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第九部・贖罪 編
本当の恋のために
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午後もゆっくりとショッピングモールを歩き、終わったあとはお台場海浜公園で夕焼けを見た。
少し肌寒くなってきた海辺を歩き、双子と手を繋いで恋人のように歩く。
「……ねぇ、カスミ。どうして俺たちを許す条件がこの楽しくて堪らないデートなのかって、聞いてもいい?」
アロイスが尋ね、クラウスも興味津々という目で香澄を覗き込む。
――ちゃんと言わなくては。
そう思い、香澄は歩みを止めてやんわりと二人から手を離した。
一歩後ろに下がり、双子をまっすぐに見つめる。
「……私はお二人と知り合って、とても楽しくてポジティブで、素敵な人だなって思いました。たまにスキンシップが多すぎて戸惑う事もあったけれど、一緒にいて楽しくなる人だと思っています」
「ありがと」
「僕らもカスミと一緒にいられて、楽しいよ」
夕暮れの浜辺で、まるで愛の告白のようだ。
不意にそんな事を思い、香澄はクスッと笑う。
「そんな素敵なお二人が、……その、女性を取っ替え引っ替えしていると聞いて、『モテる人ってそうなんだな』と思うのと同時に、『好きな人一人に絞らないのかな?』とも思っていました」
「あー……」
双子は痛い所を突かれたという顔をし、顔を見合わせて肩をすくめる。
「ですが、それも原因があったと知りました。エミリアさんがとても焼きもち妬きで、自分のお気に入りの男性が他の女性を好きになろうとすると、邪魔をしてきたという話を聞きました。でもそれも、もう解決したんですよね?」
「あぁ、うん」
「僕ら本当に自由の身になったよ。……それは、犠牲になったカスミのお陰だと思ってる」
クラウスが歯切れ悪そうに言い、珍しく視線を逸らす。
「はい。それはいいんです。もう終わった事ですから。それを蒸し返したいんじゃないんです」
香澄はゆるりと首を振り、二人を安心させるように微笑む。
「もしその……、エミリアさんからの嫉妬から逃れられたのだとしたら、本気の恋ってする……んですか? って聞きたかったんです。札幌でバーテンダーの美里ちゃんに声を掛けましたよね? あれは本気ですか?」
「あぁ……」
香澄が言いたい事を察し、双子はまた顔を見合わせる。
「ミサトを好きになろうって思ったのは、カスミと属性が似ていたからっていう理由と、長年女の子を大勢見てきて、この子いいなって思ったっていう勘かな」
「そう。まだ本気でのめり込んではいないけど、じっくり落として二人で可愛がるのもいいなー……とは思ってる」
双子の答えを聞き、香澄は慎重に尋ねる。
「じゃあ、まだ気持ちは確定ではない……んですか?」
「そうだねー。俺たちとしても、いきなり長年の呪いを解かれて自由になった身だからね。本気の恋の仕方もほとんど忘れてるんだよ。自由に恋愛してもいい環境になって、突然すべてを捧げる燃える恋ができるかと言われたら……、俺たちとしても分からないな?」
アロイスの言葉のあとを、クラウスが続ける。
「そもそも僕ら、本気にならないように大勢と関係を持って上辺だけの付き合いをしてたからね。僕らに本気になる子たちも少しはいたけど、その気持ちに目を向けなかった。だから恋愛において相手の気持ちに、とても鈍感になっていると思うよ」
双子が自分たちの状況を冷静に説明し、香澄も納得する。
「……ですよね。そう説明されると私も『だろうな』って思います」
だからこそ、双子のややデリカシーに欠いた行動や言動も、納得がいく気がする。
誰を傷付けても構わないという、ある種やけっぱちになった感情が根底にあるからこそ、双子は誰にも気を遣わず生きてきたのだ。
大切な存在を作ってもどうせ奪われるのなら、誰も大切にしない。
彼らの生き方には、そんな悲しい諦めが透けて見える。
「……じゃあー……。これからゆっくり、普通に恋をしてみてください。人生を楽しんでくださいね?」
浜辺の風に髪をなぶられ、香澄が笑う。
「美里さんへの気持ちがまだ分からないのなら、焦る事もないと思います。ですが途中でやめる時は、彼女の気持ちも考えてきちんと理由を伝えてください」
「ん、分かった」
「カスミと同郷だしね」
「それでも本気で好きだと思った時は……。今日のデートみたいに、他の女性を見たりしない事。我が儘を言うかもしれないけれど、常識の範囲内でなら、多少は聞いてあげると喜ぶかもしれません」
「あ! あー……。それで!」
そこでようやく、双子は今日のデートの趣旨を理解したようだ。
少し肌寒くなってきた海辺を歩き、双子と手を繋いで恋人のように歩く。
「……ねぇ、カスミ。どうして俺たちを許す条件がこの楽しくて堪らないデートなのかって、聞いてもいい?」
アロイスが尋ね、クラウスも興味津々という目で香澄を覗き込む。
――ちゃんと言わなくては。
そう思い、香澄は歩みを止めてやんわりと二人から手を離した。
一歩後ろに下がり、双子をまっすぐに見つめる。
「……私はお二人と知り合って、とても楽しくてポジティブで、素敵な人だなって思いました。たまにスキンシップが多すぎて戸惑う事もあったけれど、一緒にいて楽しくなる人だと思っています」
「ありがと」
「僕らもカスミと一緒にいられて、楽しいよ」
夕暮れの浜辺で、まるで愛の告白のようだ。
不意にそんな事を思い、香澄はクスッと笑う。
「そんな素敵なお二人が、……その、女性を取っ替え引っ替えしていると聞いて、『モテる人ってそうなんだな』と思うのと同時に、『好きな人一人に絞らないのかな?』とも思っていました」
「あー……」
双子は痛い所を突かれたという顔をし、顔を見合わせて肩をすくめる。
「ですが、それも原因があったと知りました。エミリアさんがとても焼きもち妬きで、自分のお気に入りの男性が他の女性を好きになろうとすると、邪魔をしてきたという話を聞きました。でもそれも、もう解決したんですよね?」
「あぁ、うん」
「僕ら本当に自由の身になったよ。……それは、犠牲になったカスミのお陰だと思ってる」
クラウスが歯切れ悪そうに言い、珍しく視線を逸らす。
「はい。それはいいんです。もう終わった事ですから。それを蒸し返したいんじゃないんです」
香澄はゆるりと首を振り、二人を安心させるように微笑む。
「もしその……、エミリアさんからの嫉妬から逃れられたのだとしたら、本気の恋ってする……んですか? って聞きたかったんです。札幌でバーテンダーの美里ちゃんに声を掛けましたよね? あれは本気ですか?」
「あぁ……」
香澄が言いたい事を察し、双子はまた顔を見合わせる。
「ミサトを好きになろうって思ったのは、カスミと属性が似ていたからっていう理由と、長年女の子を大勢見てきて、この子いいなって思ったっていう勘かな」
「そう。まだ本気でのめり込んではいないけど、じっくり落として二人で可愛がるのもいいなー……とは思ってる」
双子の答えを聞き、香澄は慎重に尋ねる。
「じゃあ、まだ気持ちは確定ではない……んですか?」
「そうだねー。俺たちとしても、いきなり長年の呪いを解かれて自由になった身だからね。本気の恋の仕方もほとんど忘れてるんだよ。自由に恋愛してもいい環境になって、突然すべてを捧げる燃える恋ができるかと言われたら……、俺たちとしても分からないな?」
アロイスの言葉のあとを、クラウスが続ける。
「そもそも僕ら、本気にならないように大勢と関係を持って上辺だけの付き合いをしてたからね。僕らに本気になる子たちも少しはいたけど、その気持ちに目を向けなかった。だから恋愛において相手の気持ちに、とても鈍感になっていると思うよ」
双子が自分たちの状況を冷静に説明し、香澄も納得する。
「……ですよね。そう説明されると私も『だろうな』って思います」
だからこそ、双子のややデリカシーに欠いた行動や言動も、納得がいく気がする。
誰を傷付けても構わないという、ある種やけっぱちになった感情が根底にあるからこそ、双子は誰にも気を遣わず生きてきたのだ。
大切な存在を作ってもどうせ奪われるのなら、誰も大切にしない。
彼らの生き方には、そんな悲しい諦めが透けて見える。
「……じゃあー……。これからゆっくり、普通に恋をしてみてください。人生を楽しんでくださいね?」
浜辺の風に髪をなぶられ、香澄が笑う。
「美里さんへの気持ちがまだ分からないのなら、焦る事もないと思います。ですが途中でやめる時は、彼女の気持ちも考えてきちんと理由を伝えてください」
「ん、分かった」
「カスミと同郷だしね」
「それでも本気で好きだと思った時は……。今日のデートみたいに、他の女性を見たりしない事。我が儘を言うかもしれないけれど、常識の範囲内でなら、多少は聞いてあげると喜ぶかもしれません」
「あ! あー……。それで!」
そこでようやく、双子は今日のデートの趣旨を理解したようだ。
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