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第九部・贖罪 編

乖離する体と心 ☆

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 胸元が濃い赤色でいっぱいになる頃、香澄は佑の指によって何度も絶頂を味わっていた。

「……これで明日、あいつらとデートするの許そうか」

 胸元いっぱいについたキスマークを見て、佑が悪辣に笑う。
 そんな表情すら、好きで堪らない。

「……ゆるして……くれる?」

 濡れた手で佑の髪を撫で、わざと彼の耳に色めいた声を囁き込んだ。

「……香澄がバックでさせてくれるなら」

 クリュ……と弱点を指で擦り、佑が目を細める。
 はふ……はふ、と呼吸を整えた香澄もとろけた顔で微笑み、佑にキスをしてから腰を上げた。

「ん……」

 浴槽の中で立ち、香澄は縁に手を掛けて壁を向く。

 少し俯くと、自分の胸元に佑の所有印がたくさん刻まれているのが見える。
 勲章でももらったような気持ちで誇らしげに微笑み、佑が挿入しやすいようにお尻を突き出した。

「入れるよ」

 香澄のお尻を両手で撫で回していた佑が、片手で腰を支え、片手を自身の屹立に添えて先端を蜜口に押しつける。

「ん……きて……」

 壁を向いて期待で胸をドキドキさせていると、今は佑の事で頭が一杯のはずなのに、なぜだかマティアスの顔がふぅっと浮かび上がった。

「――――」

 何とも言えない気持ちになった時、ずにゅうっと佑が侵入してくる。

「……っは、――ぁ、あ、…………ぁ、おっき……ぃ」

 唇をわななかせ、香澄は目を閉じて佑を蜜壷で味わう。
 脳裏に浮かんだマティアスの顔を、心の中で頭をブンブンと振り追い払った。

「きつ……。ヌルヌルだ」

 佑の気持ちよさそうな声が嬉しい。

 ヌルヌル――、していた。
 自分のお腹にかけられた、マティアスの精液も。

「……ぅ……んっ」

 香澄はゆるく首を振り、雑念を追い払おうとする。

「動くぞ」

 佑がゆっくりと腰を送り始め、クチュクチュと蜜が掻き混ぜられる音がし始める。
 気持ちいい場所を先端が擦り、押し上げてくる。

「ん……っ、ぁあ、あ……っ、いぃ、きもち……っ」

 ――ゾクゾクする。

 けれどそれは、素直に喜べる感覚ではなかった。

 佑に愛されて感じているからか、不愉快な記憶で体が震えているのか、どちらか分からない。

 ヌチュグチュという淫音も、いつもなら自分が彼の愛の行為に感じている音だと思え、よりいっそう感じた。
 それなのに今は他人事のように思え、どこか遠くで聞こえているようだ。

「あ……っあ、ぁあ、ああ、あ、あ、んっ、……ぁ」

 嬌声を上げていても、わざとらしく感じる。

 ――集中できない。
 ――申し訳ない。

 俯いたまま目を開くと、浴槽の縁にしがみついている自分の手が見えた。

 ――あの時。

 ――自分で自分の蜜口に触れて、濡れているかどうかを確かめた。
 ――濡れていた。

 ――いま佑に感じてこんな恥ずかしい音が出ているのは、感じてたっぷり濡れているから。
 ――じゃあ、あの時も自分は眠りながらマティスに感じていた?

 そこまで考えて、香澄はギュッと目を閉じた。

 ――考えたくない。
 ――なにも、考えたくない。

「……香澄?」

 佑が上体を倒して耳元で囁いてくる。
 たぷたぷと胸を揉み、香澄の快楽を促すように乳首の先端をなぞった。

「ん……っ、きもち……よ」

 小さくかすれた声で返事をすると、タン……と腰が一度ぶつかり、佑が動きをとめた。

「……気持ち良くないなら、やめようか。無理にしたくない」
「え……っ? やだ、大丈夫だよ? なに……何言ってるの?」

 心を見透かされた気持ちになり、ドキッと心臓が跳ね上がった。

 けれど中途半端にされるのも嫌で、気持ちがバラバラのまま佑に続きをねだる。

 だが佑はズルリと屹立を引き抜き、微かに溜め息をつく。

「…………っ」

 その〝失望させてしまった〟という感覚が、香澄の心にぞあっと凄まじい恐怖と不安を呼んだ。
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