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第九部・贖罪 編
東京観光
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「うーん……。まだ詳しくは考えていないけど、香澄が行きたいならどこにでも。ランドに泊まりがけでもいいし、温泉にリベンジしてもいいし。どこか国内の都市に行ってゆっくりしてもいいし」
双子に聞かれないよう、佑が小声で言うのがおかしくて堪らない。
「ふふ、楽しみにしておくね。でも佑さんの誕生日の時に、ドイツで骨折しちゃって、何もできなかったのにごめんね?」
佑の誕生日は六月三十日で、ちょうどドイツで交通事故に遭った時だ。
言ってみればエミリアに台無しにされたのだが、香澄は交通事故の真相を知らない。
「香澄が生きていてくれるだけで、この上ないご褒美なんだ。何も気にする事はないよ」
イギリスでのあの惨憺たる事件を、当の香澄は覚えていない。
香澄は佑がは交通事故の事を言っていると思い、やんわりと微笑んだ。
「大丈夫だよ。私、そう簡単に死ぬほど美人じゃないもの」
〝美人薄命〟になぞらえて冗談を言ったのだが、佑は悲しげに表情を歪ませたかと思うと、ギュッと抱き締めてきた。
「……ったすくさ……っ?」
息が詰まるほど強く抱かれ、香澄は半ば放心する。
佑は何度も「香澄」と呟き、腕の中の存在を確かめるように彼女の髪を撫で、匂いを嗅いだ。
「ど……したの? 何か……変、……だよ?」
その声に、佑も我に返った。
「……ごめん」
名残惜しそうに腕が離れ、最後に指の背がスルリと香澄の頬を撫でた。
彼はもとの体勢にもどったと思ったが、シートの上で小指が香澄の小指に絡んでくる。
その愛情表現に、香澄は嬉しさを感じると同時にどこか違和感も覚えた。
まるで何かに怯え、何者かに香澄を攫われないよう必死に捕まえているようにも思える。
(……私、何かしたっけ……?)
自問しても思い当たる事はない。
心配は常に掛けてしまっているかもしれないが、こんなに必死になるほどの事ではない気がする。
マティアスに犯された――ように見えた事件や、佑に黙ってイギリスに行き心配を掛けてしまった事。
それらが理由なのは分かっているが、それももう解決しているし、アドラーたちが関わった事への責任も今日取ってもらい、解決したはずだ。
(家に帰ったら、甘えるふりをして聞き出してみようかな)
我ながらあくどい事を考えつつ、香澄も佑の小指にきゅっと指を絡ませた。
**
スカイツリーや浅草寺など有名な観光所をまわると、モデルのような外国人男性三人と御劔佑の姿を見て、女性たちがざわついた。
香澄も「しまったな」と内心思ったのだが、護衛もいるので警護は任せる事にする。
それでもサングラスをしているとは言え、佑や双子、マティアスが見世物のようにスマホで写真を撮られている姿を見ると、申し訳なくて堪らない。
おまけにミーハーな言葉も飛び込んでくる。
「何かの撮影かなぁ? すっごい迫力イケメン……」
「見て! ナマ御劔様! やっぱり格好いい~! 結婚してほしい!」
「テレビや雑誌で見るより背が高いよね。それにスーツ着てるのにすっごいいい体してるって分かる! 抱かれたい!」
「隣にいる外国人の人、友達かなぁ? あっちもいい男ぉ」
「誰でもいいからあの四人の誰かに抱かれたーい」
「私も! 愛人でもいいから囲ってほしい」
本人が目の前にいるというのに、そんな言葉がポンポンと耳に飛び込んでくる。
(私、婚約者なんだけどなぁ……)
聞いている香澄は立場がなく、いたたまれなくなる。
隣に〝女〟がいると思われてはいけないと思い、香澄は秘書モードの雰囲気を発して一歩遅れた位置を歩く。
すると、振り向いた佑にグイッと手を引っ張られた。
「どうして隣を歩かないんだ?」
「いえ……あの」
その途端、周囲からキャアッと悲鳴が聞こえたが、佑は一向に構っていないようだ。
「香澄は俺の婚約者なんだから、堂々と隣を歩いていればいいんだよ」
「う……うん」
「そうそう。僕らとも親戚になるんだしね?」
反対側にクラウスがつき、香澄の肩を抱こうとして佑に手を叩かれる。
『フラウ・カスミ。あの煙はなんだ?』
マティアスが前方にある浅草寺の常香炉を指差し、不思議そうに煙を浴びている人々を見る。
双子に聞かれないよう、佑が小声で言うのがおかしくて堪らない。
「ふふ、楽しみにしておくね。でも佑さんの誕生日の時に、ドイツで骨折しちゃって、何もできなかったのにごめんね?」
佑の誕生日は六月三十日で、ちょうどドイツで交通事故に遭った時だ。
言ってみればエミリアに台無しにされたのだが、香澄は交通事故の真相を知らない。
「香澄が生きていてくれるだけで、この上ないご褒美なんだ。何も気にする事はないよ」
イギリスでのあの惨憺たる事件を、当の香澄は覚えていない。
香澄は佑がは交通事故の事を言っていると思い、やんわりと微笑んだ。
「大丈夫だよ。私、そう簡単に死ぬほど美人じゃないもの」
〝美人薄命〟になぞらえて冗談を言ったのだが、佑は悲しげに表情を歪ませたかと思うと、ギュッと抱き締めてきた。
「……ったすくさ……っ?」
息が詰まるほど強く抱かれ、香澄は半ば放心する。
佑は何度も「香澄」と呟き、腕の中の存在を確かめるように彼女の髪を撫で、匂いを嗅いだ。
「ど……したの? 何か……変、……だよ?」
その声に、佑も我に返った。
「……ごめん」
名残惜しそうに腕が離れ、最後に指の背がスルリと香澄の頬を撫でた。
彼はもとの体勢にもどったと思ったが、シートの上で小指が香澄の小指に絡んでくる。
その愛情表現に、香澄は嬉しさを感じると同時にどこか違和感も覚えた。
まるで何かに怯え、何者かに香澄を攫われないよう必死に捕まえているようにも思える。
(……私、何かしたっけ……?)
自問しても思い当たる事はない。
心配は常に掛けてしまっているかもしれないが、こんなに必死になるほどの事ではない気がする。
マティアスに犯された――ように見えた事件や、佑に黙ってイギリスに行き心配を掛けてしまった事。
それらが理由なのは分かっているが、それももう解決しているし、アドラーたちが関わった事への責任も今日取ってもらい、解決したはずだ。
(家に帰ったら、甘えるふりをして聞き出してみようかな)
我ながらあくどい事を考えつつ、香澄も佑の小指にきゅっと指を絡ませた。
**
スカイツリーや浅草寺など有名な観光所をまわると、モデルのような外国人男性三人と御劔佑の姿を見て、女性たちがざわついた。
香澄も「しまったな」と内心思ったのだが、護衛もいるので警護は任せる事にする。
それでもサングラスをしているとは言え、佑や双子、マティアスが見世物のようにスマホで写真を撮られている姿を見ると、申し訳なくて堪らない。
おまけにミーハーな言葉も飛び込んでくる。
「何かの撮影かなぁ? すっごい迫力イケメン……」
「見て! ナマ御劔様! やっぱり格好いい~! 結婚してほしい!」
「テレビや雑誌で見るより背が高いよね。それにスーツ着てるのにすっごいいい体してるって分かる! 抱かれたい!」
「隣にいる外国人の人、友達かなぁ? あっちもいい男ぉ」
「誰でもいいからあの四人の誰かに抱かれたーい」
「私も! 愛人でもいいから囲ってほしい」
本人が目の前にいるというのに、そんな言葉がポンポンと耳に飛び込んでくる。
(私、婚約者なんだけどなぁ……)
聞いている香澄は立場がなく、いたたまれなくなる。
隣に〝女〟がいると思われてはいけないと思い、香澄は秘書モードの雰囲気を発して一歩遅れた位置を歩く。
すると、振り向いた佑にグイッと手を引っ張られた。
「どうして隣を歩かないんだ?」
「いえ……あの」
その途端、周囲からキャアッと悲鳴が聞こえたが、佑は一向に構っていないようだ。
「香澄は俺の婚約者なんだから、堂々と隣を歩いていればいいんだよ」
「う……うん」
「そうそう。僕らとも親戚になるんだしね?」
反対側にクラウスがつき、香澄の肩を抱こうとして佑に手を叩かれる。
『フラウ・カスミ。あの煙はなんだ?』
マティアスが前方にある浅草寺の常香炉を指差し、不思議そうに煙を浴びている人々を見る。
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