二人を見ると、本当に待ち合わせ、しかも相手が車でやってきて諦めたようだ。
 荷物をトランクに入れて助手席に座ると、車が発進する。

「なーに、あんたナンパされてたの?」

 笑う麻衣に、香澄は「やめてよもー」と泣きそうになる。

「知らないよ。いきなり声掛けられたんだもん。怖いし距離が近いし、信じられない。私、二十七歳だよ?」
「触られなかった? 御劔さんキレるんじゃない?」
「……うー……」

「はい」とも「いいえ」とも言えず、香澄はうなる。

「ラーメン! ラーメン食べよ? こういう時は食べて晴らすに限る!」

 香澄の食欲に麻衣は笑い「どこ行く?」と言ったので、これから向かいたいラーメン屋の道案内をした。

「それにしても麻衣、随分感じが変わったね? お洒落になった」

 前は香澄と似た者同士で、それほどお洒落に気を遣っているという感じではなかった。
 それが今は髪をほんのり赤みのあるカラーに染めている。
 メイクもばっちりしていて、自分に似合う色を分かっている感じでとても似合う。

「そう? 気を遣いだしたから、そう言ってもらえて嬉しいな。ありがとう。香澄もどこのお嬢さん? っていうぐらい雰囲気変わったよ。だからナンパされたんじゃないの?」

「いやいやいや……。私はその、佑さんと付き合いだしての副産物というか……。気が付いたら至れり尽くせりで色々磨かれていたよ。本当にありがたいばかり」

 見慣れた西区の景色を目に、香澄は「まっすぐね」とナビをしてゆく。

「私もさ、何が原因? って言われたら、御劔社長なんだ」
「へ? ホント?」

 いきなり佑の名前が出て、香澄は運転席の麻衣を見る。

「香澄があの〝世界の御劔〟と付き合うなんて言い出すからさ、私も御劔社長のこと気になったわけ。で、御劔社長って何冊か本出してるでしょ? それを読んでいるうちに、なんだか勇気づけられてさ」

「あぁ……」

 佑はいわゆる経営者としてのビジネス本の他、ファッションについて伝えたい事を書いた本も出している。

 Chief Everyのアイテムや、老若男女様々な体型のモデルを使った写真が多くある、一人でも多くの人にお洒落を楽しんでもらうための本だ。

 自分が何を着たいかというイメージが明確にある人向けではなく、お洒落になりたいと思っているが、勇気が出ないしきっかけも分からないという人向けだ。

 背の高さや体型から、それぞれコンプレックスを上手く隠しつつお洒落を楽しめるコーディネートが何パターンも写真つきで載り、今流行りの着こなしをするためのテクニックも書かれてある。
 以前に双子が飯山たちにズバッと指摘したように、こうするとこう見えてしまうというNG例もある。

 佑が言うには「ファッションに決まりはないが、基本となる情報さえ押さえれば、誰でも垢抜けられる」との事だ。

 彼はもっと街がカラフルになり、生き生きと自分に自信を持った人に溢れ返って欲しいと願っている。
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